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【第9回】上手に発芽させるにはコツがあります

文・写真

三橋理恵子

みつはし・りえこ

園芸研究家。一年草・多年草をタネから育てる研究をしている。著書に『三橋理恵子の基本からよーくわかるコンテナガーデン』(農文協)、『イラストで学ぶ、はじめてのガーデニング』(角川マガジンズ)などがある。


※タネのまきどきなどは神奈川県横浜市における栽培に基づいて記載しています。

【第9回】上手に発芽させるにはコツがあります

2017/09/26

発芽適温に合わせることが第一のポイントです

タネをまいて第一の関門は、発芽です。まいた粒数のどのくらいの割合の芽が出るか、これが発芽率。まいたタネの発芽率を知るには、まくタネの粒数を数えておきます。ラベルに数を書いておくと忘れません。20粒まいて18粒から芽が出たら発芽率は90%、10粒なら50%です。新しいタネなら、正しくまけば80%ぐらいは期待できます。芽は同じタイミングで出るものが多いのですが、順次発芽傾向といって一斉に芽が出ない草花もあります。特に多年草類に多く見られます。また花色がミックスのタネも、やや発芽がばらつきます。

発芽率をよくするには、いろいろなポイントがあります。1番目はまきどき。タネが発芽するためには、発芽適温に合わせることが条件です。タネ袋に「発芽適温00度」と記載があるのがそれです。ただし、適温には幅があることがほとんどなので、同じ草花でも記載されている温度が違うことがよくあります。また品種によっても違いがあります。

といっても、厳密にその温度に合わせなくてはいけないということはありません。自然界では昼夜に温度差があり、日によって天候も変わるなど、温度が恒常的ではないからです。逆に昼夜の温度差は、発芽を促す要因になることもあります。

秋まきの温帯性草花なら、発芽適温は20度前後。春まきの熱帯性草花なら、20度前後のものと25度前後のものに分かれます。春と秋の適期にまけば、問題なく発芽します。ただし、屋外で適温にならない夏や冬などは、屋内の発芽適温を保てる場所に置いて発芽させることもあります。ちなみに発芽適温は気温でなく、タネをまくまき床の土の中の温度、地温のことです。地温が分からずタネまきが心配なときは、まき床に差すタイプの地温計があるので利用するとよいでしょう。

まき床に差すタイプの地温計。適期にまけばほとんど気にしなくていいものですが、だいたいどのくらいの温度になっているか、目安を知るには便利です

一斉に発芽する草花は、発芽までの日数がタネ袋に記載されています。うまく発芽するかどうかは、この日数が目安になります。発芽適温の幅の広いものについては、温度が高い方が発芽は早まる傾向にあります。また覆土が厚めだと発芽はやや遅れます。

タネをまくとき、直(じか)まきの場合は適期にまくのが原則です。しかし床まきやポットまきにすれば、発芽適温に合うように移動ができます。まき床を置く場所の日当たりや風通しなどによって、温度はかなり変化します。温度が高過ぎるときは日陰の風通しのよいところへ、反対に足りないときは、よく日の当たる場所にまき床を置いて対処します。屋内も利用できます。タネまきの初心者なら、まずは発芽適温になる春や秋の適期にまいて、発芽の温度の感覚をつかみましょう。何年かタネまきを経験すると、このくらいの時期、気温ならば発芽すると分かってきます。

タネをまくときの覆土の量も、発芽に大きく影響します

覆土も発芽率を上げるためのポイントです。覆土が薄過ぎると、タネが露出して乾きやすくなります。芽の出かけたタネがいったん乾燥してしまうと、枯れて発芽できなくなります。逆に覆土が厚過ぎると、双葉が表面に出てこられず発芽は失敗します。覆土の適量は、タネの厚さ分ほどが標準。タネが小さくなるほど、覆土の量は微妙なさじ加減になります。タネをまくときと同じ要領で用土を少量つまみ、丁寧に少しずつ土をかぶせます。覆土に使う用土は、やや乾いている方がパラパラときれいにまけます。タネ袋の説明に「覆土は00mm」などと表記されていれば、それに従います。

ただし、タネの中には、発芽に光の影響を受ける種類が時々あります。発芽に光を必要とする好光性種子と、発芽に光を嫌う嫌光性種子です。好光性種子なら、やっとタネが隠れるくらい薄く、もしくは細かいバーミキュライトで覆土します。嫌光性種子なら、タネの厚みの2倍ほど覆土します。発芽までのまき床などの置き場所も、好光性種子ならよく光が届くところへ、嫌光性種子なら暗いところに置いて発芽を促します。

