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【第4回】晴耕雨読 ~雨が降ったらコラムを読んで、晴れたら畑を作ろう~

【第4回】晴耕雨読 ~雨が降ったらコラムを読んで、晴れたら畑を作ろう~

2019/03/26

もし、まっさらの土地を与えられて、そこに畑を作ることになったら、あなたならどうしますか。迷いなくクワを入れることができるでしょうか。簡単のようで意外と難しい。畝の方向だけでも迷うものです。そこで、今回はまず作物栽培に必要な畑の作り方について触れたいと思います。畑作りのための専門用語も出てきますが、平易に説明しますのでぜひ知っておいてください。知っておけば実用書などを参考にしたいときに役立ちます。後半は、苗の植え付け方について、その後の生育がスムーズになるためのコツも織り交ぜます。いずれも基本過ぎて詳しく説明してあるテキストをあまり見かけないので、役立つこと間違いなしです。

ところで畝って何?

目をつぶって畑を想像してみてください。きっと皆さんの頭の中の畑は、土を盛り上げて作った帯状の土地が連なっているのではないのでしょうか。そこに種(タネ)や苗を一定間隔でまいたり植えたりするわけです。この帯状のものを「畝(うね)」といいます。畝を作る(立てる)ことを「畝立て」といいます。特に土を盛り上げて作った畝は「高畝(たかうね)」といいます。あえて高畝と呼ぶのは土を盛り上げない平らな畝もあるからです。そう、ただの平らな地面なわけですが、そこで作物を作ればそれはそれで立派な畝なのです。こういった畝は「平畝(ひらうね)」といいます。

高畝は、平畝よりも表面積が多いので乾燥しやすく、水も流れやすいので排水性の悪い畑の湿害を防ぐために使われます。また、ダイコンのように根の長い作物は高畝にすることで深く耕すことなく肥大スペースを確保できます。ただし、立てられる畝の間隔には限りがあるので高畝の場合は栽培できる株数が制限されます。通路(畝間)の中心と隣の通路の中心を結んだ距離である「畝幅」が広ければ無駄なスペースが多くなりますし、狭過ぎれば生育が悪くなってしまいます。ちなみに畝の中心と中心の間を「畝立て幅」といい、畝幅と畝立て幅は同じ長さになります。

平畝は高畝よりも株数を多く栽培できるものの、排水性が悪いので過湿に注意が必要です。作物によっては、最初は平畝でも、除草や追肥などの際に土を耕す「中耕」をして、株元に土を寄せる「培土」を繰り返すことで高畝になる場合もあります。ブロッコリーやジャガイモなどはそのよい例です。週末に除草を兼ね、あるいは肥料やりのついでにクワで少しずつ土を寄せていくのは楽しいものです。

平畝で畝幅を広めに通路部分が気持ち低くなっていて、一つの畝の中に複数の作物を植える列があるような場合は「ベッド」と呼んだりもします。この列のことを農業の世界では「条」といい、条と条の間は「条間(じょうかん)」と呼びます。また一つの列の中の株と株の間は「株間(かぶま)」といいます。タマネギ、ニンジン、カブ、ホウレンソウ、コマツナなどではそれぞれに適した株間・条間で育てます。ちなみに花壇は英語でフラワーベッドといいます。

こんな具合でなんでもかんでも高畝にする必要はないのです。どの畝の種類にするか、畝幅や条間、株間などをどれくらいにするかは、栽培する作物の種類や土壌条件、時期、水はけなどで決めることになります。

畝の向きなんて気にする必要があるの?

ダメ!そっちは鬼門! なんてことはありませんが、畑を作るときに意外と重要なのが畝の向きです。畝を南北方向にするのか、東西方向にするのか、どうでもいいようで結構重要だったりします。作物栽培の基本は一斉に生育させることなので、その点に留意して畝の立て方を決めるとよいでしょう。

平坦な畑では、南北方向に畝を作ります。これは、南北方向の畝ではそれぞれの株に午前中は東からの光が、午後は西からの光が満遍なく当たり、作物がそろって生育するからです。東西方向に畝を作ると、株全体に十分な日光が当たらず生育むらが出やすいのです。冬は、さらに太陽の位置が低くなるので、東西方向の畝では北側の作物が南側の作物の陰になり、より生育むらができやすくなります。従って、何らかの事情で東西方向に畝を作った場合には、冬を通して栽培する場合は日(南中高度)が低いので北へ向かうに従って畝幅を広く取る、あるいは北側方向の畝は南側の畝よりも高くするといった工夫をします。南北畝でも冬は北側が気持ち高くなるように畝に緩やかに傾斜をつけると畝全体の日当たりが改善されます。

