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連載

【第13回】草花の名前をきちんと特定するためのラベリング

文・写真

三橋理恵子

みつはし・りえこ

園芸研究家。一年草・多年草をタネから育てる研究をしている。著書に『三橋理恵子の基本からよーくわかるコンテナガーデン』(農文協)、『イラストで学ぶ、はじめてのガーデニング』(角川マガジンズ)などがある。


※タネのまきどきなどは神奈川県横浜市における栽培に基づいて記載しています。

【第13回】草花の名前をきちんと特定するためのラベリング

2018/01/09

手作りのラベルを立てた苗

迷子の苗を作らないためのラベリング

タネから草花をいろいろ育てていると、それぞれのステージで何の草花なのか、どんな品種なのかを知るためにラベルを立てることが大切です。私も長年タネをまいていて、葉の形や苗の姿でどの草花なのかを判別できるつもりでも、いくつか植え付ける段になって、不明な苗が出ます。一つの種類で数品種まいているときも、花が咲くまで特定できないのでお手上げです。

私の運営しているタネまきの倶楽部でも、育った苗の種類が分からなくなったという人から、ときどき写真が送られてきます。タネをまいた種類が途中で分からなくなるのは、タネまきをしている人に共通の悩みといえます。種類が分からなければ植え付けられませんし、なるべく不明苗を出さないようにするのが、ストレスなくタネまきをするためにも大切です。ラベルはそのためになくてはならないものです。

何の苗なのか分からなくなるのは、立てていたラベルがいつの間にか、風などで飛ばされてなくなってしまうため。ラベルは細長く、比較的安定が悪いのが原因です。市販のポット苗のラベルはホチキス留めになっているものが多く、これもラベルを紛失しないための工夫です。

ラベルは白いプラスチック製や木製のものが売られています。長さや幅はさまざまですが、標準的には長さ7~8cmくらい。幅は1cmほどの小片です。差す側は鋭角に切り取られています。標準的なタイプなら、両面書き込めます。タネをまくときなら、草花の種類名や品種名だけでなく、まいた日付とまいた粒数を記載します。草丈や株間なども書いておくと、植え付けのときに便利です。その草花の情報をなるだけラベルに詰め込んでおきます。

市販のラベル。プラスチック製や木製のものなど。プラスチック製は鉛筆でも書けますが、油性ペンがおすすめです。その場合は使い終わったらエナメルリムーバーで簡単に消せます

もともと草花の名前は、和名のある草花以外はなじみがなく、覚えにくいものがほとんどです。初めて育てる草花なら、なおのこと。ラベルに草花の名前を何度も書くことで、覚えることにつながります。育てている間も、ラベルを日々見ているうちに自然に名前が頭に入ります。苗はいつも種類名や品種名とともに。これが苗育ての秘訣です。

タネまき苗には、手作りラベルを使いましょう

私が長年使っているラベルを入れる箱は葉巻きのケース。鉢上げのシーズンになるともっとたくさんラベルが必要になるので、予備もたくさん用意します

ラベルは市販のものを使ってもよいのですが、たくさん苗作りするなら、必要なラベルの数も膨大です。私はいつもラベルを手作りしています。一番多く使うのは、魚や肉が入れられている発泡ポリスチレン製の白いトレー。厚みのあるものは土に差しにくいので、なるべく厚みのないものを選んで、ハサミでラベルの形にカットします。油性ペンもよくなじみます。使ったあと捨てればよいのでその点も楽です。

水に強いといえば、牛乳パックも使えます。以前これをラベルの形に切って使っていたこともあります。苗育ては数カ月と短いので、その間なら紙パックでも十分に耐えます。裏の白い方に文字を書きます。他にも、耐水性のある切れるほどの薄いものなら、ラベルに応用できます。ただし、透明のものは文字を書くと読みにくく、つるつるしていると文字が消えやすいです。

ラベル作りには肉や魚のトレーの他、プラスチック製の薄いものなど、いろいろ探すと見つかります

100円ショップの商品で、ラベルに使えそうなものを探したこともあります。紙のように薄くて白っぽい耐水性のあるものなら、ラベルに応用できます。色は白でなくても、油性ペンで字が書ければ使えます。市販の耐水紙もあります。厚みもさまざまなものがあるので、厚めのものが手に入ればラベルの形にカットして使えます。

ラベルはそのときどきで使いやすいように工夫します。草花の情報をいろいろ入れておくなら、1品種につき一つだけ大きく幅広にカットすればよいでしょう。差す側をとがらせてカットしますが、ガーデニングを始めたころ、面倒なので板状に切るだけで使っていたことがありました。やはり差すときに、先がとがっている方が差しやすいです。

