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悠久の榧樹(カヤ)[前編]

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

悠久の榧樹(カヤ)[前編]

2018/09/18

世界三大美樹といわれる木は、どれも針葉樹です。世界の人々は、荘厳で気高い針葉樹になぜか魅入られるのだと思います。針葉樹は、大昔に栄えた裸子植物です。現世種は約800種類、その半分はマツ科なので、どれも球果(松ぼっくり)を付けるものだと思われていますが、ドングリみたいに堅果を付ける種もあります。今回は、そのような堅果を付ける針葉樹の中からカヤという植物についてのお話です。

カヤTorreya nucifera(トリーア ヌキフェラ)イチイ科カヤ属。トリーア属は、19世紀のアメリカの植物学者ジョン・トーリー(John Torrey、1796〜1873年)に献名されています。彼は亡くなるまで植物に興味を持ち続け、ニューヨークの植物調査を始め北米の植物を研究しました。カヤ属の仲間は、北米に2種類あります。1つは、Torreya taxifolia (トリーア タキシフォリア)は、大陸東岸南部ジョージア州とフロリダ州の州境に自生します。広い大陸においても個体数は500~600本とされる希少木です。もう1つは、Torreya californica(トリーア カリフォルニカ)。カリフォルニア州に極地的に分布する固有の針葉樹でいずれも絶滅の危機に瀕しているといっても過言ではありません。

一方、東アジアでは、カヤ属は良質の木材が採れ、実が食料になるため資源として利用されてきました。カヤ属が残存する中心である東アジアでは日本に1種、中国大陸に4種、前述の北米に2種の合計7種が現代の世界に分布しています。カヤが極所的に原生するのは、過去に広く分布していたのが絶滅して、原生に遺存していると考えてもよさそうです。

世界に自生する7種類のカヤ属全てを知見に入れるのは、難しい話ですが、シーボルトはカヤ属についてこのように述べています。「日本のカヤは、北アメリカのTorreya taxifolia(トリーア タキシフォリア)は、Torreya californica(トリーア カリフォルニカ)に極めて近い。中国に自生するTorreya grandis(トリーア グランディス)は、日本のカヤと同じかもしれない。これらの全ての葉は、大きさを別にすればほとんど同じである」と述べています。19世紀の時代に、世界のカヤ属を知っているとは、驚くべき博識です。この記述から世界のカヤ属は、よく似ているということが分かります。日本に自生するカヤTorreya nucifera(トリーア ヌキフェラ)をよく見れば、後は推してしるべきかもしれません。

カヤTorreya nuciferaは、日本の照葉樹林に生える常緑針葉樹です。日本では東北地方から南、そして韓国では済州島(チェジュトウ)に原生があるとされます。温暖で雨量の多い気候を好む植物なのです。暗い林床でも生育する陰樹で成長は遅く長寿で高木になります。

葉はそれぞれ対生に付き、長さは2cmぐらい。革質で表面はクチクラに覆われツヤがあり硬い線形、若い木の葉の先端は尖っているので触ると痛い思いをします。モミ(樅)に似ていますが、葉が光っていて鋭いので区別がつくと思います。枝も対生に付き、側枝は三つまたに分枝して伸びていきます。

針葉樹を見るときは、葉の付け根や先端の形状、葉裏の情報を得ることが大切です。葉裏には白いワックスに覆われた気孔が集まっている部位を持ちます。それを気孔帯といいます。カヤは、このような一つ一つの小葉に2本の気孔帯があります。コウヤマキは1本あります。ヒノキやアスナロ、サワラは、気孔帯の形状で容易に区別できます。

カヤの幹は通常直幹、枝はらせん状に配置され、樹形は円すい状になります。木肌は褐色で縦に裂け目ができます。木材は緻密で樹脂に富み光沢があり腐りにくいので、彫刻やおけなど多目的に利用されてきました。中でも、最高級の将棋盤や基盤として有名な木材なのですが、カヤは成長が遅く、一度伐採してしまうと再生産が難しいのです。それは、カヤという樹種の宿命です。今、カヤの木材を手に入れることは困難だといわざるを得ません。木の成長にスギやヒノキの数倍の時間を必要として、使える成木になるには300年という長い年月が必要なのです。

カヤは、雌雄異株です。つまり雄株と雌株があるのです。5月ごろ前年に出た葉の根元に雄花、雌花を付けます。受精は遅く、タネは次の年の秋に熟します。タネは子房で覆われていません。仮種皮という皮に包まれていますが、裸で葉の根元に付くので裸子植物といいます。それは、葉の裏に直接胞子嚢(ほうしのう)を付けるシダ植物に似ていると思います。

カヤの実の大きさは2.5cmほど、ドングリのようですが、種皮に包まれた種子ですので堅果といいます。Torreya nucifera(トリーア ヌキフェラ)は、堅果を持つという意味です。この実は栄養価に富み、東アジアでは人々が採集生活をしていた時代から利用してきたことが分かっています。

カヤについてのお話はもう少し続きます。後編をお楽しみに。

次回は「悠久の榧樹(カヤ)[後編]」です。お楽しみに。

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