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日本三大毒草 [前編] ドクウツギ、ドクゼリ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

日本三大毒草 [前編] ドクウツギ、ドクゼリ

2015/09/11

地球上の生命体は皆、炭素の化合物です。私もあなたも例外ではありません。それでは生命の源とされる炭素は、どこから私たちの体に入ってきたのでしょうか? それらも例外なく、元は植物が光合成で固定した二酸化炭素由来の炭素なのです。

私たちは食料、環境、エネルギーなどすべてにわたって植物の恩恵に依存しているのですが、植物だって人や動物に利用されるためだけに生きているわけではありません。気のよい植物たちは、多少なら自分の体をわけてくれるかも知れませんが。

しかし、種が絶滅しないためにさまざまな工夫を凝らし、時を越えて生き続けています。その工夫のひとつが毒素を作り、自らを防衛する術です。多くの植物には毒があると思った方が賢明で、無害な植物の方がむしろ少ないと思われるとよいでしょう。

今回の前編は日本三大毒草と呼ばれる、特別に恐ろしい毒素を持つ植物、ドクウツギ、ドクゼリを紹介したいと思います。次週後編は日本三大毒草の最後のひとつ、いまだ解毒薬がない毒を持つ植物の話です。

ドクウツギ ドクウツギ科コリアリア属Coriaria japonica。この属の日本原産は、一属一種です。種形容語のCoriariaは、なめし皮という意味を持っています。落葉低木で長く連なる対生の葉を持ち、葉がなめし皮のようにしなやかでテカテカしています。近畿地方から北の日本に自生し、日当たりのよい荒地に生えますが、危険な植物なので駆除が行われ、この植物を見る機会は都会では多くありません。しかし、地方に行くとたくさん生えている場所もあります。

赤くおいしそうな色をしているのに毒性が強く、昔はこの実の中毒例がとても多かったのです。赤い実に引かれる子どもは、ままごとに使いたいのだろうし、口に入れることが多かったのです。実がきれいなので切り枝として市場出荷されることもあるので注意してください。

ドクウツギは毒性が強く、「イチロウベイ殺し」という恐ろしい別名もあります。さらにわるいことに、この時期野山にはキイチゴが赤い実をつけます。赤い実=おいしいと思っている私たちにとって、ドクウツギの赤い実は紛らわしいのです。

ドクウツギは熟すと黒くなるので、ブルーベリーのラビットアイ種にも似ています。黒くなると毒性は少なくなるようですが決して食べてはいけません。ドクウツギは日本三大毒草のひとつ。木の姿と実をよく覚えておいてください。厚生労働省の自然毒のリスクプロファイルによると、痙攣中枢を刺激して激烈な痙攣を起こさせたのち麻痺させて呼吸停止により死に至るとあります。

ドクゼリ セリ科シクタ属Cicuta virosa。日本だけでなく、ユーラシア大陸に広く自生しています。ドクゼリは大型の宿根性抽水植物で、小川や沼地など水辺に生えます。その生育環境はセリと同じで、小さな時は見分けが難しいので中毒事故が後を絶ちません。種形容語のvirosaとはスバリ毒物という意味を持っています。

こちらも厚生労働省の自然毒のリスクプロファイルによると、その毒性は食中毒以外に皮膚からも吸収され、嘔吐、下痢、腹痛、目眩、動悸、耳鳴、意識障害,痙攣、呼吸困難などをすぐに引き起こすといいます。ドクゼリもまた日本三大毒草のひとつです。私たちは植物のありがたみだけでなく、恐ろしさも同時に知る必要があると思います。

後編に続きます。

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