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自然の形と法則性 トベラ、テリハクサトベラ、サワギキョウ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

自然の形と法則性 トベラ、テリハクサトベラ、サワギキョウ

2015/08/28

ある植物に塩水をかけて育てたことがあります。葉はケロイド状に焼け、まったく育ちませんでした。葉に塩がつくと浸透圧によって、葉の内部の水が塩分を薄めようと出ていってしまうのです。

おおよそ液体の水と光、二酸化炭素のある環境であれば植物が大地を覆いますが、浜辺は塩害、乾燥、強光線と植物にとって実に過酷な環境です。今回もそんな厳しい環境で生きる海浜植物の話です。

トベラ(トベラ科ピットスポルム属)Pittosporum tobiraは、黒潮の影響を受ける岩手県南部を北限に、東アジア南部までの海岸に生える海浜性の常緑低木です。さらに南の太平洋岸地域には、トベラによく似た茎葉を持つクサトベラが自生します。日本には、唯一テリハクサトベラ(クサトベラ科)Scaevola frutescens(スカエボラ フルテスケンス)が南西の島しょに生えています。

この植物たちは波をかぶっても塩を弾くように、葉の表面にワックスを発達させて内部まで塩を通さないようになっています。葉は枝先に互生ながら束生させ、枝先や株元にバリアを張るように茂らせます。

そして強すぎる日の光を斜めに受け止めるために、葉を外側にカールさせます。花が咲いていないと、トベラとクサトベラの区別は難しそうです。海辺という厳しい環境で生き抜くために取れる防御姿勢には共通性があり、類縁関係のない植物であっても、同じような形態になってゆくことを生物用語で収斂(しゅうれん)進化といいます。

クサトベラは面白い花をつけます。よく見ると地球侵略軍の空飛ぶ円盤みたいな格好で、中央に殺人光線を出すアンテナをつけているみたいに見えます。これは唇弁花といって、虫媒花に特化した花の形としてさまざまな植物にも見ることができます。

トベラPittosporum tobiraは、三浦半島、観音崎で海を見つめていました。種形容語のtobiraは、扉に厄除けのための枝をかけることによります。臭気があるといわれますが、それほど嫌なにおいではありません。乾燥や過酷な環境に耐えるため、道路際の緑化に使われて排気ガスを浴び続けていますが、実際には浜辺で海を見ながら育つ植物です。

沖縄県最北端、辺戸岬を埋めるように生えるテリハクサトベラScaevola frutescens。種形容語のfrutescensとはかん木を表します。花がないとトベラと間違えてしまいます。

テリハクサトベラを観察していると、ハチがブンブンと音を立ててうるさく飛び回ります。花の中心部には色がついていて、ネクターガイドになっているのでしょう。ハチが体をねじ入れます。

テリハクサトベラの花です。奇妙な形で唇弁花と呼ばれます。上に飛び出てアンテナ状になっているのが柱頭です。柱頭の先は杯のようにくぼんでいて、最初はそこにおしべから花粉を貰い蓄えておきます。

花弁は飛んでいる虫たちの飛行甲板になっていて、誘導路みたいな線もあります。ハチは奥の蜜を貰いに体をねじ込むと、背中に花粉がつきます。めしべは後から成熟し、ハチが次に訪れた際に背中から花粉を貰います。

同じようなシステムは類縁関係のない植物にも見られます。夏に山地の草原や湿原で見られるサワギキョウ(キキョウ科ロベリア属)も同じです。唇弁花は虫媒花に特化した花の形としてさまざまな植物にも見られます。植物の進化はさまざまで、一見関連性が見られないようにも見えますが、自然の法則性がそこには貫かれているのでしょう。

JADMA

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