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連載

【第21回】球根植物を使いこなそう

文・写真

加地一雅

かじ・かずまさ

株式会社エクステリア風雅舎代表。1987年、苗の育成から個人邸の庭のデザイン、施工、メンテナンスまで行う風雅舎を設立し、現在に至る。草花が自然風に咲くナチュラルガーデンを啓蒙、普及されるべく奮闘中。


執筆者の加地先生は2017年12月にご逝去されました。謹んでお悔やみ申し上げます。皆様の園芸知識向上にこの連載を役立ててほしいとのご家族様のご意向から、文章はご執筆当時(2016-2017年)のまま継続して掲載をさせていただくことになりました。時代を感じさせる部分があるとは思いますが、お含みおきの上ご覧ください。

【第21回】球根植物を使いこなそう

2017/09/12

球根植物はことに季節を強く表現してくれる植物です。小さなころから慣れ親しんだ春のチューリップやスイセン、真夏のカンナ、秋のダリアなど今一度見直して、植え方や見せ方をひと工夫してみたら、想像もつかない、思いがけない空間が広がると思いますよ。

イラスト:ハンダタカコ

-ポイント1-春らんまんの季節には球根植物が大活躍

待ちわびた春の訪れを球根植物の芽吹き、開花で表現してみよう

イギリスにあるウィズリー ガーデン(RHS Garden Wisley)の芝生の広場に植えられたクロッカスです

長く寒い冬から解放されて暖かい春がやってくると、気分も爽快になって、花が咲き乱れる春らんまんの風景に浸りたいものです。春に咲く球根植物は、春に咲く風景を想像しながら秋に植え込みます。寒い冬の間も少しずつ根を張って、春先には地面に少し芽を出して、気温の上昇と共に一気に咲きます。

春を代表するチューリップ、スイセン、クロッカス、ムスカリなどいずれもたくさんの品種があり、その分、色の変化もあって自分好みの植栽ができます。上の写真はクロッカスの群植です。クロッカスは春の始まりを告げる球根植物です。ここでは紫、白、絞りの3色を芝生一面に展開し、見事な風景をつくりだしています。

落葉樹を中心に植えた雑木林に植え付けたスイセンです。明るい黄色の花はしっかり春を満喫させてくれます

上の写真はスイセンを群植した例です。スイセンは落葉樹の葉が展開する前に咲いてくれるので、明るい日差しの下で咲く風景を見られます。スイセンは明るい黄色系の品種が多いので、群植してたくさん咲かせると、春をしっかり満喫できます。スイセンは年を越すと咲かなかったり、消えてしまう品種があるので、毎年植え足した方がよいでしょう。

下の写真は、チューリップが春を謳歌(おうか)している風景です。黄色系を基本色として数十球単位で植えると、こんな風景が展開します。もともとは黄色やオレンジ色系の一年草を先に植え込み、後にチューリップを植え込んでいます。チューリップの花がない前後の季節も一年草が咲き続け、華やぎをキープし続けます。

チューリップの黄色系を基本色として数十球単位で植え付けると、春を謳歌するような風景が展開します

チューリップは華やぎを演出するだけではありません。下の写真のようにシックな渋い花色の品種もあり、落ち着いた空間も演出できます。

春らんまんの演出に球根植物を使うには、演出効果の大きい場所に、最低でも数十球単位で、広さによっては数百球単位で植え付けたいものです。春咲き球根植物は、それ自体スペースを取るわけではありませんので、密に植え込んでも周りの植物に大きく影響しません。何より開花期間が短い分、たくさん咲かせて群植美を楽しんだ方が、感動が違うと思います。

黒花はチューリップ「カフェノアール」、小豆色の八重咲きは「ドリームタッチ」、奥の明るい茶色がかった花は「ブラウニー」です

-ポイント2-夏は熱帯・亜熱帯系を、秋は秋の風情のある球根植物を使ってみよう

夏には夏の、秋には秋の植えっ放しで咲く、うれしい球根植物がいっぱい

ダリア「シティ オブ アルカマー」と後方に銅葉のカンナが植わっています

梅雨を境に春とはうって変わって、日本の夏は熱帯のような気候に変化します。温帯気候の植物たちは暑さをしのぐのがやっとですが、熱帯、亜熱帯が原産地の植物はがぜん元気に育ってくれます。球根植物も熱帯・亜熱帯圏が原産地のものは、高温多湿が大好きで、株もどんどん大きく育つものが多いです。

カンナはその代表格で暑さはものともせず、大きく元気に育ってくれます。葉も斑入りや銅葉もあり、存在感を発揮してくれます。下の写真のような大型のカンナもあれば、花色、葉色、草丈の異なる品種もありますので、場面によって使い分けるとよいでしょう。関東以西であれば地上部は枯れますが、軽いマルチング程度で、地植えで越冬します。

銅葉でオレンジ花の大型のカンナです。真夏の炎天下にもよく映えるシンボルプランツです

下の写真はコロカシア「ブラック マジック」です。コロカシアはサトイモ科の球根植物で熱帯圏ではタロイモの名で知られています。こちらは大きな葉を展開し、遠くからでもよく目立ち、夏の強い日差しによく映えます。暑さは全く平気です。冬は球根状態で、屋内で越冬させます。

