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Plant of Kunming [その4] 青い悪魔とパラボエア

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

Plant of Kunming [その4] 青い悪魔とパラボエア

2018/07/10

昆明の裏山に登り辺りを見回すと、この都会が盆地なのがよく分かります。三方が山に囲まれ、一方が滇池(テンチ)と呼ばれる大きな湖に面しています。その湖には、紀元前3世紀ごろから滇人と呼ばれる民が住み、稲作と漁労を生業にしていました。滇 Diānは、古い雲南の名前です。この滇文明こそが、日本に稲作を伝えたと考えられています。稲作は、中国から日本に伝えられたとされますが、中国文明の中心地である黄河文明に稲作はありません。黄河流域では稲作ができないからです。滇池は、雲南で最も大きな湖で面積は300平方キロメートル、その淵をたどると163キロメートルになります。龍門に昇ると滇池が一望できます。古代から人々が住み着き、その恵みを享受してきた湖が今、危機に直面していました。

龍門の入り口に蛇と亀が絡み合っている奇妙な彫像があります。皆さんは、福岡県志賀島で見つかった金印のことはご存じだと思います。「漢委奴国王」と刻印された印鑑の鈕(つまみひも)は蛇の形です。ここ雲南で出土した滇王之印も同じ蛇の鈕なのです。その金印は、紀元1世紀、後漢の皇帝が朝見した、多くのえにしの民の国王に授けたとされるのです。異民族の国王に授けた金印の鈕に蛇を模したのは、漢委奴国王と滇王之印だけです。日本に稲作を伝えたのは、長江文明であったことは明白です。そして、蛇の鈕の同一性、照葉樹林帯の気候的類意性、米、紫蘇(しそ)、蒟蒻(こんにゃく)、蕎麦(そば)、チマキなど食文化があまりに似ています。 私は古代史の専門家ではないので、これ以上の言明を避けますが、日本の実生活文化と長江の文化が似ていることは、偶然ではなく、何かの歴史的関連性があるのだと思います。

龍門の真下に、滇文明を育んだ滇池が見えます。「景色美しく魚多し」といわれたこの湖は、工業振興と耕地の開発、不十分な汚水処理の影響で富栄養化が進みアオコが大量に発生していました。

滇池の岸部は、お金持ちの別荘が立ち並ぶ高級分譲地になっていましたが、これでは台無し、ドブみたいな環境でした。陸上の生態系が開発で破壊され、水質汚染で湖沼の生態系もなくなってしまうのではないか心配です。アオコの正体は、微細な藻類です。主なものはシアノバクテリアと呼ばれる一群で私たちの愛する植物のご先祖様と思われている生物なのです。

さらに、西岸部に寄ってみると、見渡す限り水色の花を咲かせるホテイアオイで覆われていました。ホテイアオイEichhornia crassipes(アイヒホルニア クラスシペス)ミズアオイ科ホテイアオイ属。属名のEichhorniaとは、 南米の植物を調べたドイツの植物学者Karl Sigismund Kunth(カール・シギスンクンズ)が、 19世紀のプロイセンの教育相 Friedrich Eichhorn(フリードリッヒ・アインホルン)に献名したものです。種形容語のcrassipesとは、太い足を意味しています。ホテイアオイの葉柄が浮きの役割を持ち、膨らんでいるからです。

ホテイアオイの原生はアマゾン流域です。そこでは、周りの生態系と釣り合いが取れていて、穏やかに暮らしているのですが、世界中の暖地に移入され野生化しています。世界で「青い悪魔」とか「ベンガルの恐怖」など、ひどい名前で呼ばれます。それは、富栄養化の水系では、一つの群落が2週間で倍に増えるほどの、驚異的な繁殖力で在来の生態系を駆逐すること。植物体が枯れると腐敗して水を腐らせ、水中の溶存酸素がなくなり魚が酸欠で死亡するなどで、湖水の生態系を破壊するからです。この植物をどうするのか、問題は深刻です。アマゾンではヌートリアという動物が食べるそうです。アメリカではカバを輸入して食べさせ、その肉を食用にする法案がありました。

滇池の岸辺から、再び龍門の断崖に話は戻ります。岩場には、コラロディスクス フラベラトゥスとは、違うイワタバコ科と思われる植物を見かけました。グロキシニアの葉のように大きな葉ですが、質感が硬く乾いたドライフラワーみたいな葉です。

パラボエア フェスケンスPraboea rufescensイワタバコ科パラボエア属。属名のPraboeaとは、パラボラアンテナにちなんだ名前だと思います。種形容語のrufescensとは、キツネ色の毛という意味を持ちます。葉の表面は硬い白い毛があり、裏面に褐色の毛が密生しています。パラボエアは、日本では見覚えのない植物で、熱帯を中心に70種ほど自生とされます。

パラボエア フェスケンスの花期は夏です。花色は、薄い紫、もしくは白、グロキシニアのように咲きますが、花筒が伸びず雌しべがむき出しで先端が下に向きます。それは明らかに蜂の背中についた他の株の花粉を受ける魂胆が丸見えの奇妙な花です。この仲間は雲南に5種分布とされます。

話はすごろくみたいに振り出しに戻ります。先ほどの蛇と亀の彫像は、雲南では長寿の象徴とされます。蛇は胴体がナガイ。亀の訓はカメ。音読みでです。つまりこの彫像の意味することは、人々の願いの一つである「ナガイキ」でした。
お後がよろしいようで、次回、Plant of Kunming [その5]は、雲南の古い地名である。滇 Diānにちなむ植物のお話です。

次回は「Plant of Kunming [その5] 滇国(てんこく)の香り ルクリア」です。お楽しみに。

JADMA

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