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Plant of Kunming [その10]東アジア的珍菜3

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

Plant of Kunming [その10]東アジア的珍菜3

2018/09/11

昆明市の名物料理は何かと問われれば、野生のキノコ料理だろうと思います。中国の中でも昆明市付近は、さまざまな野生キノコを産する地域です。昆明市は高原です。気候がよく、針葉樹と照葉樹の混生林はキノコの発生に適しているらしく露店で怪しげなキノコがたくさん売られています。『東アジア植物記』でキノコとは、いかなものかとのご批判は甘んじて受けたいと思うのです。古典的には、キノコは植物の一つとして認識され植物図鑑にも載っていたのです。

昭和50(1975)年11月16日から発行された『週刊朝日百科世界』の植物という雑誌がありました。そのページを開くたびに見知らぬ世界の植物があり毎週の楽しみでした。今でも私の参考書の一つになっています。120号までが発行され最終がキノコ類でした。菌類はかつて植物とみなされていたのです。今ではキノコ類は、動物界、植物界の他に菌界として分類されています。

日本の朝市みたいに昆明市内の露店では、いろいろなキノコが売られています。しかし露店のキノコには手を出す勇気はありません。

昆明市で野生のキノコ料理を食べようとすると、前菜に出てくるのが生のマツタケTricholoma matsutake(トリコロマ マツタケ)キシメジ科キシメジ属の刺し身です。雲南省でもマツタケは採れます。この料理を一口食べると次に箸が出ません。「どうぞ遠慮しないで食べてください」とすすめられるのですが、遠慮しているのではありません。食べたくないだけです。どうしてもカビの味です。

次にキノコ鍋ですが、なぜかタイマーが用意されました。「毒があるから煮立ってから10分過ぎないと危ないので食べてはいけない」というのです。毒は熱で分解するのでしょうか? フグの肝臓やトリカブトの根も煮込めば安全なのでしょうか? 10分たっても危ない気がします。

花の生産農家を尋ねた折に、お茶請けに出てきたのがこれです。武定獅子山の林に埋もれていたというのですが、私には泥の塊にしか見えません。

水で洗うと、正体が分かりました。ショウロ(松露)科のキノコの一種でした。生でかじるのだといわれました。勇気を振り絞り一口かじると、口の中にカビのにおいが充満しました。「これはトリュフです。高級品ですよ」といわれました。だったら、ちゃんと料理して出してほしかったです。私には菌核の親分にしか思えません。

また、変なものが出てきました。大きさ10cm各80g程度の質量です。ジャガイモ(中国語では土豆)みたいですが、芽が違います。この球根は、ナラタケという菌類から栄養を取って生活する、オニノヤガラGastrodia elata(ガストロディア エラータ)ラン科オニノヤガラ属の塊茎でした。種形容語は直立するという意味です。

オニノヤガラは、伝統的中国医薬と料理の素材です。名を天麻(てんま)といいます。塊茎を乾燥させ粉にしたものを食べました。「これは、精力がつきます。貴重なものです」といわれたのですが、それは、ただの苦い粉でした。効果の程は不明です。「また食べたいですか? 」と問われれば、答えはNOです。

オニノヤガラは、 開花後小さな芽を残し塊茎はなくなります。薄暗い林床で見たオニノヤガラの地上部の大きさは約1m、小さなほこり状のタネを付けていました。微小なタネに胚乳はなく、胚も未熟です。地下にまかれたタネは、菌類から栄養をもらい発芽しますが、成長する確率は低く、花を咲かせるには何年もの月日が必要です。天麻は、東アジア一帯の高原雑木林の林床にまれに生える菌従属性野生ランなのです。

熱帯アジア原生のハゲイトウAmaranthus tricolor(アマラントゥス トリカラー)ヒユ科ヒユ属 は、花壇苗として近年見直されました。暑さに強く、ビビッドなカラーリーフとして夏花壇ではとても美しいものです。このヒユ属の野菜がヒユナです。

この野菜は、バイアムともヒユナともいわれ、熱帯アジアではポピュラーですが、日本での人気はいまひとつさえません。赤いアントシアン色素がたっぷりと皿の下にもあふれていてきれいなのは分かります。酸化した体を癒やしてくれるような野菜であることも理解できます。でも私はあまり食べたくありません。

最後に銀条 yín tiáoという珍菜のお話です。この野菜は、玄奘三蔵が天竺から持ってきて皇帝に献上したという歴史が伝えられます。真意の程は分かりませんが、今でもいにしえの都 洛陽の名物野菜であり、宮廷料理がある地域でしか見ることのできない野菜です。銀条Stachys(スタキス)シソ科イヌゴマ属(種の同定には至っていません)は、チョロギの地下茎です。味は歯切れよく淡泊でした。  

東アジア的珍菜1~3。それは深遠なる東アジア食文化の淵をなめただけです。まだ見ぬ珍菜がたくさんあるに違いありません。

次回は「悠久の榧樹(カヤ)」です。お楽しみに。

JADMA

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