一方で、南北方向の畝にも注意が必要です。東側あるいは西側から強い風が吹きやすい場所では、畝の向きが風に逆らう形になるので、マルチ資材やトンネルが飛ばされたり、苗が傷んだりしやすいのです。このように風害が予想される畑では風の向きに逆らわない畝作りが必要になります。

また、畑が傾斜地の場合は、等高線に平行に畝を作ります。等高線に対して垂直に畝を作れば想像できますよね。山から谷側へ畝を作るわけで、畝と畝の間は水路のようになって雨が降れば水と一緒に土や肥料分が流されてしまうわけです。

マルチ資材を敷くことで栽培はグッと楽に

土の表面を、プラスチックフィルムなどのマルチ資材やわら、落ち葉などで覆うことをマルチングといいます。普通は略して「マルチ」と呼びます。マルチをすることで雑草の発生を防いだり、寒い時期に地温を高めたり暑い時期に逆に地温の上昇を抑えたり、乾きやすい畑での水分保持や、土の跳ね返りによる病気の予防、肥料分の保持など多くの効果が期待できます。そのようなことから野菜でも花でもよく使われる技術です。

フィルムにはさまざまな色があり、色によって地温の上昇効果が違います。透明は地温上昇効果が一番高く、緑、黒、銀、白の順番で効果は小さくなります。冬場や春先など地温を高めたければ透明や黒を、夏に地温の上昇を抑えたければ白を使うといった具合です。透明以外は雑草予防にもなります。目的や時期によって使い分けしますが、特定の品目を専門に扱う農家でなければそこまでこだわる必要はありません。参考までに私が使うのは黒だけで、幅は95cmと150cm、それとタマネギなどに使う条間15cm・5条で株間も15cm間隔で穴の開けられた95cm幅の穴開きマルチ(9515ホールマルチ)の3つのみです。マルチの幅は畝の高さにもよりますが、畝幅プラス40cm程度あればよいでしょう。

畝やベッドを立ててみましょう

道具は、ひも、棒、ナイフ、クワ、レーキを用意します。ひもは畝の長さプラスα分を1条なら1本を、2条以上ならば両サイド用に2本を準備します。ひもの両端を準備した60cm程度の長さの棒に結んでおきます。さらに棒はあと2本を用意しておきます。農家はクワ1本で何でもこなしますが、マルチフィルムを張るにはレーキもぜひ用意しておいてほしい道具です。

■ベッド作り(位置決めと施肥)

まず、畑の位置を決める(①ここではベッド幅とベッド長)。前回紹介した通り、堆肥などの有機物を入れて(②)粗起こし(③)。次に土壌酸度計(pH)を測定し(④)、苦土石灰などの石灰質資材を入れて(⑤)再びクワを入れる(⑥)。そして肥料を施し(⑦)丁寧に耕し、平らにならしておく(⑧)。有機物、石灰質資材、肥料はそれぞれ別々に入れるようにする。

■ベッド作り(畝立て)

ベッドの両端を結ぶようにひもを結んだ棒を立て、ベッドの左右の長辺にひもを張る(②)。マルチフィルムを張るときの目印になるようベッド幅の中心に棒を立てておく(③)。

ひもの内側(畝内)あるいは外側(通路側)を削るようにクワで土をよける(④)。

さらにベッド表面をレーキの歯のある方でならし歯に当たる大きめの土の塊や石などを丁寧にベッドの外へかき出し(⑥、⑦)、仕上げにレーキの歯のない方(背)で平らにしておく(⑧、⑨)。マルチ資材を敷かないベッドだけを作るのであれば、ここでおしまい。

■ベッド作り(マルチフィルム張り)

ベッド幅の中心に立てた棒にフィルムの中心に印刷されている目印を合わせ、土を寄せ、動かないようにする(①)。距離が長い時はところどころ土で押さえておく。ベッドをまたいで後ろ向きに進みフィルムを引き出していく(②)。芯にひもを通して引き出すと作業しやすい(③)。またげない幅ならばマルチフィルムの芯に棒を差し込み(④)、両端を2人で持って引き出していく⑤。

ベッド末端に着いたらフィルムの上から土をかけ(⑥)、その上からナイフを入れ(⑦)、フィルムをで切り離す(⑧)。

ベッドの端から長辺にクワで土を寄せていく(⑨)。

通路の表面もレーキを使い平らにならしておく(⑫)。

■高畝作り

高畝の作り方も基本は、ベッドの作り方と一緒です。写真を参考に説明します。

畝立て幅に棒を立て、畝の長さ分のひもを張る(①)。ひもに向かってクワで土を寄せていく(②)。端まで寄せたら反対側も寄せていく(③)。クワで頂点部分を均等に削る(④)。高さが足りないようならば、土を寄せ、頂点を削る作業を繰り返す(⑤~⑦)。畝が立ったら、周辺をレーキできれいに整える(⑧)。最後に棒を片付けて(⑨)、出来上がり(⑩)。

