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連載

【第15回】苗をすくすく大きく育てましょう

文・写真

三橋理恵子

みつはし・りえこ

園芸研究家。一年草・多年草をタネから育てる研究をしている。著書に『三橋理恵子の基本からよーくわかるコンテナガーデン』(農文協)、『イラストで学ぶ、はじめてのガーデニング』(角川マガジンズ)などがある。


※タネのまきどきなどは神奈川県横浜市における栽培に基づいて記載しています。

【第15回】苗をすくすく大きく育てましょう

2018/03/06

日々よく苗を観察しながら、育てましょう

発芽が成功して、鉢上げもうまくいき活着すれば、次は苗育てです。タネまきは苗を買うよりずっと安上がりだとか、いいところはたくさんありますが、自分で草花を育てる育苗の楽しみ、やはりこれが一番の醍醐味(だいごみ)です。小さな芽がぐんぐん成長していく姿は、力強く美しく、生命がみなぎっています。私も初心者のころ、苗たちを見に毎日ベランダに出るのが楽しみで仕方なかったのを覚えています。お店で売られている苗と遜色ない苗に仕上がったときは、それはうれしかったものです。

まきどきが同じであっても原産地や自生地が違うと、草花の性質もさまざまです。苗を育てることは、それぞれの草花の性質と向き合うということ。植物を上手に育てられる人を緑の指の持ち主といいますが、それだけ草花たちと向き合うからこそ、培えるものです。草花がどう育つのか、育たないのか、よく観察して育て方の基本をマスターしたいものです。楽しい育苗にはそんな本気の部分も混じっています。

春と秋のタネまきのシーズンは、発芽の適温になるころですが、その後の育苗にも適した季節です。むしろ育苗に適した季節を選んで、タネをまいているともいえます。年によっては天候不順に悩まされることもありますが、暖かな気候の中、苗たちはすくすく育ちます。

ポット苗を管理するときは育苗ケースやポットケースを使用します。大きさも大・中・小とあります

苗は直まきでなければ、鉢上げしたポリ鉢で育てます。よって育苗には、たくさんの苗を置く場所が必要です。庭の中でも日当たりのよいスペースを確保する必要があります。私は昔からベランダ育苗派。庭に大量のポットを置かずに済みます。園芸店が搬送用に利用するポットケースがあれば、そこに苗を入れて管理します。だいたい直径9cmのポリ鉢が24個入るサイズです。この他、育苗ケースなども使えます。屋外で苗を管理するので、底から水が抜けるタイプです。

大型のラックがあれば、そこに苗を何段にも重ねて置けます。たくさん苗を育てるなら、テラスやベランダへの直置きも併用します。置き場所によって日当たりの悪いところがあれば、ときどき日当たりのよいところの苗と入れ替えします。また苗置き場に軒下など雨の当たりにくい場所があれば、ここもうまく活用を。鉢上げ間もない小さな苗や、鉢土に水分が多いのを好まない草花は、ここに置くといいでしょう。

ラックに苗を何段も重ねて置いて育苗しています

季節によって育苗の環境は異なります

庭置きされた育った苗たち

タネをまく季節によっても、苗育ての環境は変わります。冬から春まきでは、苗育ての時期は春以降気温がぐんぐん上がるころです。春まきの草花は熱帯性草花なので生育はスムーズです。発芽からそのまま生育を続けながら、開花に至ります。タネや芽の大きさにもよりますが、生育の早いものが大半です。茎葉もしっかりしていて、弱さのない丈夫な草花がほとんど。繊細に扱う部分もなく、初心者の方でも安心して育苗できます。

秋まきでは9月のまきどきから気温はだんだん下がりますが、苗の生育には適したよい季節です。秋の程よい低温が秋まき草花の株をしっかり育てるのに適しています。その後も耐寒性の草花は、春まで少しずつ生育して株を大きくしますが、小さな苗のまま真冬を迎えてしまった場合は、生育を停止するものもあります。

春秋のまきどき以外にまいた場合の育苗は、そのときどきにより扱いが違います。冬まき育苗では、屋外に苗を出すと寒さで枯れてしまうので、室内での管理が必要です。ただし、あまり気温が高いと徒長しながら生育が進んで、株が乱れます。低温の室内で育てるか、屋外でベタ掛けシートなどで保護しながら育てます。

