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連載

【第22回】こだわる道具こだわらない道具

文・写真

三橋理恵子

みつはし・りえこ

園芸研究家。一年草・多年草をタネから育てる研究をしている。著書に『三橋理恵子の基本からよーくわかるコンテナガーデン』(農文協)、『イラストで学ぶ、はじめてのガーデニング』(角川マガジンズ)などがある。


※タネのまき時などは神奈川県横浜市における栽培に基づいて記載しています。

【第22回】こだわる道具こだわらない道具

2016/10/25

園芸道具はいろいろあるが、私の場合は種類によって、こだわりのあるものとないものにはっきり分かれる。
基本ツールともいえるスコップやシャベルは、こだわらない部類に入る。特に100円ショップのカラースコップは、軽くてサイズが手にぴったり合うのでよく使う。おもちゃみたいなミニスコップも持っていて、これは雑草を抜いたり、苗を定植する時に表面の土を押さえたり、ならしたりするのに使う。半面、しっかりとした作りのイギリス製のものは、深く土に侵入した根を取り除いたり、土を深く掘りたい時に出番があるくらいだ。
もうひとつ、こだわらないものがガーデングローブ。プリント柄のものや、バラ用の革手袋もあるが、ふだん使いは軍手。1回使っては新しいものに取り換えられる手軽さがいい。女性用のものもあって、しっくり手になじむ。

(1)100円ショップのスコップにはカラフルなものも。軽くて使いやすいので愛用しています(2)庭に出る時に持っていく軍手は、日々取り換えて使うのでたくさんストックしています(3)革のグローブは出番が少ないのですが、バラの剪定などの時に重宝します(4)イギリスで買ったスコップは丈夫なので、深く侵入した根を掘る時などに役立ちます

もちろん、こだわりをもっている道具たちもたくさんある。私は日々使う日用品類も使い捨てにするのが嫌で、特にキッチン用品は一生使えるものを選ぶタイプだ。園芸道具の中で一番にこだわるのはハサミ。私の庭は一年草などの草花が中心なので、花がらを摘んだり草を切ったりする先の細い小型のハサミが日々活躍する。庭に出る時は、軍手とハサミとゴミを入れるためのビニール袋の3つを必ず持って行く。

長くクラフトハサミを使っていたが、だんだん切れ味がわるくなって、切れないハサミばかり道具入れに増えていった。よいハサミがないか探していた時、ある百貨店で開催されていた伝統工芸展に熊本の刃物屋さんが出店していた。そこでサツキバサミと名のついた鉄製のハサミを買った。その刃物屋さんは年に数回、出張してくるので、切れなくなると持って行って研いでもらう。それからというもの、「切れないハサミ」の悩みとは無縁になった。
ハサミを使うと、小気味よい金属音が静かな住宅街に響く。オイルをしみこませた布や新聞紙で時々磨くと、ツヤが出てますますいい感じになる。
庭の枝を切る剪定バサミも3本あって、それぞれ枝の太さにより使い分けている。一番太い枝を切るハサミは、ガーデンショーに出店していたドイツのメーカーのもの。3000円くらいだったが、頼りになる一本として長く活躍している。

(1)バラや木々の剪定に使う剪定バサミたち。これで扱えない太い枝は剪定ノコギリを使います(2)鉄製の小さなハサミは、ミニトマトの収穫やペチュニアの花がらを摘んだりするのに便利です(3)ステンレスのクラフトハサミは手軽ですが、切れ味はだんだんわるくなります(4)どちらも鉄製で、細い茎や花がら摘みに日々大活躍。一生ものとして大切にしています

ジョロもなくてはならない道具。私は主にイギリスのHAWS社のものを愛用している。去年はブリキ製の赤いジョロも買った。だが購入してすぐ、我が家の猫が気に入って、水飲み用として居間に置いている。1日1回水替えの時だけ、庭に持ち出して水やりに使う。容量は4Lほどだが、ブリキ製なので少し重たい。ジョロは買う時に収納場所のことを真っ先に考えてしまう。屋外に置いて雨ざらしにすると劣化しやすいので、私はお風呂場の洗濯機の上部に棚を作って置いている。
タネのまき床や苗、室内の観葉植物の水やりには、小さな水差しが断然便利だ。こちらもHAWS社製で、容量1Lのものを長く愛用している。以前はサカタのタネのガーデンセンター横浜でもたくさん売られていたが、今は廃番になっている。もうひとつ、もう長く愛用している水差しは、100円ショップで買ったもの。白くてなんの変哲もないが、フォルムが優れていて水やりがしやすい。

(1)HAWS社のブリキ製のジョロ。4Lくらいのサイズ。ふだんは室内に置いて猫の水飲み場にしています(2)我が家の水差し。室内に置いているので傷みが少なく、もう長年愛用しています(3)これもHAWS社のジョロ。ふだん使いにはこちらのプラスチック製の方が、軽くて機能的です

散水ホースは、庭の景観にかかわる道具なので、こだわりたい道具のひとつだ。私はブルーシートの色と同じブルーのホースは、庭にはなじまないと思う。今の家に越した時に真っ先に買ったのが青銅製のタイプ。庭側と玄関側でそれぞれ使っている。外に置くものなので劣化しやすいが、ホースやノズル、留め具などの部品はメーカーから購入している。あとから部品を調達できることも長く使うためには大切だ。

ガーデニングの本場イギリスでは、園芸グッズも充実している。日本のものと比べて作りがしっかりした重厚なものが多い。旅行した時に探すのも楽しみだが、最近はよくイギリスに出張する夫のお土産品が多い。ちょっと変わったものでは、黄色いスティック状の道具がある。コンテナに植物を寄せ植えする時に、土を隙間なく詰め込むためのもの。日本なら割り箸を使うところだが、これも案外便利で長く使い続けている。

(1)いつもガーデンバッグに入れている水準器。花壇や芝生の植え込みなどは、水平が保たれていると美しく見えます(2)昔、イギリスで買った、鉢や根の隙間に土を詰めるためのスティック。色はあせても健在です(3)庭で使うものがひと通り入っているガーデンバッグ。肥料なども小瓶に移して入れてあります(4)長年使っているホースリール。ホースの滑りがよく使いやすいだけでなく、デザイン性にも優れています

ハサミをはじめ、よい道具は作る方もこだわりをもっているので高価なことが多い。しかし、消耗品として次々に買い替えるより、一生ものと考えればトータルでは高くないこともある。長く使えば愛着がわくし、道具へのこだわりも趣味のうち。姿形がよく、手にしっくりとなじみ、使いやすい道具を探すのは楽しい。

次回は「草花と草丈」を取り上げる予定です。お楽しみに。

JADMA

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