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【第22回】定植の後の苗を大きく育てましょう

文・写真

三橋理恵子

みつはし・りえこ

園芸研究家。一年草・多年草をタネから育てる研究をしている。著書に『三橋理恵子の基本からよーくわかるコンテナガーデン』(農文協)、『イラストで学ぶ、はじめてのガーデニング』(角川マガジンズ)などがある。


※タネのまきどきなどは神奈川県横浜市における栽培に基づいて記載しています。

【第22回】定植の後の苗を大きく育てましょう

2018/10/02

根付けば手間いらず。苗はすくすく育っていきます

定植した苗が無事活着すれば、まずは一安心。この後は苗たちがすくすく育っていくのを見守っているくらいで、あまり世話のいらない時期に入ります。定植後は苗たちの生き生きした成長ぶりを日々楽しめるよいときです。

秋まきの草花は、開花が翌春からのものが多いため、苗の時期が長くなります。ほとんどが寒さに強い耐寒性草花で、5℃くらいまでは生育します。温暖地であれば、少しずつ生育が進んで大株になります。冬の間苗は上へと茎を伸ばさずに、地際で葉を増やします。その多くが、葉を地際近くで放射状に広げるロゼット型をしています。

冬季に玄関先のレイズドベッドなど人の目の多い場所で、花のない苗の期間が長いのが気になるようなら、前面部分にだけ花の咲くパンジーなどを植えたり、表土に装飾バークなどを敷き詰めます。ただし、装飾バークは春から秋の気温の高い時期にナメクジなどの温床になるので、取る方がいいでしょう。花は咲いていなくても、花壇を眺める人に苗たちの生育ぶりを楽しんでもらえれば一番です。

春まきの苗は生育適温のころなので、定植後すくすく育ち、茎葉を上へと伸ばしていきます。蕾が付くのももうすぐ。緑の分量を増やし、花壇は日々ドラマチックに変化していきます。花が咲く前でも、草姿のバランスや葉色、葉の形や大きさなどの組み合わせで、花壇の仕上がりはだいたい想像がつきます。緑だけでも十分美しければ、成功したと思って間違いありません。

なお、根付いたように見えるものの、生育の止まった株もあるかもしれません。原因は植えるときに根を傷めてしまったり、根が回っていて下に伸びられない、根付く前に水切れしたなどさまざまです。また苗の中には不良遺伝子を持っているなどで、生育が途中で止まってしまうものもあります。まったく成長しないようなら、一年草の場合はそのまま回復しないことが多いです。補植苗があれば、早めに植え替えましょう。

また、植えてからしばらくの間注意したいのが、土の沈み込み。花壇やコンテナの土の密度が粗いと、土はだんだん締まって沈んでいきます。特に大雨の後などに苗が浮き上がったり、沈み込んだりします。結果、浅植えや深植え状態になり、株の安定も悪くなります。緩い土では根の張りも悪くなるので、株元をしっかり固めて堆肥などを足します。

植え付けのとき周囲の土が緩いと、強い雨などの後に回りの土がへこんで、苗が浮き上がります

定植後の苗をスムーズに育てるための日々の管理

定植後苗を大きく育てるためには、よく日に当てることが大切です。特に一年草草花では、日当たりが花付きを大きく左右します。小さめの苗をコンテナに定植した場合は、なるべく日当たりのよい場所で育てると生育はスムーズです。ある程度株が充実してから、目的の場所に移動します。玄関など人目に付くところに置く場合は、花が咲いてからでもいいでしょう。

水やりは花壇では、土が白く乾いて葉にツヤや張りがなくなり水分をなくすまでは不要です。とはいえ、草花によって水の要求度は違うので、個々によく把握することが大切です。花壇には散水ホースが使いやすいでしょう。優しい水圧のノズルで株元に、根の先端まで水が届くように時間をかけて水やりします。

土の容量の限られたコンテナでは水はすぐ切れるので、表土が乾いたら定期的に水やりをします。特に開花前は成長期に当たるので、しっかり株を育てるために水は大切です。水が足りないと光合成が進まないので、生育も遅れます。ただしいつも土が湿っていても、伸び過ぎてだらしない苗になります。

水やりは人により与え方、量はさまざま。日々の基本的な作業ではありますが、上手に与えるコツがあります。与えるときはたっぷり与えて、その後乾燥気味にして乾湿のメリハリを付けます。それには与える量がポイントです。水を与えれば表土は湿りますが、どのくらい染み込むかは与える量次第。草花はふつう株の高さと同じ程度の根張りを持つので、根の先端まで届くようにしっかり時間をかけて水やりします。どのくらいの深さまで染み込んでいるかは、水やり後株間の土を掘ってみると分かります。コンテナなら鉢の底から水が流れるまで与えます。しっかり水を与えていれば、根も深く張り株も充実します。水の量が少ないと根は表土の浅い位置にしか張らなくなり、すぐしおれやすくなって水やりの負担も増えます。