ラベルに品種名などを記載するときは、必ず油性ペンを使います。水性ペンは書けても水で流れて消えてしまいます。油性ペンも黒の他、赤や青、緑などいろいろあるので、苗の種類などによって使い分けてもよいでしょう。

ビニールテープを使ってラベリングした苗

この他ラベリングには、ラベルを立てないやり方もあります。ビニールテープをラベル代わりにする方法です。丸いテープは平面でないのでやや書きにくいですが、テープに品種名など記載して、それをカットしてまき床やポリ鉢の側面に張ります。ビニールテープは厚くて剥がしやすく、また何度でも張り直しできるので、案外使いやすいです。ラベルのように落ちる心配もありません。多量にラベリングするときや、ラベルを切らしてしまったときにも使えます。白やピンク、黄色など、淡い色のものが向きます。

まき床、苗などそれぞれにラベルが大切です

屋外でまき床を管理するときは、ラベルが落ちないように横に倒しておくと安心です

ラベリングの方法は、タネまきのステージによってさまざまです。まずはタネをまいたとき。床まきならまき床に何の種類、品種か、そしてまいた日付、粒数などをラベルに記載して、まき床の隅に立てます。まき床は土が浅いので、外でまき床を管理する季節は、ラベルがなくなってしまうことがあります。ラベルは長すぎると風で飛ばされやすいので、短め、やや幅広に作ります。ラベルを横に倒しておくと飛ばされにくくなります。

まき床なら1種類で使うのは一つのラベルなので、この段階ではそんなに数はいりません。ところが鉢上げする段階になると、一つのポットに一つのラベルが必要になります。鉢上げする前に苗の数を数えておいて、あらかじめその数から一つ少ない分のラベルを用意しておきます。一つはまき床で使っていたものを使います。鉢上げが済んだら、それを一つずつポットの隅に差します。苗がたくさんあれば、ラベルもそれだけ必要です。

ただし、一つの草花で1品種しかまいていなくて、明らかに苗の形で種類が特定できるものなら、ラベルは作らないこともあります。つまり、まき床に差していたラベルを使い、新しいラベルは用意しません。

パンジーやビオラ、ハボタンのように、一度にいろんな品種のタネをまいたときは、必ず一つのポットに一つラベルを差します。品種の違うものを別の場所やトレーで管理しているから迷子にならないだろうと思っていても、苗を移動させているうちに必ず品種の分からないものが出てきます。ラベリングがしっかりできていることも、きちんと苗を管理する一環です。

いろいろな品種を育てている草花には、一つ一つラベルを立てましょう

ポリ鉢は深さがあるのでラベルは細長いものを使い、なるべく深めに差しましょう。浅いとなくなってしまうことがあります。自宅で管理している苗なら、特にラベルの文字は全部見えていなくてもよいと思います。市販の苗のようにホチキス留めにして固定してもよいのですが、植え付け後いちいちホチキスを外すのは手間がかかります。なるべく深めに差して対応するほうがよいように思います。後は、同じ種類をなるべく他と分けて、一括管理するように心掛けます。

次はいよいよ定植です。苗育てのときまでは手作りのラベルを使いましたが、定植後はしっかりした市販のラベルを使います。私は一年草の苗を植え付けるときは、種類を把握しているので特にラベルは立てません。でもまだ草花の名前をしっかり覚えていない方なら、ラベルは立てた方がよいと思います。早く名前を覚えるためにも、あった方がよいでしょう。誰かから草花の名前を尋ねられたときにも、すぐに対応できます。

ラベルが必要なのは、多年草類の場合。多年草の中でも冬に枯れて地上部が姿を消すものは、どの場所に植えているか分からなくなりがち。掘り返して芽を傷つけたりしないためにも、ラベルを立てておきます。もしラベルが見えていると不都合なら、ラベルを立てる位置を工夫します。株の後ろ側に立てるようにするなど、マイルールを作っておきましょう。

庭やコンテナに差すものはラベルというより、大型のプレート状のものもあります。これは庭の見栄えにも関わるので、慎重に選びたいもの。白いプラスチック製は丈夫ですが、案外目障りになります。木製タイプなら自然になじみます。陶製のものなどもあります。ただ木製タイプは朽ちるのが早いので、一年に1回は新しいものと交換します。植物園のように種類が一目で分かる必要はなく、自分で特定できる程度の目立たないもので十分だと思います。

多年草の後ろにそっと草花の種類名と位置が分かるようにラベルを差します
イラスト:阿部真由美

次回は「寒い冬も室内でタネまきしましょう」を更新予定です。お楽しみに。

JADMA

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