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チューリップとアマナ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

チューリップとアマナ

2018/01/23

チューリップは、ユリ科チューリパ(Tulipa)属の園芸種を指す名称です。チューリップの野生種は、ユーラシア大陸の中央部から地中海沿岸の北緯四十度線に沿って自生しています。この緯度は、トルコの国を二分割します。ここには、野生種も豊富であったことから、イスラム圏の人たちによってチューリップの栽培と品種改良が進みました。

16世紀、トルコのイスタンブールで栽培されていたチューリップをオーストリアのトルコ駐在大使であったオージェ・ギスラン・ド・ブスベック(Ogier Ghiselin de Busbecg)がトルコからヨーロッパに持ち帰りました。そして、オランダのライデン大学でチューリップの栽培が始まったのです。当時、オランダはヨーロッパ強国であり好景気でした。

オランダは、国土の約25%が海面下にあります。空の玄関、アムステルダム・スキポール空港は標高がマイナス3~4mにあり、この国では、道路の上に川が流れ、船が行き交う景色が普通に見られます。オランダは低地ですので土壌がよく湿り、常に強制的にポンプで排水が図られます。そのことは、湿り気のある土壌と水はけを好むチューリップにとって、都合がよかったのです。そして、夜の温度が低いこと。春の低温が長く続く気候もまた、チューリップが球根に栄養をため込むのに適していたのです。

オランダの畑です。見渡す限りチューリップが栽培されています。オランダの土質、気候、そしてオランダ人の気質がチューリップ栽培に適しているといわれています。驚くことに年間生産量20億球、自国消費が2億球、残りが輸出されます。そして、オランダのチューリップは推定で世界シェア80%ほどになると思います。

オランダのLisseにある、キューケンホフ(Keukenhof)という公園です。その昔、この場所は、領主のキッチンガーデンがあった場所です。オランダ語のキューケンホフとはキッチンガーデンという意味らしいのです。総面積32ヘクタールの園地に700万球の球根が植えられ、その開花期のみ開園される世界的に有名な球根植物のテーマパークになっています。

チューリップの日本への来歴は江戸時代とされ、日本でも人気の花です。横浜にあるサカタのタネ ガーデンセンター横浜では、秋から数多くの品種とたくさんの球根が販売されます。少し前のデータですが、私の記憶では日本で消費されるチューリップの球根は1億球程度と記憶しています。

さて、私たちのすみかである東アジアにも、昔はチューリップの野生種が自生していました。それは、学名をTulipa edulis(チューリパ エデュリス)といいました。その植物は、意外と身近な里山に生えていたのです。写真は、早春にその植物が花を咲かせていた野原です。

過去形で書いたからといって、絶滅した植物ではありません。それは、極めてチューリパ(Tulipa)属に近縁な植物なのですが、些細な差異をもって別属にされ、チューリパ属からコンバートされたアマナという植物です。

アマナAmana edulis(アマナ エデェリス)ユリ科アマナ属。若葉に甘みがあり山菜にするので、漢字で「甘菜」と書きます。球根も原種チューリップそのものです。でんぷん質で、こちらも昔は食用にしました。人手の入った野原が少なくなった現代では、アマナは、多くの都道府県で絶滅危惧種として指定されてしまいました。

どうですか、見た目は白い原種チューリップに見えるでしょう。属名のAmanaは「甘菜」に由来します。種形容語edulisは「食用になる」、「食べられる」という意味ですが、咲いているのを見つけても、食べないで観賞するだけにしましょう。

アマナは、東アジアのチューリップだと思います。中国、朝鮮半島、日本に自生し、日本では東北南部以西の日当たりのよい草地などに生えます。アマナには、春に十分な陽光が得られる環境が必要なのです。そこは、アシやススキなど強勢な繁殖力を持つ宿根草を人が適度に草刈りを行う場所です。人が自然と寄り添いながら暮らす里山が、アマナのすみかに適しているのです。

アマナの花被片と雄しべは共に6個。その長さは2~3cmの小さなチューリップ状ですが、花茎に苞が2つあり、花粉の形態の違いなどからもチューリパ属から区別します。アマナは早春の植物です。開花に巡り合うためには、春本番では間に合いません。そして、夏になる前に店じまいをしてしまい一年の大半を地下で寝て暮らします。 まだ寒い3月。春の妖精たちは、意外と身近で花を咲かせているものです。植物を探してのボタニカルハイキングは、楽しいですよ! 私のおすすめです。

次回は「プライベート イボタノキ属」です。お楽しみに。

掲載予定が変更になりました。次回は「食香バラ[その1] モダンローズと玫瑰(メイクイ)」です。お楽しみに。

JADMA

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