コロカシア「ブラック マジック」です。強い日差しほど発色がよく、他のトロピカル系の原色の花や葉とも相性がよいです

秋ともなればダリアが本領を発揮します。ダリアは春に発芽して6~7月に咲き始めますが、すぐに真夏の炎天がやってくるため、真夏は切り戻して株を小さくして越夏させます。9月になって涼しい風が吹き始めると、急に元気を取り戻し、10月~11月上旬ぐらいまでとても発色のよい花をしっかり咲かせます。

ダリアは品種が豊富でいろいろな咲き方をするので、いろいろな表情を見せることができます。秋は他にも原種系シクラメンやヒガンバナ科のリコリスの仲間など秋の風情を醸してくれる、とても丈夫でしかも植えっ放しの利く球根植物があり、植えない手はありません。

上の写真中央のダリアをご覧ください。このダリア「シティ オブ アルカマー」で、比較的コンパクトで60~80cmぐらいに育ちます。ダリアも品種によって草丈が大きく変わりますので、植え付け前にどれぐらいまで育つか知っておく必要があります。例えば、下のダリア「ティトキポイント」は100~150cmの高さまで育つ大型のダリアです。花は一重咲きで、次から次へとよく咲く品種です。

ダリア「ティトキポイント」です。次から次へとよく咲く品種で、秋花壇にはとても重宝します

秋の風情のある球根植物として原種系シクラメンとリコリスをご紹介します。次の写真はシクラメン ヘデリフォリウムです。このシクラメンは、夏は休眠して、秋9月ごろから花が咲き始め、咲き終わる11月ごろにきれいな斑紋のある葉が展開し始めます。植え付け適地は明るい半日陰で、落葉樹の根元に植えておくと、植えっ放しで勝手にタネで増えるほど丈夫です。

最後の写真はリコリス アルビフローラです。毎年ほぼ確実に秋のお彼岸ごろに咲いてくれます。リコリスの仲間は結構種類が多く、一部が夏に、ほとんどが秋に咲きます。いずれもとても丈夫で、秋の演出には欠かせない球根植物です。

秋に咲く原種のシクラメン ヘデリフォリウムです。花は9月ごろより咲きだします

雑木林の下草の一部に植え込んだリコリス アルビフローラです。秋の風情が漂います

-ポイント3-風景に溶け込み、植えっ放しのできる原種系球根植物

野趣を感じさせる花姿と丈夫な性質はどんな庭にも似合いそう

原種系チューリップのクルシアナ「シンシア」(左)と、クルシアナ クリサンタ(右)です。とても丈夫で、植えっ放しで毎年よく咲きます

球根植物にも原種で十分観賞価値が高く、とてもきれいなものがたくさんあります。しかも改良された園芸品種にはない丈夫さ、たくましさを併せ持つものが多いです。もともと球根植物というのは、自分が育つには問題がある季節は地中深くで休眠するという進化を遂げています。季節がよくなったら休眠から覚めて、芽を伸ばして一斉に咲くというパターンが多いです。

その結果、それぞれの球根植物の季節は、一面が花で埋まるという光景が広がるのです。植え方はいろいろあります。芝生や砂利敷きの中や樹木の根元、いろいろな宿根草や下草の間などいろいろなところに植え付けておくと、気が付いたらある日突然、季節を目の前で告げてくれます。

例えば上の写真は原種系チューリップの花壇です。これらはとても丈夫で、植えっ放しで毎年よく咲きます。球根も地中で勝手に増えていき、他の植物と問題なく共存してくれます。下の写真はスイセン バルボコジュームです。花弁が小さく、ラッパ部分の副冠が非常に大きく広がってユニークな花姿を見せてくれます。きゃしゃに見えますが、とても丈夫で早春には必ず咲いてくれます。

原種系スイセンのバルボコジュームです。とても丈夫で早春には必ず咲いてくれます

次に春を感じさせてくれる球根植物を2つご紹介しましょう。下の写真はバイモユリです。地味な花ですがとても風情があり、バイモユリが咲くと春を感じさせてくれます。フリチラリア属の仲間ですが、この仲間の中では比較的丈夫で、環境が合えば毎年放任で咲きます。

その次の写真はスノードロップです。うつむいて雫(しずく)のように咲く姿はすごく可憐で、意外と長く咲き続けてくれます。写真のように明るい半日陰を好み、クリスマスローズやシクラメン ヘデリフォリウムなどと、とても相性がよいです。

落葉樹の林の中に植えたバイモユリです。環境が合えば毎年放任で咲きます

早春を最もそれらしく演出してくれるのが、このスノードロップです

球根植物は全世界に分布しています。それぞれが育つ気候風土は異なりますが、四季がはっきりしている日本では、使い分ければ全世界の球根植物が育てられます。原種系から改良された園芸品種まで、魅力的なものがいっぱいあります。育てるコツをつかめば、これほど興味をそそる植物はありません。皆さんもぜひ球根植物にはまってください。

最後にイギリスで見られた球根植物の使い方をご覧ください。ベス チャトー ガーデン(Beth Chatto Gardens)の中のグラベルガーデンに咲いていたチオノドクサです。日本では数球程度が可憐に咲くイメージでしたが、植物を知り尽くしたベス チャトー ガーデンならではの使い方です。チオノドクサが水を一滴も与えないドライエリアで、砂利の中から無数に咲いていました。

イギリスにあるベス チャトー ガーデンの中のグラベルガーデンに咲いていたチオノドクサです

次回は「秋の花壇の手入れ法と楽しみ方」を更新予定です。お楽しみに。

JADMA

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