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【第10回】渡る世間も土次第[その3] ~数値から必要な肥料の量を決めよう~

【第10回】渡る世間も土次第[その3] ~数値から必要な肥料の量を決めよう~

2019/09/24

前回は、測定したpHとEC(Electrical Conductivity)の数値から土の状態を知り、植物が育つのに適した土の状態にすることをお話ししました。特にpHが低い場合は石灰質資材を施し、ECの数値によっては通常よりも施す窒素質肥料の量を減らせることに触れました。そして最後は、動・植物をもとにした有機物が微生物によって分解した堆肥を施すメリットについて紹介しました。今回はそれら、石灰質資材、化学肥料、堆肥の施す量を考えます。[その1] 、[その2] の知識が大切なので、先に進む前にもう一度読んでみましょう。

どれくらい堆肥は施したらよいのか

表1 野菜の堆肥施用量

(単位:t/10a)

参考:農林水産省「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書(2008)
※非黒ボク土の場合
関東などに広く分布する黒ボク土の場合はこの2~3倍量が下限値になるので、参考の報告書をご覧ください。
 地力維持・推進のために
必要とされる堆肥施用量下限値
(1年当たり)※
堆肥施用量
上限値
(1作当たり)
寒地暖地
稲わら堆肥 1 1.5 14
牛ふん堆肥 0.5 1 5
豚ぷん堆肥 0.5 0.5 2.5
バーク堆肥 0.5 1 12

堆肥には多くのメリットがあるので、積極的に使いたいものです。その施用量は野菜では表1の通りで、例えば地力維持のために少なくとも使ってほしい1年当たりの牛ふん堆肥の施用量は10a当たり寒地で0.5t、暖地で1t(1m2当たりなら0.5kgと1kg)です。一方で、1作当たり牛ふん堆肥の施用量の上限は5t(1m2当たりなら5kg)までです。肥料としての効果も期待するならば、牛ふん堆肥では1回にこれぐらいまで施して構わないということです。不必要にたくさん施す必要もありませんが、どれくらいまで堆肥を施しても大丈夫か目安になります。

堆肥を施した分の化学肥料が減らせる

表2 堆肥1t当たりの減肥量(単位:kg/10a)

参考:農林水産省「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書(2008)
 窒素リン酸カリ
前作に各堆肥を
使っていない場合
前作に各堆肥を
使った場合
稲わら堆肥 1.0 1.7 2.0 2.9
牛ふん堆肥 2.1 4.3 7.0 4.8
豚ぷん堆肥 4.1 8.1 19.4 6.9
バーク堆肥 1.1 1.9 3.1 1.8

また、化学肥料を施す際に、堆肥に含まれる肥料の三要素である窒素、リン酸、カリのことはどうしても忘れがちです。これは、堆肥に含まれる成分は、堆肥の素材が何か、いつどこでどんなふうに作られたかで成分量が異なることや、ゆっくり分解して効くのでその成分量が判りにくいとか、分析に手間がかかるといった事情があるためです。本来は時間をかけて土の中の堆肥由来の窒素量を分析しますが、それは家庭園芸レベルではハードルが高過ぎます。そこまでしなくても堆肥の種類から表2を使って簡易に判断することもできます。特に堆肥に含まれる窒素成分量が判ればその分、化学肥料の施用量を減らせ経済的です。例えば、前の栽培で牛ふん堆肥を使わなかった場合(非連用)、牛ふん堆肥を10a当たり1t施すと、窒素の成分量2.1kg(1kgを施した場合は2.1g)分の化学肥料を減らせます。

肥料の施し方でも施肥量を減らせる

化学肥料の施用量を通常よりも少なくできる「減肥」は、堆肥の施用だけでなく、元肥としての肥料の施し方でも行えます。元肥の施し方には、「全層施肥」と「溝(作条)施肥」があります。この中の特に溝(作条)施肥は、減肥の効果が高い栽培方法です。

