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【第23回】寒さ、強風、霜、雪など、苗の冬越し対策

文・写真

三橋理恵子

みつはし・りえこ

園芸研究家。一年草・多年草をタネから育てる研究をしている。著書に『三橋理恵子の基本からよーくわかるコンテナガーデン』(農文協)、『イラストで学ぶ、はじめてのガーデニング』(角川マガジンズ)などがある。


※タネのまきどきなどは神奈川県横浜市における栽培に基づいて記載しています。

【第23回】寒さ、強風、霜、雪など、苗の冬越し対策

2018/11/06

冬の寒さは苗にとって、とても大切です

秋に定植した苗たちは、パンジーやビオラなど冬咲きのものは別として、苗の状態で冬を過ごします。苗たちは寒い間寒さを避けるため、茎を上へと伸ばすことなく、地際近くで葉を増やします。多くが葉を放射状に広げるロゼット型をしています。

定植した苗は、冬の間地際でたくさんの葉を広げて大株になります。これも適度な寒さの成果です。

秋まきの草花は、多くが耐寒性草花です。耐寒性の草花の生育停止は、5℃くらいが目安。温暖地なら日中は5℃以上に上がって生育適温内になり、少しずつ葉を広げて大株に育っていきます。冬の寒さがあればこそ、苗は大株に育ち、春によい状態でたくさんの花を咲かせてくれます。これが秋まき草花の、生育の基本です。

ただし、秋に苗の定植が遅れるなどして苗が小さいと、それだけ耐寒力は弱くなります。大苗と違って、生育停止するものも多いです。ただし、株の体積が小さい分寒さを受ける面積も狭いので、きちんと管理すれば生育停止するだけで枯れにくいです。

もちろん寒さに耐える力は、草花の個々の性質として備わっています。ただし育て方によっても大きく変わります。耐寒性草花であっても、室内で長く保護して育てたものを急に外の寒さにさらすと、傷んだり枯れたりします。寒さに慣れていないためです。

秋から徐々に気温が下がるにつれて、苗は寒さへの適応力を高めていきます。寒さが来ても葉が凍りつかないように、だんだん水分を減らし糖分をため込んでいきます。葉が厚く、ごわごわするのはそのためです。それゆえ、秋まきの耐寒性草花は必要以上に保護しないことが大切です。太平洋岸では冬に乾燥した気候が続きますが、あまり水を必要としません。逆に冬に水を与え過ぎると葉に水分が多くなり、耐寒力が弱まります。

とはいえ庭の寒さの度合いは、お住まいの地域によって、またその年の気候によって、また日によっても変わります。さらに微気候といって、庭のそれぞれの場所によっても、日当たり、風当たり、気温が違います。草花が受ける環境は、千差万別といっていいでしょう。よって冬越しには最大の寒さに耐えられるよう苗を育て、限界が来る前に保護するという考え方をします。

実際、寒さを受けて苗がストレスを感じたとき、出す症状はさまざまです。まずは生育が停止しますが、葉全体が赤紫色になることもあります。葉が部分的に茶色く枯れるのは、水やりや雨などで水分が葉に付いたあと凍るなどしたものです。水やりのとき、なるべく葉上からかけないようにします。

葉が紫色に変色するのは、寒さのサインです

特に寒波や雪の日は苗たちに配慮をはかって

冬越しに際して気を付けたいことはいろいろです。まずは平均気温を大幅に下回る寒さ。温暖な地域でも、ときに寒波の来るときもあります。特に晴れていると放射冷却で昼間暖まった空気は空へと逃げてしまうので、気温が下がります。その寒さに当たって一気に苗が枯れることもあります。

とはいえ、温暖地なら草花たちが耐え忍ぶべきときは、一冬の間にそんなに多くはありません。寒波は予報で確認できるので、そのときだけしっかり対応します。対応策はベタ掛けシートを掛けたり、一時的に室内に取り込んだり、風当たりの強くない場所に移動させたりします。ただし寒さが去ったらすぐに1~2日のうちに元に戻すことが大切。いつまでも保護し続けないようにします。

寒さの目安になるのは気温ですが、風も関係があります。私たちも強い風が吹くと体感温度が下がるように、植物も強い風が当たるとより寒さを感じて、その分耐寒力は弱まります。庭にも風のよく通る場所とそうでないところがあります。建物に接した花壇など、風が当たりにくく冬越しによい環境になる場所もあります。耐寒性の弱いものや、小さな苗は風当たりの強くない場所が向いています。

