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連載

【第15回】トウモロコシ

佐倉朗夫

さくら・あきお

1975年、東京教育大学農学部卒業。神奈川県農業総合研究所や民間企業で野菜栽培の経済性や環境保全型農業の研究、有機野菜の栽培技術向上に取り組む。現在、明治大学特任教授、黒川農場副農場長。同大学リバティアカデミー「アグリサイエンス」講座で市民を対象とした有機農業講座を担当。著書に『有機農業と野菜づくり』(筑波書房)、『佐倉教授「直伝」! 有機・無農薬栽培で安全安心な野菜づくり』(講談社)、『家庭菜園 やさしい有機栽培入門』(NHK出版)などがある。

【第15回】トウモロコシ

2017/03/07

トウモロコシはイネ科の作物で、用途により野菜や穀物、飼料用などいくつかの種類があります。これらは植物学的には同じトウモロコシという種に属し、互いに交雑します。花粉は200~250mも飛ぶため、近くに他のトウモロコシがあると互いに交雑して粒の色や味などが変わってしまうことがあるので、家庭菜園などでスイートコーンを栽培する場合には注意が必要です。
トウモロコシは地力維持にも役立つので、ぜひ輪作※の中に取り入れたい作物です。

※輪作(りんさく)=同じ野菜を同じ場所で栽培する連作を繰り返すことで発生する障害を防ぐため、数種類の違った植物(品目や科)を作付け順序を決めて定期的に循環させて栽培すること。

甘みが強く、採れたては生でも美味なバイカラー品種「ゆめのコーン」 写真:谷山真一郎

分類と生態

原産地:アメリカ大陸
科名:イネ科トウモロコシ属
連作障害:少ない(1〜2年空ける)
生育適温:22〜30℃

作型と栽培

日射量が多いほどよく育ち、高温や乾燥を嫌う

トウモロコシの起源は新大陸であることは間違いなさそうですが、起源地は特定されていません。生育適温は22~30℃で、10℃以下ではほとんど成長せず低温も高温も好まないようです。生食されるスイートコーンは鮮度が重要で、雌穂の発達期や収穫期は冷涼な気候が望ましく、夜温も15℃ぐらいが適当とされています。良質なスイートコーンの産地が北海道や山間部に多いのはそのためです。
さらにトウモロコシはC4型植物※と呼ばれ、光合成効率が高く、多くの光を利用することができるため、日射量が多いほどよく育ちますが、乾燥を嫌うため生育中の降雨量も重要です。

※C4型植物=光合成におけるCO2固定反応の最初の産物が炭素原子3個を含む化合物であるものをC3型植物といい、ほとんどの植物がC3型植物に該当。一方、C4型植物は、CO2固定の過程でCO2を濃縮する機能が付加された光合成装置を持った植物で、炭素原子が4個からなる化合物を生産する。これをC4型光合成と呼び、C4型光合成を行う植物をC4型植物という。C4型植物は高い光合成速度と高い生産能力を示すが、C4型光合成を行う作物は、トウモロコシ、アマランサス、サトウキビ、ヒエなどごくわずか。

トウモロコシの種類は多種多様

トウモロコシの一つの種類(亜種)であるスイートコーンは、糖分を多く含み甘粒種といわれ、成熟する前の実を食べるので野菜に分類されます。でんぷんを多く含み食用や工業用に利用されるフリントコーン(硬粒種)は熟した実を利用するので穀物に分類されます。その他にも家畜の飼料用のデントコーン(馬歯種)、菓子のポップコーンに使われるポップコーン(爆裂種)などがあります。

多品種の混植は避ける

スイートコーンは甘みのある品種ですが、甘さに関与する遺伝子によりスイート系品種とスーパースイート系品種に分けられます。糖度で2倍くらいの違いがあり、現在は、子実中の糖含量がより高いスーパースイート系品種が主流になっています。粒の色も黄色、白色、乳白色、黄色に白色が混じるバイカラー、さらに黄色と白色と紫色が混在するトリカラーの品種もあります。
スイートコーンは見ても楽しい野菜ですが、これらを取りそろえて同じ畑で栽培すると、粒色が本来のものとは違ってくることがあります。粒をそろえるには他の品種の花粉が雌穂にかからないようにしなければなりません。特にポップコーンなど、スイートコーン以外のトウモロコシの花粉がかかると味も悪くなります。

受粉率を高める作付けの目安

トウモロコシの花は、雄花と雌花が同じ株の別々の位置に付きます。雄花(雄穂)は茎頂に付き、雌花(雌穂)は葉のわき芽(腋芽)に発生するごく短い側枝の先端に付きます。雄花は雌花の受粉体勢が整う前に開花するので、同じ株の花粉は付きにくく、他家受粉率が高くなります。そのため、他の株の花粉で受粉がしやすいように、10株以上を2列以上植え、株の配置が四角になるようにします。
例えば、植え床幅70cmに条間45cmで2条、それを2畝作れば理想的です。株間30cmで畝の長さが2.1mならば28株入り、形も2.1m×2.4mでほぼ正方形です。1畝だと2.1m×1.2mで14株ですが、これを最小の目安にするとよいでしょう。

スイートコーンの作型例(代表的な作型の例)

各作型の特徴と栽培のポイント

[トンネル早熟栽培]
温暖地で収穫期を早める場合の作型。3月にトンネル内にタネまきをして6~7月に収穫。

[露地普通栽培]
スイートコーンの基本作型。暖地・温暖地では盛夏前に、寒地・寒冷地では盛夏に収穫。

[露地抑制栽培]
7~8月にタネまきをして、10~11月に収穫する作型。温暖地では秋の温暖な期間を利用する。

この他にも、5月からの収穫を狙ったハウス栽培もあるが、家庭菜園向きではない。また、沖縄では越冬栽培が可能で12〜4月に収穫される。

栽培手順(温暖地の場合)

