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日本で花開いた切り花用種[後編] ストック

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

日本で花開いた切り花用種[後編] ストック

2018/04/24

第二次世界大戦前、ストックの品種改良は欧米で行われていました。日本では、それらの品種を使い1925(大正14)年に黒潮が流れる、千葉県和田町で始まったと記録されています。温暖な無霜地帯であり、大消費地の東京に近い地の利もありました。

今でも、分枝系はこの地で露地栽培されます。開花に低温が必要な品種群で晩生であり、春のお彼岸に咲く性質があります。以前はたくさんの分枝系品種もあったのですが、いまでは、タネのカタログにひっそりと掲載されていていずれ忘れ去られる種苗だと思います。しかし、この品種群が世界をリードする日本のストック育種に必要不可欠だったのです。

戦争が終わり、1946(昭和21)年花き栽培の禁止令が解除されました。千葉の農家や千葉大学が中心となり、欧米から分枝系ストックなどの素材を輸入して品種改良を進めてきました。分枝系ストックとは、苗の時期に頂芽を摘芯してわき芽を伸長させ切り花に供する品種群です。この系統は、開花に低温が必要な性質を色濃く持ち、開花が遅いのです。

ストックは本来、低温要求性と長日開花性を持ち、短日期に花が咲かないので出荷は春になります。しかし、市場の要求は早く出荷してほしい、いつでも出荷してほしいというのです。仕事花であるストックの需要は主に冠婚葬祭ですから、季節商品であっては困るのです。日本のストック育種の目標は決まりました。夏まきで無加温の栽培ができ、市場価格の高い年内に出荷できる早生、極早生系が育種されました。千葉大学や千葉の産地で生まれた極早生品種「先勝の雪」が育成されたのです。そして2000年代、その流れをくんだ「雪波」という品種によって市場は独占されたかに見えたのです。

ストックの切り花マーケットが成熟していく中で市場の要求は、より草丈があり、茎の硬いしっかりした品質要求が出されてきました。しかし、「先勝の雪」にルーツのある極早生1本立ち系統群はこれに応えることが難しかったのです。極早生で分枝をさせない1本立ち系は、成長が早く開花が早いだけに全体の造作が柔らかいのです。写真は、極早生系の品種です。花茎が扁平で強度が弱いことを示しています。

こちらの写真は、晩生系の分枝系です。茎が円形でとても硬く締まっている様子を示します。

開花が早く、草丈があり、しっかりした品種という市場要求をかなえようとした育種家が日本にいたのです。近代ストックの発展を支えたのは、茎が硬く草丈の低い晩生分枝系と、茎が柔らかいが草丈が高い極早生1本立ち系の交配でした。そして、開花が早く草丈があるしっかりした品質を選抜していく長い道のりが始まったのです。

私は、その育種家(ブリーダー)から、「晩生分枝系 彼岸王と極早生1本立ち系 クリスマス系品種との交配は、私の一世一代の仕事でした」という話を直接聞いたことがあります。ストックに生涯を捧げたその男の生き様に敬意を表したいと思います。

近代において、日本のストックの品種数は世界のトップです。今では世界からそのタネの注文が入ります。日本のストックが世界一なこと、それは、
1、冠婚葬祭や仏事という堅調な需要に支えられていること。
2、戦後いち早く栽培を始めた千葉の農家の方々の選抜育種があったこと。
3、千葉大学で行われた科学的育種とそこで学んだ学生たちが、種苗業界で活躍したこと。
4、そして、千葉大学で同じ時期に学んだ千葉の育種家(ブリーダー)の仕事が成功したからでした。

ストック「カルテット」という近代分枝系品種を11⽉に開花させました。年内に地上から15cm程で切り戻すと3⽉のお彼岸に花が咲きます。多くの分枝を出し写真のように見事な姿になりました。3月中に再び切り戻すと5⽉にもう一度開花します。

南ヨーロッパで咲いていた野⽣のストックは、野趣のある宿根草でした。人によって品種改良されたストックは、それは⾒事な花姿というしかありません。野に咲く野生の草花を、価値のある作物に変える育種という業は、天才的なひらめきと、気の遠くなるような年月を必要とする選抜の繰り返しです。園芸店や花屋さんに並んでいる花たちには、それを成し遂げた先⼈たちの歴史が隠れています。

次回は「芳しくはありません センダン」です。お楽しみに。

JADMA

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