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休暇をとって集めた 球果図鑑[その3]

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

休暇をとって集めた 球果図鑑[その3]

2017/04/04

花が好きな方には、自然科学全体を好きな方が多いと思います。先日、サカタのタネ ガーデンセンター横浜でマツボックリ検定なるものを実施しましたが、皆さんに楽しんでいただけたようです。日曜日の午後の会は満席でした。球果に関する知識問題が10問、実物鑑定が10問、合計20問20点満点の試験です。結果は、難題があったにもかかわらず、17~18点と高得点が続出だったのです。球果を見て喜んでいる人間は私ぐらいかなと思っていましたが、マツボックリが好きな方は意外と多いのかもしれません。

検定用に作った標本の一部です。マツ科の球果だけでもこれ以上あります。今回は今まで紹介していない、残りのマツ科の球果を片付けてしまいましょう。北方の球果植物であるトウヒ属からです。

マツ科トウヒ属のPicea(ピセア)は寒帯、亜寒帯に生える針葉樹です。東アジア北部にはエゾマツPicea jezoensis(ピセア エゾエンシス)マツ科トウヒ属が分布します。氷河期に日本列島を南下したエゾマツは各地の山岳地帯に残され、その地方にトウヒ(唐檜)やヤツガタケトウヒ(八ヶ岳唐檜)などの変種を分化させ、北に後退しました。エゾマツの球果は長さ4~6cm程度の大きさで下向きに付きます。ずんぐりむっくりしていてかわいい球果です。

エゾマツの種形容語であるjezoensisは蝦夷地を表し、日本では北海道、そして東アジア北部に生えるので、本州では目にする機会は少ないでしょう。

典型的なトウヒ属の樹形です。ドイツトウヒ(オウシュウトウヒ)Picea abies(ピセア アビエス)マツ科トウヒ属は北部ヨーロッパに生えるマツですが、日本の高原や東北などに植栽されているので見る機会があると思います。種形容語のabiesとはモミ(樅)を指す属名なので、直訳するとトウヒモミです。紛らわしい学名です。実際にモミとトウヒは別物なのですが、混同されることが多いのです。

ドイツトウヒの木の下に行くと15cm程度の細く大きな球果が通常落ちています。動物にかじられてエビフライのようになっているものがほとんどですが、きれいな実が落ちている場合もあります。この実が落ちていれば、それはドイツトウヒです。

こちらはトウヒ属のハリモミと呼ばれる植物の球果です。エゾマツの球果を横に置いたので比較してください。大きくずんぐりとして寸が詰まっています。この植物もトウヒ属なのにハリモミという和名です。和名は時として植物を理解する上で不都合な場合があります。トウヒ属の名誉のためにいいますが、トウヒ属は球果を下向きに付け、モミ属は球果を上向きに付けます。

ハリモミPicea polita(ピセア ポリタ)マツ科トウヒ属は、常緑高木で30m程度に育ちます。和名はこの木の針葉が鋭くとがっていて、触ると針で刺されるように痛いことによります。日本の固有種で東北南部から九州にかけて自生します。

ここでモミAbies firma(アビエス フィルマ)マツ科モミ属の登場です。モミは頂上付近に直立して球果を付けます。大きさは12cm程度で幅が3~4cmあります。縦長で上向きに球果を付けるのですが、成熟すると果軸を残して種鱗がバラバラに解け、形を残しません。それはヒマラヤシーダーに似ています。通常ではこのような姿で落ちることはありませんが運よく手に入れました。私もこの標本以外に持っていません。トウヒPicea属がモミAbies属と違うことは何より球果が証明しています。モミは東北から九州までの低山などに生える常緑針葉樹です。種形容語のfirmaはしっかりした、強固なさまを表します。

トウヒ属とモミ属は葉の付き方にも違いがあります。トウヒは枝から鋭い針葉が出て、先がとがります。モミでは葉の先端がへこむか二裂し、葉の基部が丸く膨らみます。写真は左がウラジロモミAbies homolepis(アビエス ホモレピス)マツ科モミ属。右がエゾマツPicea jezoensis(ピセア エゾエンシス)マツ科トウヒ属。トウヒとモミは混同されていますが、属が違い、球果や葉の形状も違うのです。

マツ科の球果植物の終盤を飾るのはカラマツです。カラマツLarix kaempferi(ラリクス ケンプフェリ)マツ科カラマツ属の球果は、種鱗が薄く、艶があり、直径2~3cmの球状球果です。茶色のグラデーションが微妙で、デコレーションに好適なのでローソク立てやリースになくてはならない名脇役といったところです。

カラマツ属は北半球の寒帯、亜寒帯と山地に分布する落葉性のマツ科針葉樹です。その中でカラマツは日本特産のマツであり、長野県や栃木県などの山岳地帯に自生しています。日本のマツでは唯一の落葉性を持ち、落葉松(ラクヨウショウ)の別名もあります。

カラマツの種形容語のkaempferiは17世紀末に出島のオランダ商館の医師として日本に2年滞在し、日本誌を表してヨーロッパに日本を紹介した博物学者Engelbert Kaempfer(エンゲルベルト ケンペル)に献名されています。秋に黄葉すると球果は熟し、タネを飛ばします。冬に短枝についた球果を周りに大量に落とします。

マツ科の球果植物を終える前にもうひとつ、珍しいマツを紹介しておきます。キンセンマツ(金銭松) Pseudolarix kaempferi(プセウドラリクス ケンプフェリ)マツ科イヌカラマツ属。属名のPseudolarixは偽りのカラマツ属という意味を持ち、種形容語のkaempferiはカラマツと同じでエンゲルベルト ケンペルにちなみます。このマツは日本でも化石は見つかっていますが、現存していません。世界では中国の長江流域にだけ残存する一属一種な貴重な樹種です。5cm程度の針葉がうちわのように放射状に付く姿が美しく、その姿を忘れることができません。

次回は「休暇をとって集めた 球果図鑑[その4]」です。お楽しみに。

JADMA

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