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連載

海石榴[その3] ヤブツバキ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

海石榴[その3] ヤブツバキ

2018/01/09

ヤブツバキの特別な性質とは何でしょうか?それは、一言でいうと耐寒性と多様性です。シーボルト(1796-1866)は、その著書、『日本植物誌』の中で、ヤブツバキを冷温室の最大の宝物「冬のバラ」と称賛しています。そして、さまざまな形質変化のある日本の自生地を見て、無数の変種を作り出す自由があると述べています。

カメリア属は、熱帯、亜熱帯の低緯度地域に多くの種が自生していますが、園芸植物の消費量が多い都市部は世界的に高緯度にあります。カメリア属を観賞植物とする場合において、ヤブツバキの耐寒性は、他のカメリア属にはない美点です。ヤブツバキは、世界最北の地に原生するカメリアなのです。

手前のはうような姿の低木がユキツバキです

山形県と秋田県の県境にある幻想の森です。日本有数の豪雪地帯であり、深い雪の影響で杉の成長点が傷むのだと思います。その結果、真っすぐ伸びる杉がウネウネと曲がります。
この辺りの最低気温は、マイナス10℃以下になることもあり、冬には、4カ月も深い雪に埋もれます。この幻想の森の下草にヤブツバキの変種である、ユキツバキCamellia japonica Var.decumbens(カメリア ジャポニカ バラエティー デクンベンス)ツバキ科カメリア属が自生していました。

長崎の五島列島の漁村に生えていたといわれる、「玉之浦」と呼ばれるヤブツバキです。日本には膨大な自生種があり、さまざまな遺伝子的多様性を持っていて、地域ごとに特徴のある品種があります。

美しいヤブツバキは、古くから観賞用に利用されました。特に戦国時代に流行した茶の湯において珍重され、日本で独自に花き園芸として発展したのです。ユキツバキなどとも交配され、関東系、関西系、肥後系などが選抜され、中には門外不出で育成されたツバキもあります。写真は、肥後椿(ヒゴツバキ)系の品種です。江戸時代に肥後藩(熊本を中心とした地域)の大名にて育種された系統で梅蕊(バイシン)咲きという特徴があります。

日本のツバキは海を渡り、欧米でも育種が行われ、いくつもの素晴らしい品種が作られました。写真は「グレース アルブリットン」というアメリカで作られた品種で、花弁が何枚あるのか分からないほどの素晴らしい千重咲きです。

こちらは「ドラマ・ガール」と呼ばれる、アメリカで育成された系統です。花の大きさは、11cmもあり見事です。欧米では、花はより大きく、より八重咲きに育成されました。

一方日本人は、清楚な一重咲きを好む人が多く、ヒメサザンカとヤブツバキとの交配によって香りツバキという系統が育成されています。その香りの素晴らしさは写真ではお伝えできないのが残念です。

野生のヤブツバキは、北海道を除き日本中で見ることができますが、地域ごとに変化が認められ、北東と南西では、花の大きさと色合いに連続的な形質変化が見られます。それは、私が見た限りにおいて、北東と南西では花の大きさと花弁の色に違いがあります。北東では大輪で色が薄く、南西では小輪で濃色の傾向にあります。

四国の徳島城跡の小高い丘にも、ヤブツバキがたくさん生えていました。どれも東日本で見るヤブツバキに比べ、濃色できりっと締まった小輪でした。

美しい日本のヤブツバキ。しかし、その重要性は花の美しさだけではありません。日本に住む人々にヤブツバキは、さまざまな生活の糧を与えてきました。その話は、次週お話しします。

次回は「海石榴[その4] ヤブツバキ」です。お楽しみに。

JADMA

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