苗育てと草花の性質の関係ですが、日当たり、水分の好み、肥料分の好みの他にもいろいろなポイントがあります。それぞれの草花がどんな性質なのか大まかに把握しておくと、上手に育てられます。これらは草花の原産地の気候と深く関係しています。

育てる草花がどんな性質なのか大まかに把握しておくとよいでしょう

水やり、肥料やりなどをコントロールしながら育てましょう

直まきした鉢でいろいろな苗が育っています

育苗は日当たりのよい環境を整えたら、後は水やりと肥料やりなどの管理が中心です。草花によって性質は違うので、肥料や水の要求度も異なりますが、小さな苗のうちは成株に育て上げるまである程度の肥料と水が必要です。特に小さなポリ鉢で育つ苗なら肥料分、水分の流出は激しく、地植えの環境とは異なります。この点をまず踏まえて育苗します。

肥料は苗が生育するための栄養分です。赤ちゃんの苗が大人になるための成長期なので、肥料切れは生育不良を招きます。鉢上げのときの土に元肥を入れていなければ、肥料分はほぼありません。水やり代わりに週1回程度液肥を与えると安心です。液肥は日々の水やりで肥料分が流されやすいのですが、速効性があります。併せて表土に置き肥してもいいのですが、苗が小さくデリケートなときは、肥料あたりして枯れることがあるので注意が必要です。

水やりは、ポットの表土が白っぽく乾きかけて水分がほぼなくなってから与えます。同じ場所でいろいろな草花を育てていれば、土の乾きもそれぞれ変わります。どれも同じに与えずに、乾きに合わせて水を与えることが大切です。

というのも、ポットの土は湿った状態と乾いた状態を交互に繰り返すと、根は水分を求めて下へと伸びていきます。これで地上部の成長もよくなり、株は充実します。乾かないうちに水を与えていつもじめじめ土が湿っていると、伸びは緩慢になり根腐れもしやすいです。ただし、水も光合成のもと。成苗までの生育期は水分が足りないと生育できないので、その点もよく考えて水やりを加減します。ポットの大きさ(土の量)と苗の大きさのバランスがよいことがうまく水管理する上で大切です。なお、家庭では屋外で苗を管理することが多いので、雨のときの水分コントロールができません。あまりに長雨が続かなければ、特に問題なく生育します。

鉢上げするときはポットの大きさと苗の大きさのバランスを考え、適切なポリ鉢で育苗しましょう
イラスト:阿部真由美

水の与え方は、まだ根のしっかり張っていない小さな苗のときは、小さな水差しなどで表土に静かに水やりします。水やりで株が倒れるようなら、しっかり垂直に起こして固定します。ある程度苗が大きくなってしっかりすれば、ジョウロで水やりできます。ただし跳ね返りなどで表土が茎葉につくと、葉枯れや病気のもとになります。よく苗の状態を見て、丁寧に水やりします。

この他、苗を一遍に駄目にする要因になるのが病害虫の被害です。特に小さな苗のうちに、葉が食べられてなくなってしまうと回復できません。ナメクジやヨトウムシなど大型で食欲の旺盛な虫に注意が必要です。庭に苗を直置きする場合は、特に見守りが必要です。アブラムシやアオムシなど小さな虫も苗にはつきやすいので、つく前に週1回くらい殺虫剤を散布するとトラブルが回避できます。

同じときにまいて育った苗(同一単色品種)ですが、育ちには差が出てきます

うまく育てているつもりでも、苗の育ちには少しずつ差が出て、苗が均等に育たないことも多いです。これは根を切ってしまったり、水やりや肥料やりの加減に差が出た可能性もありますが、特に遺伝子の異なる固定種では、育ちには個体差が出るのが普通です。

この他、うまく育つ苗がある一方、途中で枯れる苗や育ちの悪いものも出ます。また、苗が早々と老化して、小さな苗のうちに花を付けてしまうことも。間引きでよい芽を選んではいても、100パーセントの苗が育って開花に至るわけではないのは生命の常です。ただ、水やりや肥料やり、病害虫の被害といった管理で苗を駄目にすることのないように、しっかり苗たちを見守りましょう。

(1)徒長して幼軸が伸びている苗が育つと、株を支えきれずに倒れます。その場合は後で支柱立てが必要です(2)水やりの水圧が強すぎて苗が泥跳ねになった状態(3)生育が止まってしまった苗(4)小さな苗の状態で花が咲いてしまった苗

次回は「鉢替えして苗をさらに大きく育てましょう」を更新予定です。お楽しみに。

JADMA

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