冬の冷たい風を避けられる建物の際の花壇は、日当たりがよければ冬越しにはよい環境です

朝に霜柱が立ちやすいところでは、苗も被害を受けやすくなります。霜柱は地中の表土近くの水分が凍って体積が増し、土が持ち上がる現象です。定植が遅れて根の張りが浅いと、根が持ち上げられて表土に露出してしまいます。これを放置すると、根は乾燥し枯れやすくなります。その点、秋早めに定植して根を地中深くに伸ばした苗は、霜の害を受けにくいです。強い寒さが来る予報が出たときは、なるべく水やりを控える方が、霜の害は防げます。

真冬のポット苗はさほど水を要求しないものの、ポットの土の容量は限られるため、ある程度定期的な水やりします。土に湿り気があるので、寒さの厳しい冬などは、霜柱が立つというより、ポットの土全体がかちかちに凍りつくことがあります。生育は止まってはいるものの、枯れずに寒さに耐えている状態です。特に傷んだりしなければこのまま、寒さが緩んで生育を再開するときを待ちます。

雪の予報が出たときは、苗の雪対策をします。雪害は寒さで苗が被害を受けるというより、雪による圧迫や日を遮られる害の方が大きいです。茎葉を伸ばした苗なら、茎が折れたりする害が出ますが、この時期の苗はロゼット型が多いので、あまりその心配はありません。

少し積もったくらいなら、耐寒性草花には被害がありませんし、苗の雪も払えます。積雪地帯では雪の下に埋もれた草花は、雪に守られているほど。雪の下は湿り気もあって、強風も避けられるので、案外、冬の寒さをしのげる環境になることもあります。とはいえ一時の積雪であれば、水分の多い雪は重いので、早めに払いのけるほうがいいでしょう。雪を払うときに株も一緒に根から抜けやすいので、丁寧に作業します。ポット苗がたくさんあるならば、雪を払う作業が大変なので、雪が降る前にベタ掛けシートを掛けたり、雪のかからない軒下などに取り込んだりしておくと後が楽です。

ある程度雪が積もると、苗の上の雪を払う作業が待っています

寒さ、強風からの保護にはベタ掛けシートが効果的です

いっときの寒さ対策や生育の遅れた小苗などのポリ鉢での冬越しなどには、ベタ掛けシートが活躍します。ラークスパーやデルフィニウムなど、遅まきのものも苗の生育がやや遅れてポリ鉢のまま育てるときにもこのシートがあると、冬の間も生育を促せます。

ベタ掛けシートは薄くて半透明。上から水やりもできる浸透性のよいタイプが冬越し向きです

被覆による保温性を期待するというより、夜間の地熱の放出を防いだり、霜よけしたり、風よけをすることで、極端な寒さから苗を守り生育を促進させます。適度に風通しもよいので、蒸れとも無縁。透光性もよいので、日光を遮りません。

ベタ掛けシートと呼ばれるものにも商品がいろいろあります。冬越しに役立つのは、主に長繊維不織布タイプ。色は白色で、シートを掛けた上から水やりができるタイプです。不織布のものだけでなく、繊維の種類や通気性、透光率が違ったりします。素材によってはシートを掛けた上から水やりできないタイプもあるので、よく種類を確認することが大切です。農業用のものが主流ですが、園芸店やホームセンターの園芸コーナーには、家庭用サイズのものがあります。

ベタ掛けの名の通り、苗にそのまま掛けて使用します。保護するものの大きさに合わせて切って使います。鉢ならすっぽりくるんで、地面に設置するなら、周囲の部分を二つ折りにしてから、針金をU字型にしたものを深めに刺して固定します。長く使って汚れると、透光率が落ちるので、洗っておきます。

イラスト:阿部真由美

ポリ鉢苗の冬越しにベタ掛けシートを使うときは、ベランダやコンクリートの上に置くより、土の地面に置いて使う方が地熱の放出をより抑えられます。ベタ掛けシートで保護すると、寒さで生育停止していたものも、生育を再開させるものも出ます。生育が進めば真冬であっても、適宜鉢替えして生育を促します。

寒さを避けられるので、ベタ掛けシートは冬の万能資材と思われがちです。冬の寒さは地域によって、また環境により異なりますが、耐寒性草花なら温暖地では保護なしですくすく育つことが多いです。ベタ掛けシートも必要以上に使わないようにします。温暖地では冬の間苗はきちんと寒さに適応すればだんだん育ち、生き生きした姿を見せてくれます。寒さの中、日々少しずつ育っていく苗たちは力強くたくましく、そして美しい。それを実感できるのも、冬の時季ならではです。

(1)植えたときは株間ばかりが目立ちますが、(2)一冬過ごすうちに苗は大株に生育します

次回は「花が咲いてからの管理もしっかりしましょう」を更新予定です。お楽しみに。

JADMA

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