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休暇をとって集めた 球果図鑑[その4]

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

休暇をとって集めた 球果図鑑[その4]

2017/04/11

いよいよ球果図鑑はマツ科から離れ、もうひとつの大きなグループであるスギ(杉)とヒノキ(檜)の仲間へ話を進めます。日本でよく知られているスギは、スギ科という分類でしたが、現在の主流分類法であるAPG体系においてはヒノキ科に統合されています。

写真は2年間に集めたヒノキ科など球果植物の概観です。何種類の植物があるか分かりますか? この写真には10種類の球果があります。いぶし銀に光るコウヤマキの球果、松ぼっくりに似ているコウヨウザンの球果は別にして、ヒノキ科の球果は球体や楕円体の形をしていて、種鱗が球体を分割する形状になっています。

ヒノキの球果です。褐色で1cm程度の球体を7~9個の長方形に分割して、内部のタネを飛ばします。ヒノキやサワラなどは見分けが難しいのですが、この球果が落ちていればヒノキに間違いありません。この球果をたくさん集め、レンジで加熱すると球果に含まれるヒノキの精油が香りたちます。拾い集めるには忍耐が必要ですが、たくさん集めて枕に入れてみたいと思っています※。

※球果の採集には敷地管理者の許可を受けて行ってください。特に植物園や公園の場合、植物採集は禁止されている場合がありますので、観察のみ行いましょう。

ヒノキChamaecyparis obtusa(チャマエシパリス オブツサ)ヒノキ科ヒノキ属は、日本の特産種です。各地の山地に生え、主に山腹、尾根筋などやや乾燥した場所を好みます。高さ40m程度にもなる常緑高木で幹は1m以上に育ちます。木材は珍重され、軟らかく、絹の肌触り、抗菌作用があり、最高級の木材だと思います。ヒノキのお風呂、それはもう最高です。種形容語obtusaはその球果が丸いことを意味します。

ヒノキとサワラはよく似ています。なかなか区別の難しい植物ですが、球果が付いていれば簡単に見分けられます。それは大きさがヒノキの半分以下の5mmくらいしかないのです。小さな球果はサワラ。右の大きな球果がヒノキです。サワラChamaecyparis pisifera(チャマエシパリス ピシフェラ)ヒノキ科ヒノキ属。ヒノキに極めて近縁の種で、ヒノキとの間で雑種ができると聞きます。こちらも日本特産種で東北北部から九州の山地に生えます。種形容語のpisiferaは豌豆(えんどう)を指すのですが、意味はよく分かりません。

スギCryptomeria japonica(クリプトメリア ジャポニカ)ヒノキ科スギ属の球果は、先がとがった球形をしていて2~3cmの大きさです。種鱗の先端には牙状の突起が付いていますがそれほど痛くはありません。早春に枝の先端に雄花を付け、雄大に花粉を飛ばします。

後光を放つこの巨木は、今から1370年前に建立された千葉県印旛郡にある麻賀多神社の御神木です。高さ40m、樹齢1200年の大スギです。スギは日本各地に生える特産種で日本の植物の中で最も大きく育ちます。シーボルトは日本植物誌の中で例外ともいえる長文でこのスギを称賛しています。彼はその千里眼で、地震や台風など自然災害の多い国土において、その度に目覚しい復興を果たす日本のたくましさは、スギという植物に支えられていると考えました。そしてスギは常に嵐に立向かう森の英雄、日本の植物界において最も重要な木だとして、スギに対しての記述の最後に自分の名前を書きつづったのでした。

メタセコイヤMetasequoia glyptostroboidesヒノキ科メタセコイヤ属は、本連載「200万年の時を越えて 化石杉」(2016年3月15日、22日)において、詳しく述べましたので詳細は書きませんが、球果は褐色、幅1.5cm長さ2cm程度の大きさ、種鱗は主軸に対し対生、20個以上付き、楕円体を分割します。ソメイヨシノの花吹雪のさなかに球果を大量に落とします。枝先ではみずみずしい新芽が吹き出し、その圧力ではじき出されるように柄ごと落下するのです。

コノテガシワPlatycladus orientalisヒノキ科コノテガシワ属。球果には、柄がなく、葉に直接付き、楕円体で種鱗の先端がとがって外側に巻き込むため、虫のようなおかしな姿です。木の成熟度合いと性質で球果の大きさが異なります。

コウヨウザンの球果です。幅は2~3cm、長さ3~4cmの卵形です。種鱗は皮質で先がとがっていて、乾燥するととげが外側に巻き込むようになるので結構痛いのです。コウヨウザンは漢字で書くと「広葉杉」です。日本には自生がなく、東アジアの台湾、中国南部に自生します。本場の中国ではスギはこの種のことをいいます。

コウヨウザンCunninghamia lanceolata(カニングハミア ランセオラータ)ヒノキ科コウヨウザン属は、常緑の針葉高木、葉はスギに比べると幅広く濃緑色をしていて、堅く先がとがり球果より痛いのです。属名Cunninghamiaとはプラントハントの途中、非業の死を相次いで遂げたCunningham兄弟に献名され、種形容語のlanceolatusとは、やりの穂先の形をした葉に因みます。

この二つは東アジアには植栽されていますが、自生はありません。左、ラクウショウ(落羽松)Taxodium distichumヒノキ科ヌマスギ属。球果はベージュ色の3cm程度の球状で、枝先に数個まとまってぶら下がります。熟して下に落ちると、とても複雑な立体パズルのようにばらばらになり、二度と復元できないと思います。保存するには、木に付いている球果をそっともぎ取り、ばらばらに砕けないようにボンドで固定します。サッカーボールみたいで楽しい球果です。
右は、ホソイトスギCupressus sempervirensヒノキ科イトスギ属の球果です。大きさは3cm程度で球状をしています。色はベージュ色でヒノキの球果を大きくしたような形です。樹形は枝があまり広がらず、幹が直立するので細長い独特の形状になります。

ラクウショウは別名「ヌマスギ(沼杉)」といいます。北米東南部の湿地に生える落葉針葉樹です。この木の大きな特徴は成熟するとタケノコのような気根を地上に生やすことです。湿地で不足する酸素を根から取り入れようとしているのだと思います。

今まで4回に分けて、東アジア的球果と東アジアに植栽される球果を見てきました。恐らく世界にはまだ見ぬ不思議な球果が待っていると思います。それらを見る旅は休暇程度では済まされそうもありません。永遠に続く夏休みと資金が必要です。

次回は「5月の陽光に包まれて開花する里山のラン」です。お楽しみに。

JADMA

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