水やりの量による苗の育ちと根張りの違い

肥料は茎葉を育て、花をたくさん咲かせるために大切です。土に元肥を入れているとはいえ、これだけでは不十分です。特にコンテナでは、水やりで肥料分が鉢底から流れ出てしまいます。週1回くらい液体肥料を水で薄めたものを与えていると安心です。また固形の長く効く肥料を表土の部分に埋めて置き肥します。少し土に埋めるようにするといいでしょう。肥料の効果は商品によって異なります。固形が残っていても肥料分は消失しているので、定期的に取り換えます。置き肥は株の中心部分ではなく、株の外周の根の先端部の位置が最適。草花は水溶性の肥料なら、水に溶けたものを根の先端から吸収します。株の中心に近過ぎると枯れることもあります。

なお、茎葉がよく生育する草花では、窒素肥料が多過ぎると茎葉ばかりが茂って、花付きが悪くなることがあります。肥料はバランスよく各要素が入っているとはいえ、与え過ぎにも注意しましょう。特に春まきの草花は上へと茎葉を伸ばしながら咲くものが多いです。大きく育て過ぎない方がいいこともあります。

このほか、気を付けたいのが害虫。草花の種類により付きやすいものは違いがあり、新芽の先にアブラムシがつきやすいものもあります。また葉を観賞するハボタンは、よくアオムシが食害します。虫食いの跡があると見栄えを損なうので、スプレータイプの薬剤などを定期的に散布することをおすすめします。

苗が育ってきたら、監視してしっかり管理しましょう

定植後は根の張るスペースが広がり、特に一年草の苗の成長は早いです。コンテナの場合単独の草花を植えた鉢なら、植え過ぎていない限りは株をよく育てます。ボリューム豊かに茎葉が育てば、それだけ花も豪華に咲きます。コンテナの寄せ植えや花壇では、違う種類の草花とバランスよく育っているか確認しながら育てます。伸び過ぎたり、株が広がり過ぎてバランスが悪ければ、早めに不要な茎を株元から切って整えます。寄せ植えでは広がり過ぎると姿が悪くなるので、この点に注意しながら適宜整枝していると、花期の間ずっと美しい姿を保てます。

コンテナや花壇で植えた苗が育ってきた様子

よく育ってくると、下葉が黄色くなる症状が出ることがあります。混み過ぎて株元が蒸れると、葉は枯れていきます。また株元の部分に日が当たらないことも、下葉の枯れる要因です。そのままにすると見苦しく、病気の原因にもなるので、枯れた葉はその都度取り除きます。またストックやカレンデュラなど、ややアルカリ性に傾いた土を好む草花では、土が中性に傾くと下葉から黄色く枯れ込みます。この場合は苦土石灰などの石灰資材を混ぜて対応します。なおいったん黄色くなった葉は、緑には戻りません。

苗は自然に分枝しますが、より積極的に分枝を促すこともできます。あまり上過ぎない位置でピンチをすると、両側の節からわき芽が伸びます。よい位置を見極めてその都度分枝させると、より株は充実します。

茎が伸びてくると、特に高性の草花は倒れやすくなります。茎が太いものでも、その分花穂などが大きいため、長雨で花が重くなると横に傾きます。また草花は日光の当たる方向に伸びようとするため、半日陰では前に倒れ気味になりがち。あらかじめ支柱で支えておいた方が安心です。

支柱は根鉢の部分を避けて、なるべく主茎に近い位置に後ろ側から垂直に挿します。支柱の2割以上は土に入れてしっかり安定させましょう。緑色の支柱なら、ほとんど支柱が立っていることが分からなくなります。伸びる高さを考えて支柱の長さを選びます。高性種の草花を使った花壇を美しく保つためには、支柱は必須です。いろいろなサイズのものをあらかじめたくさん用意しておくと、適宜対応できます。

支柱を立てたら、麻ひも、ビニールタイ、園芸用ワイヤなどで草花の茎に誘引します。株元の部分は株を安定させる役割をするので、しっかり誘引します。ただし主茎は株が育つにつれてだんだん太くなるので、やや緩めに結束しておくのがコツ。株元から育つにつれて何カ所か、安定よく誘引します。

(1)ビニールタイや麻ひもなどで、支柱と草花の茎を八の字になるように結びます。茎はだんだん太く育つものもあるので、緩めに結んでおきます(2)支柱は主茎に添わせて後ろ側に立てます。育つにつれて適当な位置で誘引します

次回は「寒さ、強風、霜、雪など、苗の冬越し対策」を更新予定です。お楽しみに。

JADMA

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