全層施肥

全層施肥は、ホウレンソウ、コマツナ、シュンギクなどの比較的株間や条間を狭くしたい葉菜類、直根性で根に肥料が当たると困るダイコン、ニンジンなどの根菜類に適した施肥方法です。土面全体に肥料をまいたら深さ10~12cmを目安に土全体をクワなどで耕し肥料を混ぜます。この場合、平畝(第4回で紹介)よりも高畝にした方が、肥料成分の地下への流亡を抑えられ、効率的に肥料を使えます。

溝(作条)施肥

溝(作条)施肥は、トマト、ナス、ピーマンといった果菜類や、キャベツやブロッコリーなどの株間や畝間を空けて栽培する葉菜類などに適した施肥方法です。

植え付ける場所に20cm程度の溝をクワなどで作りそこに肥料を施し、土と肥料を混ぜることなく(有機質肥料は軽く混ぜる)溝へ土を戻し、そこに苗を植え付けるものです。全層施肥では肥料から溶け出したアンモニウムイオンの多くが微生物によって硝酸イオンになります。硝酸イオンは陰イオンなので土の粒子に吸着せず、水によって流され地下へ逃げていきます(流亡)。一方で溝施肥した場合は、溶け出たアンモニウムイオンは高濃度で存在し、それが硝酸などを作る微生物の働きを抑制することで硝酸イオンへの変化が緩やかになり、長く肥料の効果が得られます。そのため、溝施肥は全層施肥で施すよりも肥料の量を2~3割減らせます。ただし、溝施肥では肥料のあるところまで根が伸びないと肥料の効果が得られない欠点があります。堆肥を施しておけば大きな問題にはなりませんが、施さない場合などで初期生育が悪いようであれば液肥などで応急的な手当てをします。

追肥の施し方

リン酸やカリは、窒素成分と違い、水と一緒に地下へ流れにくいことから元肥中心に施します。追肥に使う肥料は、できればカリやリン酸を含まない硫酸アンモニウム(硫安)などを使えば無駄に肥料成分を投入しないで済みます。ちなみに堆肥にもカリやリン酸は含まれるので、堆肥を施した場合は表2を参考に窒素同様に元肥の量を減らせます。

図1 手を使った量り方(写真は成人男性の手)

追肥を施す際、施す肥料の全体量ははかりで量りますが、個々の株への施肥は、その都度、はかりを使うのでは効率的とはいえません。そこで覚えておくとよいのが自分の手を使った量り方です。図1のように、成人男性の3本指で1つまみは約1.5g、5本指で1つまみは約5g、片手で1握りは約30gです。個人差があるので自分で一度量ってみて平均を出してどれくらいか知っておくと便利です。

施肥量を求める

施肥量の情報は、プロ向けに10a(10×100m=1000m2≒1反)当たりで表現されるのが一般的です。従って、ちょっと規模は大きいですが、最初に10a当たりで石灰質資材、堆肥、肥料などの全ての量を求め、最後に自分が栽培する株数に応じた量を決定します。

ちなみに深さは10cmが基準です。理由は「作土」と呼ばれる人が耕すことでつくられる畑の上部の土の層は、クワなどで耕した場合に、その深さは10~12cm程度だからです。

では、実際の施肥量を求めてみましょう。方法はいくつかあると思いますが、私は次の手順で求めています。

10a当たりの作物ごとの施肥情報を、栽培関係の書籍や農林水産省HPの施肥基準などから得る。
※農林水産省HP内の「都道府県施肥基準等」に都道府県ごとに情報があるので参考にするとよいでしょう。

