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連載

【第20回】暑い夏もへっちゃらな植栽を考えよう

文・写真

加地一雅

かじ・かずまさ

株式会社エクステリア風雅舎代表。1987年、苗の育成から個人邸の庭のデザイン、施工、メンテナンスまで行う風雅舎を設立し、現在に至る。草花が自然風に咲くナチュラルガーデンを啓蒙、普及されるべく奮闘中。


執筆者の加地先生は2017年12月にご逝去されました。謹んでお悔やみ申し上げます。皆様の園芸知識向上にこの連載を役立ててほしいとのご家族様のご意向から、文章はご執筆当時(2016-2017年)のまま継続して掲載をさせていただくことになりました。時代を感じさせる部分があるとは思いますが、お含みおきの上ご覧ください。

【第20回】暑い夏もへっちゃらな植栽を考えよう

2017/08/08

暑い夏も植物選びや見せ方を工夫すれば、ずいぶんと魅力的な、しかも暑さにへっちゃらで、管理もしやすい一石二鳥(三鳥)の植栽が実現可能です。ポイントを押さえて、暑い夏でもしっかり楽しめる植栽をお試しください。

イラスト:ハンダタカコ

-ポイント1-暑い夏は葉物に注目

個性豊かな葉物を使いこなして、秋まで楽しもう

コロカシア、イポメア、コリウスなど葉物が半分程度を占めている真夏のボーダーです

暑い夏に咲く花も最近では結構出回るようになりましたが、観賞の対象を葉に移すと、魅力的で耐暑性もしっかりある葉物も種類が増えてきて、夏の植栽では特に注目です。葉物は株全体が観賞できるので、花物より圧倒的にボリューム感があります。そして、暑い夏はもちろん、秋まで長い期間楽しめます。管理も花を咲かせるより、はるかに楽です。

上の写真をご覧ください。葉物が半分程度を占めている真夏のボーダーで、黒っぽい葉や黄色い葉がインパクトを与え、真夏の強い日差しにもよく映えます。葉物がたくさん入ることによって、管理がずいぶんと楽になります。

コロカシアは縦に伸び、イポメアは横に低くはい広がり、コリウスは程よい高さでこんもり茂るので、それぞれの役どころを上手に使い分けると、ボリューム感あふれる見応えのあるボーダーが、猛暑の夏でも出来上がります。

真ん中のコンテナには手前にコロカシア「ブラックマジック」、奥にペニセタム セタケウム ルブラム、両側のコンテナの紫葉はトラディスカンティア パリダ プルプレアを植えています

上の写真はコンテナに夏の葉物を効果的に植栽した例です。真ん中にはコロカシア「ブラックマジック」を手前に、奥にペニセタム セタケウム ルブラムを配しています。両側のコンテナの紫葉はトラディスカンティア パリダ プルプレアです。いずれも主役を演じ、重要な役割を果たしています。遠目にもインパクトがあります。

葉物といっても耐寒性のあるものとないものとあり、多くは熱帯圏原産の耐寒性のないものを、夏だけ使うケースがほとんどです。これからはご紹介する耐寒性のあるものを場所によって上手に使い分けると、夏のみならず、他の季節も楽しめる植栽ができ、庭にきれいな空間が増えることでしょう。

グラスの仲間でチャスマンティウム「リバーミスト」、別名 斑入りワイルドオーツといいます

上の植物はグラスの仲間でチャスマンティウム「リバーミスト」といいます。夏から秋にかけて、縦じまの入った葉とたくさんの小さな穂をぶら下げて、なんとも涼しげです。耐寒性のある本種は、冬に地上部は枯れますが、毎年春には芽吹き、冬寒いところでもしっかり越冬するので、植えっ放しの永年栽培が可能です。夏の植栽なので、熱帯系の葉物を使うことが多いですが、耐寒性宿根草を使うのも一つの手だと思います。

下の植物はカレックス「スパークラー」といいます。こちらは年中常緑で、特異な形の葉をずっと楽しめます。暑さも寒さも平気なオールマイティーな葉物です。場所が合うと年々大株になり、存在感を発揮します。

耐寒性宿根草で年中常緑のカレックス「スパークラー」といいます

-ポイント2-暑い夏こそ見せ方にひと工夫

効果的にコンテナを使って、管理を省力化しよう

木製手押し車にペチュニア「メロンパン」とルブス「サンシャインスプレンダー」を寄せ植えしています

夏は暑くて暑くて、水やりなど花の世話もおっくうになる、という方は結構いらっしゃると思います。解決方法として、夏は世話をする面積を抑えて、見せるべきところに見せたい植物を集中して植えて、夏の管理のボリュームを少なくする方法が考えられます。コンテナを使ったり、既存の植栽の一部を夏の植栽にするなど、いくつかの方法があります。

