タネから広がる園芸ライフ / 園芸のプロが選んだ情報満載

連載

食香バラ(R)[その1] モダンローズと玫瑰(メイクイ)

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

食香バラ(R)[その1] モダンローズと玫瑰(メイクイ)

2018/01/30

全世界で愛される現代バラ モダンローズ。それは、野生種から人間が営々と改良を重ねた文化遺産ともいえるものです。花が大きく、かぐわしい香りがあり、四季に花を咲かせるバラは、庭でも、切り花でも、園芸において別格の存在です。聖母マリアの象徴でもあり、美の女神ビーナスと共にバラが描かれどことなくヨーロッパの雰囲気を醸し出しますが、モダンローズ誕生には、東アジアの野生バラの存在が不可欠でした。

東アジアは、野生バラの宝庫です。この野生バラの遺伝子を抜きにしてモダンローズは語れません。そして、東アジアには、バラを単に観賞用としてだけでなく、多様に利用をする文化があります。そして、それに見合った栽培種が育成されてきました。
今回のシリーズは、東アジアの歴史に翻弄されながらも独自に進化を遂げ、香料や薬用、食用などに利用される、食香バラのお話です。本題に入る前に、例のごとく前座が長くなりますが聞いてください。

バラ科バラ属は、世界の北半球に多くの野生種があります。野生のバラは本来一重咲きで、長日開花性を持ち開花期も短いものです。しかしながら、現在の園芸種の多くは、冬を除き、花を咲かせる四季咲き性を持っています。この四季咲き性という性質は、中国原産のコウシンバラRosa chinensis(ローザ シネンシス)バラ科バラ属の遺伝子によるものです。種形容語のchinensisとは、中国産を表します。

コウシンバラは、庚申薔薇と書きます。暦で庚申は、57番目を表し、ほぼ60日ごとに庚申の日があります。コウシンバラは、一年のうちにたびたびくる庚申の日のように、たびたび花が咲く四季咲きです。野生のバラは、夏至を過ぎ短日期に向かうとほとんど開花しないのですが、このコウシンバラは、日長中生性という開花習性を持っていたのです。

一方で、かぐわしい香りと剣弁高芯咲きという花の形のモダンローズをもたらしたのは、 香水月季と呼ばれる、ローザ オドラータの変種たちです。

雲南省昆明付近の山々に行くと、数多くのローザ オドラータRosa odorataバラ科バラ属を見ることができます。 種形容語のodorataとは、「芳香がある」という意味です。私が何度となく見た株は、高さ3m程度のヤブを作るつるバラでした。

odorataには、いくつかの変種があります。ギガンティアRosa odorata var. giganteaと、エルベスケンスRosa odorata var. erubescensです。

現代のモダンローズは、コウシンバラの日長中生性と、オドラータの変種が持つ剣弁高芯型といわれる花形と、ティーの香りと呼ばれる芳香性の因子を交配してできた後代に、さまざまなバラを掛け合わせて発展してきたといわれています。ちなみに、変種名のgiganteaとは、「巨大」の意味。erubescensとは、「紅色」を表します。

左:ローザ オドラータの変種、右:1993年に雲南省麗江で発見されたローザ リージャン ロード クライマー

左側の写真は、ローザ オドラータの変種です。中国科学院の先生は、ローザ ギガンティアだというのですが、私はローザ オドラータ エルベスケンスの栽培種だと思っています。右側の写真は、1993年に雲南省の麗江路で発見されたローザ リージャン ロード クライマー(Rosa Lijan Road Climber)という、中国で古くから作られていた栽培種です。ティーの香りと剣弁高芯咲きといったモダンローズの基本形は、四季咲き性という性質と共に、東アジアの中国バラから受け継がれたものです。

一方、日本にも自生するバラもモダンローズの成立に大きな貢献をしています。ノイバラ ローザ ムルティフローラ(Rosa multiflora)バラ科バラ属。種形容語multifloraは、「多花性」を表します。東アジアに原生し耐病性があり、花が房状に群がって咲きます。水辺が好きで、よく河川敷などに生えています。畑地や空き地にも生え、一度生えると駆逐するのが難しいほど丈夫です。モダンローズの房咲きの遺伝子がここにあります。そして、バラ文化を根本で支える台木としても重要な種なのです。

テリハノイバラRosa wichuraiana(ローザ ウィチラィアナ)、またはRosa Luciae(ローザ ルキエ)バラ科バラ属。種形容語のwichuraianaはドイツ人法律家であり、植物学に造詣の深いMax Ernst Wichura(マックス エルスト ウィチュラ)氏にちなみます。テリハノイバラは、主に海岸付近に原生し、潮風の影響で葉はクチクラが発達してツヤツヤです。ノイバラより花付きが少ない分、花はやや大きめです。枝をよく伸ばすので現代のつるバラの重要な親となっています。

テリハノイバラは、本州中部から西の地域に生え、照葉樹林と同じ地域に分布をしています。海外では東アジア南部からフィリピン、インドネシアに広く原生するバラです。花の大きさはノイバラが約2.5cmなのに対し、テリハノイバラは3.5cmほどあります。そして、このバラには花柱に毛があることでノイバラと区別できます。

全世界で愛されるモダンローズは、東アジアをはじめとする北半球に広く原生するさまざまな種を、西洋の園芸家などが交配して作り上げたものです。一方で観賞を目的にするバラではなく、香料を取り薬用や食用にするバラは、東アジアの片隅で秘かに育まれてきたのです。
次回、食香バラ(R)[その2]では、食香バラの故郷、おそらくバラ栽培で世界最大と思われるバラの村、玫瑰鎮(メイクチン)へご案内します。

次回は「食香バラ(R)[その2] 玫瑰鎮(バラの村)への旅路 その地理と歴史」です。お楽しみに。

JADMA

Copyright (C) SAKATA SEED CORPORATION All Rights Reserved.