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南米の花ではありません インカービレア

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

南米の花ではありません インカービレア

2015/06/12

インカービレアの大きな花と色彩は、かなりエキゾチックで異国の風情を強烈に放ちます。名前も南米に栄えた、古代の帝国インカを連想させるものですが、意外と身近な東アジアの高地から中央アジアにかけて、少数の種が自生している植物です。

ノウゼンカズラ科Incavillea(インカービレア)属、属名のIncavilleaは、18世紀のイエズス会の神父にして、中国の植物を欧州にもたらしたPierre Nicholas Le Cheron d'Incarville(ピエール ニコラ ル シェロン デ インカルヴィル) に献名されたものです。

彼は植物好きの清国第6代乾隆帝にオジギソウの株を献上し、その信を得て、中国の植物採取を許される厚遇を得ました。皇帝はオジギソウの葉の動きをえらく面白がり、腹を抱えたといいます。

しかしながら、インカルヴィルはこの時すでに高齢でした。エゾギク、エンジュ、チャンチンなどをヨーロッパに送りましたが、病人の看病中に、病気がうつり、中国で亡くなったと伝えられています。

今回は雲南省の高山~亜高山帯に自生するインカービレアを、エピソードと共にいくつかご紹介いたします。

マメ科ミモザ属Mimosa pudica(ミモザ プディカ)。オジギソウ。南米原産の植物ですが、東アジアに珍奇な植物として欧米人が持ち込みました。乾隆帝はオジギソウを寒い北京で越冬させるための温室をインカルヴィルに作らせたと聞きます。昔は宝物のようなオギジソウも、今では世界中の熱帯に散逸して、雑草として住み着いています。

我こそは、インカービレアの王とばかりに、楕円状の根出単葉をつけ、5~6㎝の立派な花を咲かせています。Incarvillea forrestii(インカービレア フォレスティー)。標高3000m程度の日当たりよい草原に点在します。種形容語のforrestiiとは、雲南で波乱の旅をしたプラントハンターのジョージ フォレストに因んでいます。写真は7月、雲南省デチェン・チベット族自治州の中甸にて撮影。

Incarvillea zhongdianensis(インカービレア ゾーディアネンシス)。花が forrestiiに似ているので間違えやすいのですが、花がやや小さく根出の羽状複葉葉なっていることで区別できます。同じ時期に雲南の高地で咲いていますが、一緒に生えているところはありませんでした。この種は多くの草仲間と共に斜面にまとまって咲いていました。種形容語のzhongdianensisとは、雲南省のシャングリラ、チョンティエン県という地名です。

Incarvillea forrestiiもIncarvillea zhongdianensisも3000m程度の高地に自生していました。古くから日本にも紹介され、通信販売などで売られましたが、日本の夏はこの植物たちにとって暑すぎるようで、園芸種として定着はしていません。

Incavillea arguta(インカービレア アルグタ)は、比較的低山に生えるタイプです。雲南省武定県楚雄イ族自治州猫街鎮近くの標高1500m程度、路傍の乾燥した土手に自生していました。薄いピンク色の花を、枝の先端にまばらにつけます。それは、やる気がないのか?世間知らずの野育ちといった風情でのびのび枝葉を展開させます。

ncavillea argutaは、3cm程度の薄いピンク色の花を咲かせます。株によって濃淡の変異がありました。種形容語のargutaとは尖った鋸歯を意味しています。奇数羽状の複葉のそれぞれにギザギザがあるのがおわかりでしょうか

JADMA

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