上の写真は木製手押し車をコンテナにして、共に暑さに強く、夏のみならず秋まで楽しめる寄せ植えです。このようなオブジェとして見せる方法は、視点が一点に集中するので、かなりアイキャッチ効果が高いです。

アメリカハナミズキや黄金葉のユキヤナギなどの樹木を中心に、その周りにヤブランなどの常緑性グラウンドカバーが植わり、外側の一部にペチュニアやアンゲロニアなど夏の暑さに負けない一年草を植えています

上の歩道に設けられたレンガタイル張りの緑地スペースは、植栽全体は広さがありますが、元々の植栽の緑を大きく活用して、一部のみ夏を感じられる一年草を取り入れ、少しの夏の一年草の植栽でも効果が発揮できるように工夫しています。元々の植栽を生かすことによって、植え替えや世話のかかる一年草を最小面積で効果的に見せるこの方法は、いろいろな場面で応用が利くと思います。しかも、手間も費用も抑えられます。

下の写真は小屋にコンテナを配置していますが、大型コンテナは土の容量が大きく、夏の植栽には打ってつけです。大型コンテナは一度水やりをすると、結構水分をキープするので、水やりが楽になり、植物もよく根が張って大きく元気に育ってくれます。また、コンテナはそこだけを管理すればよいので、手入れの量が少なくて済むメリットがあります。

小さな小屋に大きなコンテナをレイアウトしています。ダリアやイポメア、コリウスなど夏にぐんぐん育ち、見栄えのするものばかりです

暑い夏は頑張らない。かといって何もしないと、殺風景で寂しい限りです。既存の植栽に少しだけ夏の草花を植え足したり、よく見えるところにコンテナを置いたりするだけで、夏を感じたり、潤いのある空間ができます。一度お試しください。かなり効果があることを発見すると思います。

-ポイント3-暑くてもホットにもクールにも自在に演出

ホットカラー、クールカラー、気分に合わせて試してみよう

上の赤花はベゴニア「ドラゴンウィングレッド」、下の赤花はクフェア「タイニーマイス」と赤でまとめた植栽です

暑い夏だから強い日差しに負けないトロピカルなホットカラーで夏を演出する、これは夏の定番の演出法です。これとは反対に、暑い夏だからクールカラーを使ってクールダウンして、少しでも涼しさを感じるという演出法もあります。どちらを選ぶかはそのときの気分次第かもしれません。

いずれにせよ夏の暑さに平気な植物には、両方の色のものが存在しますので、夏の演出法はどちらかに決めた方が、デザインしやすいと思います。植物が成長し、花が咲いてきたとき、色彩がかくも人の心理に影響するのかと痛感すると思います。

上の写真はホットカラーの赤でまとめた植栽です。ベゴニア「ドラゴンウィングレッド」はタネから育てるタイプです。茎は木立ち状に何本も立ち上がり、夏の暑さをものともせず、いっぱい花を咲かせ続けてくれます。クフェア「タイニーマイス」も暑さは全く平気です。比較的小花なのでベゴニアの花と程よくバランスを取ってくれます。

イレシネの赤い葉とサルビア「ウィッシュシリーズ」の赤花の組み合わせです

上の写真もホットカラーの組み合わせ例です。イレシネは熱帯植物で暑さにはめっぽう強く、サルビアも暑さに負けず咲き続けてくれます。夏は赤い葉物が結構あるので、それらと赤い花を付ける花物と組み合わせると、夏らしいホットな赤が強調された植栽が出来上がります。

一方、下の写真は暑い夏を涼しく感じさせるクールカラーでまとめたボーダーです。暑い夏だから、ことさら涼しく感じたいと思うときがあると思います。そのときは白やブルーなど寒色をベースに、明るいレモンイエローなどを加えると、涼しげな空間が出来上がります。

真ん中の黄葉はコリウス「ワサビ」、白花はマリーゴールド「ホワイトバニラ」、手前の水色の花はサルビア ウリギノサです

最後に珍しい、涼しげな植物をご紹介します。下の写真は斑入りのオオケタデで、葉の白い斑がなんとも涼しげ、花も薄いピンクでこちらも涼しげです。かなり大型に育つので涼の演出の主役に使えるでしょう。全体的に野性味を感じられる植物なので、ナチュラルさを演出するのにも役立ちます。

暑い夏の植栽はあきらめムードがあちこちに漂っています。しかし、暑さもへっちゃらな植物はたくさんありますし、色彩デザインを工夫すれば見違えるような空間が出来上がります。そして夏の植物はほとんどが秋まで楽しめるので、ぜひともチャレンジして暑い夏でも楽しめるのだ、ということを実感していただけたらと思います。

珍しい斑入りのオオケタデです。白い斑も、薄いピンクの花も涼しげです

次回は「球根植物を使いこなそう」を更新予定です。お楽しみに。

JADMA

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