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半寄生する植物[前編] シオガマギクの仲間

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

半寄生する植物[前編] シオガマギクの仲間

2016/12/06

自然界では、太陽光線、水、二酸化炭素は、いくらでもただで手に入ります。そして、それらを利用する方法を生み出した植物たちは、誰の力も借りないで生きていきます。それを独立栄養というわけですが、自分で経費を払って生きていくより、他人の栄養をもらって暮すほうが楽だと思った植物たちがいたのです。

寄生にはまったく自分で光合成をしない全寄生と、自ら葉緑素を持ち光合成をしながらも、ちゃっかりと他の植物から栄養を奪って暮す半寄生とがあります。今回も全寄生、もしくは半寄生を特徴とするハマウツボ科の植物を見ていきます。

内モンゴルの乾燥した山塊です。樹木を養う降水量がありません。痩せた土地にはヨモギがたくさん生えていました。

カワラヨモギと思われる植物の根元にはハマウツボOrobanche coerulescens(オロバンキカウレスケンス)ハマウツボ科ハマウツボ属が生えていました。茎は茶色で直立し、花は筒状で、花は薄い紫色です。葉緑素を持たないのでヨモギなどの根に寄生根を差し込み、すべてを他の植物に依存します。それは先週話したヤセウツボと同じです。

種形容語のcoerulescensとは青色を意味し、花の色にちなみます。ハマウツボは東アジアやヨーロッパの温帯に広く自生します。日本では河原や海岸などの砂地や荒地に生えますが、見かけるのが難しい希少な植物だと思います。

私たちの身の回りでハマウツボ科の植物を探すには、高い山に登るとよいでしょう。そこでは、ペデクラリスPedicularis(ハマウツボ科シオガマギク属)を比較的よく見ることができます。写真は、谷川岳が見られる天神平です。ここでは、高い山の植物を手軽に見ることができます。高山植物の多くは、地球が寒い時代に繁栄し、氷河の衰退によって高山に取り残された植物群です。

普通の尾根筋は、水はけがよいので乾いていますが、ここは積雪が多いことと雲の通り道であることから、いつでも湿っていて湿地に生えるモウセンゴケが、じゅうたんのように生い茂っていました。

オニシオガマPedicularis nipponica(ペディクラリス ニッポニカ)ハマウツボ科シオガマギク属は、亜高山帯の湿った場所を好み生える、半寄生のシオガマギクです。大型のシオガマ類で日本固有の種だと思います。葉はシダのように羽状複葉でつやつやしています。この仲間は花だけでなく、葉まで美しい種類が多いので、「葉まできれい」→「浜で美しい」。浜では塩を作る塩釜があり、浜で美しいのは塩釜だそうです。私には実感も意味もよく分かりませんが、シオガマギクというのは言葉遊びのしゃれから付けられたという逸話です。

オニシオガマは尾根から下がった沢筋で花を咲かせていました。日本の中部から東北の日本海側に局所的に生える珍しいシオガマ類です。根出葉から太い茎を立ち上げ4cm程度の唇形花を咲かせます。

こちらはトモエシオガマです。花弁が上下に展開しないで、横に開く変わり者です。花が巴状でスクリュウのように並びます。トモエシオガマPedicularis resupinata var. caespitosa(ペディクラリス レスピナタ バラエティー カエスピトーサ)ハマウツボ科シオガマギク属。本種もまた半寄生をする植物です。ややっこしい話ですが、シオガマギクと同様に、北海道や北部東アジアなどに自生するシベリアシオガマ Pedicularis resupinata L. subsp. resupinataの変種とされています。種形容語のresupinataとは、花が上下に展開しないで左右に展開することを意味します。

谷川岳を望む天神尾根には、同じようにハマウツボ科で半寄生といわれるシオガマギク類と近縁のミヤマコゴメグサEuphrasia insignis(ユーフラシア インシグニス)ハマウツボ科コゴメグサ属が咲いていました。種形容語のinsignisとは際立った、目立ったなどの意味がありますが、小さ過ぎてよく分かりません。

コゴメグサは小米のことだと思います。10cm程度の草丈で花の大きさは1cmに満たない小さな白い花を付ける小さな植物です。よく注意して下を見て歩かないと気が付きません。その様子が御飯の粒が散らばっているように見えたのだと思います。ミヤマコゴメグには、地域毎にいくつかの変種があって、知識の浅い私には見分けることが困難です。こんなか細くもろく見える植物もハマウツボ科です。地下部では、他の植物に自らの根を忍び込ませ栄養を横取りするのですから、世の中と植物の世界は見た目にだまされてはいけません。

次回は「中国南西部高山帯に生えるシオガマギク」を取り上げる予定です。お楽しみに。

JADMA

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