植え付けのお作法

さて、いよいよ苗の植え付けです。よい苗は葉がきちんと欠落することなく付いていて、徒長することなく葉と葉の間の茎(節間)は比較的短く、下葉の色が濃く、病虫害もなく、根は白く生き生きとして、ガッチリしています。自分で種(タネ)から育てるとき、あるいは苗を購入する場合もできるだけそのような苗を準備します。

あとは、植え穴をこしらえて苗を植えるだけと言いたいところですが、後々の成長を考えると一応植え付けにもお作法があります。まず、植え付けはできるだけ風のない日を選びます。風が強いとしおれやすく、枝葉が折れるなど苗は致命的な傷害を受けやすくなります。その上で次の手順で作業をします。

特に植え穴に水やりしておくことは、とても大切なのです。水をやっているのとやっていないのとでは後の生育に大きな差が出てきます。よくやるのが植え穴に水やりせず苗を植えてから水やりする人がいますが、意外と根の下にまで水は染み込んでいないものです。根よりも下に水分があると植え付け後に水のある方へスムーズに根を伸ばし、苗と土へのなじみ(活着)がよくなります。露地の畑では地下の水とつながることで、通常は植え付けた日以降の水やりは必要ありません。植え付け直後のしおれも大幅に改善されます。

植え付け前の苗にはたっぷり水やりしておく。これは特にたくさんの苗を植え付ける際に植えるまで、あるいは植えた後にしばらく水管理ができず苗が乾きやすい環境下に置かれることによる(①)。次に植え穴を開ける(②)。穴を開けたら植え付け前に植え穴に水をやっておく(③)。

苗の植え付けは、基本は深過ぎず、浅過ぎず、根鉢(ポットなどの中で土に根が巻いてポットの形になったもの)の上面が植え付け側の土面と同じ高さになるように植えつける(④、⑤)。キャベツやブロッコリーなどの苗は深めに植えた方がよいようなこともあるが、果菜類の特に接ぎ木苗の深植えはご法度。例えば土壌病害の害を減らすために抵抗性のある台木に接いでも、深植えにして穂木にまで土がかかるように植えては病気に感染してしまい接ぎ木にした意味がない。土をかける、あるいは寄せて植え穴と根鉢の隙間を埋める(⑥)。植え付け後は念のためもう1回株元にしっかり水やりしておく(⑦)。真夏で干ばつでもない限り、この後数日は、水やりは行わず活着を促す。

実は私は、この植え付け前にもう一工夫しています。トマトなどの果菜類や、ブロッコリーなどの葉菜類に苗に水やりするように長効きする殺虫剤(ベリマークSCなど)を散布しておきます。作物は生育初期に病虫害にあわなければ後の生育は放っておいても大体の場合は問題ないものです。環境や人への影響もほとんどなく、薬剤散布後1カ月程度はほぼ害虫の心配はありません。人間も子どものころに大病せず大人になってしまえば少々の病気は問題ないのと同じです。

春先の生育はあんどんでバッチリ

前回、ご紹介した加温箱を使えば、育苗期間の長いナスやピーマンを2月下旬に、トマトも3月上旬に種まきして4月下旬にポットで育苗した苗を植え付けることができます。ただし、これら早植えの野菜や、高温性野菜のスイカ、メロンなどは畑やコンテナに植えた後も気温が生育適温に満たないことが多いので、その場合は保温をします。保温することで生育や根づきが促されます。保温はベッド全体を覆うトンネルのような方法もありますが、植え付ける株数が少なければあんどんやホットキャップを使い1株ずつ保温します。

私はホットキャップではなく断然あんどん派です。理由は安価に簡単に作れて、高温になったときの葉焼けなどの心配がないからです。あんどんの上部分は開いているので効果がなさそうですが、その心配はありません。また、特に5月に入ると季節風が強くなるので風からも苗は守られます。

■保温用のあんどんの作り方

ヨコ50cm×タテ60cm(20L)の透明なポリ袋を用意する。植え付けた苗の周り四隅に支柱を立て(②、③)、底部分をカットした袋(④)で覆って(⑤)、洗濯ばさみで袋と支柱を1カ所留めて(⑥)出来上がり(⑦)。

次回は「畑は地べただけにあらず〜コンテナというもう一つの畑〜」です。お楽しみに。

JADMA

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