施肥情報から10a当たりの堆肥の投入量を決める。

実際に栽培する株数(ないしは面積)から堆肥の施用量を出す。
※堆肥投入後にpHを測定する。


投入した堆肥の量から減肥できる10a当たりの窒素成分量を割り出す(表2)。
※このとき前作に堆肥を入れたか注意する。

ECの数値と土壌の種類から10a当たりの肥料の窒素成分量を決める(第9回表4)。


⑥の10a当たりの成分量から⑤の堆肥の成分量を差し引き、全層施肥の窒素成分量を求める。

溝施肥では、さらに⑦の施肥成分量から20~30%減らし、最終的な窒素成分量とする。

⑧で出した窒素成分量から、使用する肥料に応じた10a当たりの肥料の施用量を決める。

作土の深さに応じて施肥量を増減する。ただし、前述した通り、施肥量の情報は人がクワなどで耕した場合の深さ10cmの量なので、機械を使い深く耕すようなことでもなければ通常の栽培では増減しない。従って、手で耕す場合はこの⑩はスキップし、⑨から次の⑪へ進める。コンテナ栽培も同様にスキップする。
※トラクターなど機械で耕した場合はトラクターに取り付けるロータリーは普通12~15cmの深さなのでその深さ分施肥量を増やす。

栽培する株数から石灰質資材、肥料の実際の施用量を出す。
※コンテナ栽培では石灰質資材の量はコンテナ容量から換算する。

土質や環境で作物の反応はさまざまに変化します。従って上述した方法で施肥量を出しても必ずしもドンピシャということにはなりません。実際には植物の反応を見て肥料の量や種類の組み合わせなどを試しながら自分の畑に適した施し方を決めていきます。

では問題を2問出しますので、施肥量を求めてみてください。

問題1

秋冬ダイコンの栽培を計画し、その施肥量を調べたところ、施肥基準は下表のような記載がありました。古土を使い、袋(16L)でダイコン1本を栽培する場合の元肥に使う堆肥、石灰質資材、それに肥料の量はどれくらいになりますか。また、追肥に使う肥料の量も求めてください。
※ちなみに土はもともと市販の培養土。ECは0.5で、pHは5.0、前作で堆肥は使っていません。肥料は全層に施し、元肥には、N(窒素)-P(リン酸)-K(カリ)の成分量が7-7-7の化成肥料、追肥には硫安(21-0-0)を用い、石灰質資材を使う場合は苦土石灰を使うものとします。

表3 秋冬ダイコン栽培情報

土壌pH 適応性は広く5.0~7.0(適正pHは6.0~6.5)
施肥量(10a当たり) 元肥:11.5kg
追肥1回目:6.4kg
追肥2回目:6.4kg
改良資材(10a当たり) 牛ふん堆肥:1t
栽植密度(10a当たり) 8,300株

回答(①から⑪の手順に従って答えを出してみます)

今回は施肥情報は問題として設定。

牛ふん堆肥は10a当たり1tを施す(表3参照)。

ダイコンの10a当たりの栽植密度(植え付け株数)は8,300株なので(表3参照)、1本当たりの施用量を求めるためには1/8,300を乗すればよく、ダイコン1本分の堆肥は、1t(1,000,000g)×1/8,300本≒120gとなる。

ダイコンは表3 秋冬ダイコン栽培情報からpH5.0でも栽培でき、pHを矯正する必要はないので苦土石灰は使わない。

前作で堆肥は使わず、表2から、減肥できる窒素成分量は10a当たり2.1kgと出る。

元肥の窒素成分量は10a当たり11.5kgだが、今回ECは0.5で、土は購入培養土なので平均的な第9回表4から「沖積土・洪積土」の部分を使い、基準施肥量の2/3を施用すればよいので11.5kg×2/3≒7.67kgになる。

⑥の7.67kgから⑤の2.1kgを減じた10a当たり窒素成分5.57kg分の肥料を施せばよい。

溝施肥ではないので(全層施肥なので)スキップ。

成分量7-7-7の化成肥料は、100kg中に7kgの窒素を含むのでこれ(x:5.57=100:7)から10a当たりのこの化成肥料は79.5kgを施せばよいことが分かる。

追肥1回当たり窒素成分量は10a当たり6.4kgで、硫安(21-0-0)の場合は、(x:6.4=100:21)から30.5kgとなる。

コンテナ栽培なのでスキップ。

最後にダイコン1本当たりの施用量を出すため、10a当たりの各施用量に1/8,300本を乗じて、元肥は79.5kg(79,500g)×1/8,300≒9.58g、追肥(1回当たりは硫安(21-0-0):30.5kg(30,500g)×1/8,300≒4gになる。

