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冷水に咲く[後編] バイカモ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

冷水に咲く[後編] バイカモ

2017/09/05

静岡県駿東郡清水町に流れる、豊富な地下水が湧き出す柿田川ですが、少し離れた湧水の里、三島では状況が変わっていました。三島市立の公園である楽寿園は池に満々と水をたたえる名園だったのですが、どの池も干上がっているのです。楽寿園の小浜池に生えていたバイカモは、三島の地域に固有のバイカモとされ、ミシマバイカモと呼ばれていました。

ミシマバイカモの生息地であった楽寿園の小浜池です。富士山に降った無尽蔵とも思える雨水は有限だったのです。河川水のように水利権という概念のない水は、産業水として魅力的だったのです。水を使う産業集積地になったこの地域の地下水は枯渇してしまったのでした。当然のことながら、この池とこの池を水源にした川に自生していたミシマバイカモは絶滅してしまったのでした。

湧水の町、三島では干上がった川に、元の清らかな流れを取り戻すために巨額な税金が使われたのです。

三島の町で絶滅してしまったミシマバイカモ。あの柿田川に自生していたバイカモは、三島で絶えてしまったミシマバイカモと同一だったのでした。柿田川のバイカモを元々原生していた源兵衛川に移植をして、三島の町に再びミシマバイカモが復活を遂げたのです。その植物を探して小さな旅に出ます。水辺の風景をご覧になって、少しばかり涼んでいただきたいと思います。

この川は楽寿園の出口から始まります。三島駅南口から楽寿園までは徒歩3分、目と鼻の先です。楽寿園の緑の中を散歩しましょう。水色に塗られているのが池ですが、干上がっていることが多いと思います。三島の町でミシマバイカモが身近で見られる場所である源兵衛川は、楽寿園の出口から始まります。

源兵衛川の最上流部です。この川は楽寿園の小浜池の湧水に発し、下流の農地に水をもたらす用水だったのです。今、この川の水源には民間企業の一時冷却水が使われています。

川の中、川の縁に遊歩道が整備され、涼みながら水と親しむ散歩道になっていて、親子や仲良しで連れ添いながら歩くには絶好です。

どんどん川を下るのですが、目的のミシマバイカモの姿は見えません。川沿いに住む人に尋ねると、少し寂しそうに「昔はどこにでもあったのよ」と言います。清らかで冷たい流水があるだけではミシマバイカモは育ちません。日光条件を選び、建物の陰や樹木の下では育たないのです。

川は大きな道路を潜り、たどる道も所々で途絶えますが、川を目印に道を見つけるのです。川遊び目的の人たちの歓声がなくなるころ、ミシマバイカモらしい姿が水中に見えてきました。

ミシマバイカモRanunculus nipponicus var. japonicus(ラナンキュラス ニッポニクス 変種 ジャポニクス)キンポウゲ科キンポウゲ属。種形容語のnipponicusと変種名のjaponicusは妙に日本産であることを繰り返しています。白い花は5~9月ごろまで見ることができます。

川をさらに下ると川岸に雑草が生え、手入れがされていない様子でした。水の流れが緩くなると同じ川でもミシマバイカモは生えていません。生えることができないのです。バイカモは冷水だけでなく流水でないと生きていけないのです。柿田川でも三島の自生地でも生息に適する場所はわずかだったのです。

バイカモはキンポウゲ科キンポウゲ属です。この種属は水が好きで、水辺もしくは水の中から抽水して生えます。この仲間から水中に新天地を求めて進出していったのがバイカモです。しかし、水中で不足する酸素を各器官に運搬するシステムが、バイカモの仲間は未完成なのだと思います。冷たい流水の中に豊富に存在する溶存酸素が生育に不可欠なのでしょう。

バイカモとミシマバイカモの違いを示すこの写真をご覧ください。ミシマバイカモはバイカモにはない広い葉(浮揚葉)を持つことが特徴なのです。そのことはバイカモの仲間が陸上植物から水草に進化した証しです。そして同時に完全に水草になりきっていないことを示します。

次回は「水草になりたい イトキンポウゲ」です。お楽しみに。

JADMA

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