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プライベート イボタノキ属

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

プライベート イボタノキ属

2018/05/15

私的な事を英語でプライベート(Private)といいます。植物の世界でもプライベートという名前を持っている植物があります。それは、イボタノキ属です。垣根で境界をつくることに適し、私的空間をつくる際に重宝されるのがイボタノキの仲間。この植物たちを英語でプリベット(Privet)といいます。
イボタノキ属は、陽樹で日当たりのよい場所に生える常緑、もしくは落葉の低木で、山地の林縁や海岸縁に生えます。世界の暖地に多くの種があり、特に東アジアには多くの種が自生します。この属は、丈夫なので緑化樹に向くほか、よい香りがします。庭木として適している種や、薬用に利用したり、お茶にする種もあります。それでは、多様なイボタノキ属をご紹介したいと思います。

中国雲南省昆明の茶城です。「茶は雲南にあり」といえるほど、ここには雲南省の各地からいろいろな製法で作られたさまざまなお茶が集まります。

どのお茶がおいしいのか? 見た目である程度は分かりますが、買いたいと思った茶葉を試飲して決めることになります。プーアルの熟茶が私の好みですが、“青山緑水”といわれる苦丁茶は、雲南以外ではなかなかお目にかかれないおいしいお茶です。

乾燥ワカメみたいな茶葉から、濁りのない薄緑の茶ができます。苦丁茶は、文字通りとても苦いのですが、後味がほのかに甘く、その余韻が長く続く爽快なお茶です。中医薬では、解熱、解毒作用を助け、気力を高めるとされています。そして、抗酸化力と血液循環の改善に効果が期待されています。

お茶の中に広がった苦丁茶の葉を茶器から拾い上げました。この葉を見て、この植物の属名が分かる人がいたのには驚きました。この苦丁茶は、中国南部や東南アジアなどに原生する、リグストルム ロブスツムLigustrum robustumモクセイ科イボタノキ属の新芽から作られます。

日本全国の山地には、イボタノキLigustrum obtusifolium(リグストルム オブツシフォリウム)モクセイ科イボタノキ属を見ることができます。種形容語のobtusifoliumは、この種の葉先が鈍形であることを表します。よい香りがする落葉性の低木で、日本のほか東アジアに分布しています。四国の山地で見た野生のイボタノキは、よい香りを放ちながらも楚々とした小さな花穂を下向きに付けていました。

こちらは、青森の太平洋側の海岸です。山地に生えるイボタノキに対し海浜植物の種もあります。

オオバイボタLigustrum ovalifolium(リグストルム オバリフォリウム)モクセイ科イボタノキ属。種形容語のovalifoliumは葉が大きいこと、広楕円形葉であることを表します。

中国河南省嵩山の永泰寺には立派なシナイボタが生えていました。よい香りと真っ白な小花をフサフサと付けるイボタノキ属です。花穂が大きく優雅なので庭に植えたい植物です。コミノネズミモチともいいます。

シナイボタLigustrum sinense(リグストルム シネンセ)モクセイ科イボタノキ属。種形容語のsinenseが示すように中国や台湾などに自生する種類です。枝先に円錐状の花序を付け小さな白い花を密生します。雄しべの葯(やく)がピンク色なのでおしゃれでかわいいイボタノキです。英名はChinese privet(チャイニーズ プリベット)といいます。

いろいろなイボタノキの中でも、最もなじみが深いのが、ネズミモチだと思います。日本の照葉樹林帯に適応し、林縁や崩壊地をいち早くカバーする常緑の低木です。ネズミモチLigustrum japonicum(リグストルム ジャポニカム)モクセイ科イボタノキ属。種形容語japonicumの通り日本のイボタノキを代表する植物です。果実の色が濃いネズミ色なのでネズミモチといいますが、もう少しよい名前のタマツバキと呼んであげてほしいと思います。

最近、日本のネズミモチを凌駕(りょうが)して、最も多く目にするのが、トウネズミモチだと思います。トウネズミモチLigustrum lucidumリグストルム ルシドウム)モクセイ科イボタノキ属。種形容語のlucidumとは、葉が強い光沢を持つことに由来します。実をたくさん付け、鳥たちが好む食料になることから、鳥のふんとともにタネが散布されるシステムを持ち、たちまち日本中に広まりました。

2つの写真とも左:トウネズミモチ、右:ネズミモチ

ネズミモチとトウネズミモチの違いについてです。どちらの写真も左がトウネズミモチで、右がネズミモチです。何となくの感じで区別が付きますが、解説をすると、ネズミモチよりトウネズミモチの方が大柄で、果実は色が薄く、たくさんの丸い実を付けます。トウネズミモチの葉は幅広で、光に透かすと葉脈が浮き出るので容易に判別ができます。

大気汚染が深刻な中国の都市部において、丈夫なトウネズミモチは道路緑化としてにたくさん植えられています。それは、日本の高度成長期も同じでした。実をたくさん付けるトウネズミモチは、鳥たちのふん(肥料)とともにタネが散布され、たちまち日本の国土に広まりました。そして今では、侵略的外来生物として日本では植えてはいけない植物に指定されています。それは、トウネズミモチが悪いのではなく、人為的都合によるものだと思います。緑化樹、薬用、お茶、観賞用など、多様な恩恵を人に与えるイボタノキ属。自然界においても、蜜源植物としてチョウや蜂を養い、鳥たちの重要な食料なのです。

次回は「紫の一族[前編] ムラサキ科」です。お楽しみに。

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