元肥
牛ふん堆肥: 120g
化成肥料(7-7-7):9.58g

追肥(1回当たり)
硫安(21-0-0):4g

※今回は追肥に硫安を使いましたが、化成肥料(7-7-7)しかない場合は計算してこの肥料を施してもよいです。多少、リン酸、カリ分が無駄になりますが、栽培上大きな問題にはなりません。

問題2

ピーマンを露地で栽培しようと思います。施肥基準は下表の通りでした。1株を栽培する場合の元肥に使う肥料や石灰質資材の量はどれくらいになりますか。また、追肥に使う化学肥料の量も求めてください。
※ちなみに土は黒ボク土で、ECは0.3で、pHは5.0、堆肥は前作でも施用。肥料はN(窒素)-P(リン酸)-K(カリウム)の成分量が7-7-7の化成肥料を溝施肥にし、石灰質資材は貝化石を使うものとします。追肥には硫安(21-0-0)を使うものとします。

表4 ピーマン栽培情報

土壌pH 適正pHは6.0~6.5
施肥量(10a当たり) 元肥:36.5kg
追肥:15kg(収穫期から4~5回)
改良資材(10a当たり) 牛ふん堆肥:5t
栽植密度(10a当たり) 1,000株

回答(①から⑪の手順に従って答えを出してみます)

今回は施肥情報は問題として設定。

牛ふん堆肥は10a当たり5t施す(表4参照)。

10a当たりの栽植密度は1,000株なので(表4参照)、ピーマン1株分の施用量は1/1,000を乗じればよく、ピーマン1株分の堆肥は、5t(5,000,000g)×1/1,000株=5kgになる。

今回の土のpHは5.0で、しかも黒ボク土なので、ピーマンの適正pHの6.0にするには、第9回表2、3から苦土石灰なら10a当たり280~380kgだが、今回は貝化石を使うので、その1.2倍の336~456kgを施すことになる。

表2から、前作で堆肥を使用しているので減肥できる窒素成分量は、1t当たり4.3kgで今回5t施したので10a当たり21.5kgになる。

ECは0.3なので、第9回表4から黒ボク土では基準量を施せばよく、窒素成分量は栽培情報に従い36.5kgを施せばよい。

⑥の36.5kgから減肥分21.5kgを減じた10a当たり窒素成分15kg分の肥料を施せばよい。

さらに溝施肥にするので20~30%減じ、10a当たりの窒素成分量は10.5~12kgとなる。

実際に施用する化成肥料(7-7-7)では、(x:10.5~12=100:7)から、10a当たり150~171kgの化成肥料を施せばよい。追肥は5回施すとして1回当たりの成分量は10a当たり15kg÷5回=3kgで、硫安の場合は、(x:3=100:21)から14kgとなる。

機械は使わずクワで耕す通常の栽培方法なのでスキップ。

最後にピーマン1株当たりの実際の施用量を出すため、10a当たりの各施用量に1/1,000株を乗じ、貝化石は336~456kg×1/1,000=336~456g、元肥は150~171kg×1/1,000=150~171g、追肥1回当たりは14kg×1/1,000≒14gになる。

元肥
牛ふん堆肥:5kg、貝化石:336~456g、化成肥料(7-7-7): 150~171g

追肥(1回当たり)
硫安(21-0-0):14g

※今回は追肥に硫安を使いましたが、化成肥料(7-7-7)しかない場合は計算してこの肥料を施してもよいです。多少、リン酸、カリ分が無駄になりますが、栽培上大きな問題にはなりません。

次回もお楽しみに。

参考文献

藤原俊六郎・安西徹郎・加藤哲郎:『土壌診断の方法と活用』農文協(1996)
農林水産省「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書(2008)

JADMA

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