タネから広がる園芸ライフ / 園芸のプロが選んだ情報満載

連載

Cone(円すい) イワタバコ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

Cone(円すい) イワタバコ

2018/05/08

暖海に生息している肉食性の貝にCone shells(円すい形の貝殻類)と呼ばれる美しい貝があります。この仲間には、毒矢を獲物に撃ち込み捕食するつわものがいて、小魚などをまひさせ獲物にするのですが、時として、人がその貝に刺され命を落とす場合があるのです。恐ろしいやつらなのですが、貝殻がとてもきれいなので、その筋のマニアには人気があります。特に欧米にコレクターが多くいて、収集品の展覧会や商取引が行われています。その中にConus gloriamaris(日本名 ウミノサカエイモガイ)という貝は、昭和30年代には、世界で25個以下しか存在しなかったといわれ大変高価な値段で取引されました。 植物の世界にもCone(円すい形)から属名が付けられた植物があります。それは、世界で一属一種しか存在しません。それが今回の話題です。

Cone shellsは、日本ではイモガイという無粋な名前で呼ばれます。それは、彼らが生きているとき、サトイモの皮みたいな殻皮をかぶっているからです。その皮を剥ぐと美しい棋様を持つものが多くコレクター垂涎(すいえん)の珍品、稀品(きひん)があります。イモガイは、どれも見事なCone(円すい形)をしています。

東アジアは動植物の宝庫で、植物に限らず、特に日本周辺の海は、貝類の豊富な海域として世界中に知られています。イモガイは、黒潮の影響を強く受ける日本の海岸にも多く生息していて、採取することができます。海岸に打ち上げられていたり、生きているイモガイを大潮のときに、岩やサンゴの間などで見つける場合があります。
写真の右側の貝は、筆者が南九州で採取したタガヤサンミナシというイモガイで、特に強い毒矢を持つ種として知られ死亡例も報告されています。イモガイを見つけても素手でつかんではいけません。ご注意を!!

さて、植物の世界で蕾やしべが見事なCone(円すい形)をしているのは、皆さんもご存じのイワタバコです。タバコの葉みたいな葉を付ける植物ですが、花を見ると蕾や雄しべの固まりがSF映画に出てくるロケットのようなシャープな切れ味を持っているのです。

イワタバコConandron ramondioides (コナンドロン ラモンディオイデス)イワタバコ科イワタバコ属。名探偵コナンみたいな学名ですが、属名のConandronは、cone(円すい形)とandros(雄しべ)の合成語です。雄しべが集まって円すい形の形になっていることにちなみます。種形容語のramondioidesは、同じイワタバコ科のオニイワタバコRamonda属(ラモンダ)に似ているという意味です。

イワタバコは、イワタバコ科には珍しく、寒さに適応して温帯域まで生える植物です。日本では、福島県や岩手県などにも分布しているといわれ、イワタバコ科では、寒冷地に分布を広げた成功者です。イワタバコは東アジアに固有の種で、日本が分布の中心で、自生量も多く、大きな葉を山菜として食するところもあると聞きます。この植物は、2つ程度の変種を日本の西部に、そして、八重山諸島、中国南部に分化させています。

イワタバコは、草原や林の中に生える植物ではなく、名前の通りに岩に着生します。直射日光の当たらない薄暗い岩斜面、空中湿度が高く湿った岩がお好みです。よく沢筋の岸壁など群生している様子を見ます。イワタバコの葉には意外と長い葉柄があって、葉の長さが10cm以上あります。夏8月ごろに花茎を出して直径1cmほどの花を咲かせますので近づいてCone(円すい形)状の蕾や雄しべの固まりを見ていきましょう。

イワタバコは、大きな根出葉を数枚付けるのですが、冬に葉は枯れます。しかし根元に冬芽を作り寒さに耐えるように進化しました。冬芽には葉の固まりが格納されていて、気温の上昇と同時に葉を広げていきます。

イワタバコ科は、世界の熱帯から亜熱帯を中心に分布して、100属以上3000種を超える大きな種属です。イワタバコ科の植物は皆、特殊な環境に生え、美しい花を咲かせる種も少なくありません。あまり知られていませんが、東アジアの南部はイワタバコ科の植物宝庫なのです。その件は、これから『東アジア植物記』の中で紹介していきたいと思います。

次回は「プライベート イボタノキ属」です。お楽しみに。

JADMA

Copyright (C) SAKATA SEED CORPORATION All Rights Reserved.