1.植え床の準備

酸性の強い畑以外は、土作りに石灰は使いません。元肥は、タネまきあるいは植え付けの2週間前に、堆肥を1平方メートル当たり1.5Lとボカシ肥料を同じく100g施し、よくすき込んでおきます。

植え床幅70cm、高さ10~20cmの畝を立て、透明のマルチフィルムを張ります。栽植密度は条間45cmの2条植え、株間30cmです。マルチフィルムは株間30cmで2条に穴が開いたものを使うと便利です。

2.タネまき

マルチフィルムに直径8~10cmのまき穴を開けて、ビンや缶の底を押し付け、鎮圧しながら深さ3cmのまき穴を作ります。各穴に3粒ずつタネをまきます。タネとタネが2~3cm離れるように正三角形の頂点の位置にタネを置き、植え穴を埋めるように覆土。こぶしで強く鎮圧するか、かかとで踏み付けます。畑が乾燥気味の場合はタネまきの後に水やりをします。

〈うきがけ〉

タネをまいたら鳥害防止のために、トンネル用の支柱を低めに立てて不織布を植え床から少し浮かせて掛ける「うきがけ」にします。
トウモロコシはタネまきから本葉2枚ごろまではカラスなどの鳥害にあいやすいので十分注意します。鳥害対策として、苗を育てて植え付ける移植栽培も有効です。栽培本数が少ない場合は、一株一株に白い育苗用のポリ鉢を逆さにしてかぶせるのもよいでしょう。

〈移植栽培の場合〉

直径6〜7.5cmのポリ鉢にタネを2粒ずつまきます。本葉2~3枚のころに1本に間引き、本葉3枚が出そろって草丈が10cmぐらいになったら植え付けます。
植え付けの時期は、直まきの時期と同じ霜の心配がなくなってからです。それまでは穴開きのビニールトンネルで、高温を回避しながら保温して育てます。
ポリ鉢で育苗する移植栽培や、少しずつタネまきの時期をずらす直まき栽培によって、長い期間の収穫を楽しむことができます。

3.間引き

本葉3〜4枚のころに1本に間引き、しっかりと土寄せをします。間引くときは、芽切りはさみなどで地際を切り、地上部を残さないようにします。

4.追肥と土寄せ

草丈が50cmほどになったら、根を傷めないようにマルチフィルムを剥ぎ取ります。その後、1株当たりボカシ肥料50g程度を株元の周辺にばらまきます。

通路の土を、肥料の上にのせるように土寄せをします。トウモロコシは最後まで倒さずに育てることが大切なので、土寄せは十分に行い根がしっかりと張れるようにします。
株元から出るわき芽(分げつ枝)は取りません。分げつ枝があった方が生育も実の入りもよくなります。

5.除房

雌穂は1株に数本出ますが、最上部の雌穂だけを最終の収穫用に残し、他は絹糸(雌穂の先端から出る糸状のもの=めしべ、花柱)が見え始めたころにかき取ります(1株1本採り)。そのままにしておくと養分が分散されてよい実が1本も収穫ができなくなります。

雌穂をかき取るときは穂を横に倒しながら葉と茎の間からねじり取るようにし、茎や葉を傷めないように十分に注意します。取り除いた雌穂はヤングコーンとしておいしく食べられます。

6.鳥害対策

収穫適期の実はカラスに狙われています。鳥害が心配なときは、防鳥糸や釣り糸などを、トウモロコシを囲むように畝の周りにぐるりと張ります。膝の高さと、その少し上の2段に張ると効果的です。

7.収穫

収穫適期は絹糸が出てから20~24日後です。雌穂の絹糸が焦げ茶色になり、パサパサになったら粒の充実を確かめて収穫します。朝の涼しいうちに収穫すると食味がよく、鮮度も長持ちします。

イラスト:角しんさく

収穫は、果実を手で持って横に倒すようにしてもぎ取ります。慣れてくると手で穂を握ったときの硬さで充実度を知ることもできますが、最初のうちは少し皮をむいて確認してみましょう。早く採り過ぎると甘みが不十分で、収穫が遅れると粒が硬くなり甘みも落ちます。

有機栽培のコツ

食入害虫の防除は、早期発見と適切な処分が大切!

収穫した穂の中に虫がいたり、虫食いの痕があったりします。これは茎や子実の食入害虫であるアワノメイガの幼虫や、それによる被害です。幼虫は6月ごろから発生しますが、最初は葉の頂部の筒状部分に集まっていて、徐々に茎の中に入っていきます。茎内に侵入した虫は入り口にふんを出すので分かりますが、雄穂が伸び出すころから被害が現れ、雄穂が折れたりふんまみれになったりします。そのような雄穂は早めに取り除くことで、茎や雌穂への被害を少なくすることができます。

花粉を出す大切な雄穂ですが、全体の2~3割程度は取り除いても受粉には問題がないので、注意深く観察しながら被害を受けた雄穂は切り取ります。また、花が咲き終わった雄穂からはそれ以上は花粉が出ないので、無条件に切り取ります。切り取った雄穂には幼虫が付いているので、速やかに畑の外に出して焼却などの適切な処分をします。
全体的に株数が少ない中で開花中の雄穂を取る場合は、雄穂を雌穂の絹糸に触れさせて人工的に授粉させるとよいでしょう。

次回は「ミニカボチャ」を取り上げる予定です。お楽しみに。

JADMA

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