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路傍の踊り子 ラミューム属

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

路傍の踊り子 ラミューム属

2016/05/17

皆さんは、オドリコソウという植物をご存じでしょうか。
雑木林の林縁や路傍に生える植物ですが、やや自然が残っているような半日陰の環境を好み、地域によっては絶滅危惧種に名を連ねます。

ヨーロッパ原生で、帰化植物のヒメオドリコソウは、どこにでも生えている雑草ですが、東アジアのオドリコソウを見つけることは、たやすくありません。そのオドリコソウを例にとり、花の名前やイメージは、地域や文化の違いによってさまざまだということを語りたいと思います。

シソ科Lamium属(オドリコソウ属)は、ユーラシア大陸などに50種程度が自生し、環境順応性が高く、いくつかの種は世界中の温帯に生息域を広げています。

オドリコソウLamium album var. Barbatum(ラミューム アルバム バラエティー バーバツム)シソ科ラミューム属は、日本を始め、東アジアの野山、野原、路傍に生える宿根草です。雑木林の林縁を好み、半日陰の路傍などで見かけます。種形容語の album は、白い花を表し、変種名の Barbatum とは、長いヒゲを表します。

オドリコソウといえば、「伊豆の踊り子」をイメージする方が多いと思いますが、オドリコソウの花を見る限り、なんとも楽しげな阿波踊りか、花笠音頭を踊る集団に見えます。別名を調べると、踊り花、虚無僧花など、編み笠をかぶり、お祭りで踊るようすが日本でのこの植物のイメージです。
中国では野芝麻(ヤシマ)といい、野原に生えるゴマという意味です。同じ東アジアでも中国の人は、花の姿を楽しむのではなく、食に特化するようです。英語ではwhite dead-nettle (ホワイト デット ネトル)といい、なぜか不吉な名前で呼ばれます。

キバナオドリコソウLamium galeobdolon(ラミウム ガレオブドロン)を下からのぞいてみました。オドリコソウ属の植物に関しては、驚くほど西洋のイメージはネガティブです。属名の Lamium は、ギリシャ神話にでている蛇女のLamia(ラミア)にちなむと考えている人もいます。確かに花を見ると、蛇が口をあけて襲いかかるようにも見えます。

このキバナオドリコソウLamium galeobdolon(ラミウム ガレオブドロン)は、カバープランツとしてヨーロッパから日本に導入され、ガーデンセンター横浜で販売していますが、一方では持ち前の適応力を発揮して、半日陰の林床などに逃げ出しているのを見かけます。葉に金属状の斑があるので、「アルミニュームプランツ」とも呼ばれます。

ヒメオドリコソウLamium purpureum(ラミューム パープレウム)を red dead nettle と英語では呼ぶそうですが、かわいそうな呼称です。ヨーロッパ原生の植物ですが、東アジアの各地に帰化してあらゆる場所で見られます。種形容語は紫色を表し、たまに色素合成をしないアルビノを見ることもあります。

上の写真:色素合成をしないアルビノの個体

ホトケノザ Lamium amplexicaule(ラミューム アムプレキシカウレ)は、地中海沿岸から、農耕作物と一緒に世界中に広まったと考えられているラミューム属です。種形容語は葉が茎を抱くことによります。英名は henbit dead-nettle です。
オドリコソウの仲間に関しては、日本では楽しそうな名前。中国では食べ物の名前。西洋では不吉な名前になっています。地域や文化によって花から受けるイメージがずいぶんと違うものですね!
もし、ヨーロッパにも花笠踊りや阿波踊りという文化があれば、オドリコソウの仲間は、蛇女とかデッドとか呼ばれずに済んだと思います。

最後にホトケノザについて講釈をしたいと思います。ホトケノザというと春の七草が思い起こされます。しかし、ここで語られるホトケノザとは、ラミューム属のホトケノザではありません。実際にシソ科のホトケノザを口に入れると、ゴワゴワしていてちっともおいしくないのです。
七草のホトケノザは、キク科ヤブタビラコ属のコオニタビラコ(小鬼田平子)Lapsana apogonoides (ラプサナ アポゴンオイデス)のことをいいます。
この植物は、東アジアに原生し水田を好んで生える植物です。田に葉を広げる小さな草なので(田平子)です。葉を広げたようすが蓮華座に似ている所から ホトケノザとも呼ばれていました。葉をつまみ食べると結構おいしい、ほろ苦いレタス風味。“これぞ七草ホトケノザ”

次回は「世界一大きなイブキ(ビャクシン)」を取り上げる予定です。お楽しみに。

JADMA

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