難しいのが、手でつまめないほどの微細タネ。ジギタリスやカンパニュラなどが代表です。微細タネには、タネの大きさの何十倍、何百倍にもなる粗い用土は不向き。なるべく細かい用土を使います。用土の粒よりも小さな微細タネは、まくと用土と用土の隙間に落ち着きます。よって、覆土はしません。多くの微細タネは、好光性種子であることも多いからです。またタネが落ちた場所によっては、土中深く潜ってしまうことが必ずあるので、少し多めにまきます。

(1)はやや粗めの用土にまいた微細タネ。(2)は細かい用土にまいた微細タネ。粗めの用土にまいた方は、ところどころ発芽しないところがあります

タネまき後、ハンドスプレーで霧水を与えると、タネと用土が密着して落ち着きます。微細タネでは、時折まきやすいようにコーティングされているものがあります。水を与えるとコーティング剤は流れ落ちるので、覆土してしまうと土中にタネが潜り過ぎて発芽できないので注意します。

水やり、タネの新鮮さなども発芽を決める大切な要因です

タネを発芽させるためには、もちろん水も必要です。水を与えられることで、眠っていたタネの発芽代謝が始まります。いったん発芽に向けて動き出すと、水切れは禁物。まき床を屋外に置くと、日当たりのよいところでは特に乾燥しやすくなります。発芽まではまき床の表面の土が湿っていることが大切。白っぽく乾いた状態が続くと枯れてしまい、発芽能力を失います。基本的には毎朝1回水やりをします。

反対に水を与え過ぎて過湿になると、タネが土の中で腐ることがあります。適期にまいて覆土も適当。水も毎日与えているのに芽が出ない、というときはこのケースが疑われます。特に大粒のタネは呼吸量が多いため腐りやすいので、いつも土を水浸しにしないことが大切。大粒のタネに見合った少し粗めで水はけのよい用土を使うこともポイントです。細かい用土がタネの周囲にびっしり張り付くと、呼吸できなくなってしまいます。

もちろん、新鮮なタネをまくことも大切です。店先などで長く常温に置かれたタネは、発芽率が落ちます。デルフィニウムやパンジーなど、高温にさらされるとすぐに発芽力が落ちるものもあります。タネは購入したら、すぐに冷蔵庫に入れて保管します。残りダネも冷蔵庫に保管しておけば、タネの呼吸量はぐんと減るので、鮮度が保てます。

発芽はしたものの、時々、双葉にタネの殻が付いて出てきてしまうことがあります。これにはいろいろな原因があります。通常、土から双葉が顔を出すとき、覆土でこするようにして外殻を脱ぎ捨て、双葉を開きます。ところが覆土の量が足りなかったり、土が軟らか過ぎたりすると、殻を上手に脱げずに殻を付けたまま出てきてしまうのです。また気温が足りないとき、高過ぎるときも、殻を付けて出やすくなります。

(1)と(2)は地中のタネが殻を用土にこすり付けて脱ぎ捨てながら発芽していく様子。(3)のように双葉が開いた状態で殻が付いているものは問題はないのですが、(4)のように地表面で脱ぎ捨てられないと、双葉が開くのにエネルギーを使い、消耗します

双葉が開いた状態で殻が付いているなら問題はないのですが、殻が付いていて双葉が開いていないとき、芽は一生懸命、殻を脱ごうとしています。そのためにエネルギーを使っている状態です。タネが殻を脱ぎ捨てるのを待っても、うまく脱げないものは間引きますが、手やピンセットを使って取ることもできます。丁寧に行えば、案外うまくいきます。

これだけのことをきちんと踏まえた上でも、発芽率が思わしくないことがあります。特に、タネまきの時期から外れているとき。水の加減や覆土も微妙なさじ加減が必要なこともあります。育てたい適量でまくと、苗が足りないことがあるので、少し多めにまいてカバーできたら一番です。家庭の庭なら、1種類の苗はそう多く必要ないので、発芽率が少し低い程度なら、さほど問題ないことも多いでしょう。

〈上手に発芽させるためのポイント〉

イラスト:阿部真由美

次回は「ポイントを押さえて、発芽した芽を大きく育てましょう」を取り上げる予定です。お楽しみに。

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