タネから広がる園芸ライフ / 園芸のプロが選んだ情報満載

連載

【第3回】まかぬ種(タネ)は生えず ~まずはまいてみよう~

文・写真・イラスト

淡野一郎

あわの・いちろう

株式会社サカタのタネ勤務。新聞などに掲載のベランダでの菜園実践記から中学校の技術科教科書まで幅広く執筆。著書に『ここまでできる! ベランダでコンテナ菜園』(家の光協会)などがある。

【第3回】まかぬ種(タネ)は生えず ~まずはまいてみよう~

2019/02/26

さて今回は実際に種(タネ)をまく話です。種まきは植物を栽培する最初の作業なのでとても大切です。土に穴を開け、そこに種を置き、土をかけ、水をやるだけです。作業そのものはとても簡単で、むしろあっけなく終わります。慣れれば数分の作業です。大切なのは栽培計画を含めた準備やまいた後の管理です。ここは気を使います。

とはいうものの、種まき前後のこれらの手当てはまき手の経験の度合いによって違うものです。初心者はあまり臆することなく種をまいてみましょう。失敗してもいいのです。最初からうまくいったらむしろラッキーぐらいの気持ちでやってみてください。経験者は振り返りの意味で読んでいただけたらと思います。

植物にとって居心地のいい家とは

まず必要なものをそろえて種まきの準備をしましょう。最初は土です。土は植物にとって家のようなものです。私たちがいい家に住みたいように、植物たちもいい土に根を下ろしたいのです。一般にいい土は水はけ、水持ちがよく、必要な養分を保持できます。でも「水はけがよく、水持ちがよい」というのは相反していてなんだか違和感があります。しかしそれも、団子状の土が集まることで実現できます。団子状の土は、鉱物(要するに岩石など)が細かくなったかけらである粘土を、植物など有機物やそれを分解する微生物が出す分泌物などがつなぎになって固められた土の塊のことです。団子状の土自体は毛管現象で水を保持し、団子状の土と土の間は重力に従って水を流し、空気を保持するのに絶好な空間になります。また粘土は植物が必要な養分を保持します。

そして酸っぱ過ぎず苦過ぎず、育つのに適したpH(酸度)になっていることです。土のpHは一般に5.5~6.5の弱酸性がよいとされています。年に1回で構わないので土壌酸度計や酸度を測定するキットでpHを測定して、pHを整えるための苦土石灰などの石灰質資材を土に入れるようにします。

※「酸度測定液」はサカタのタネ 通信販売課では取り扱いがないのでお近くの園芸店でお求めください。

居心地のいい家作りのきほん

ダイコンなど根を収穫する根菜類の多くは移植すると、根が傷んで収穫物の形が悪くなります。そこで、収穫する場所に直接種をまきます。これを「直まき」といいます。根菜類以外にもホウレンソウやコマツナなどの一部の葉菜類は、種から最初に伸びた根が生育に大切で、ひげ根(側根)が少ないいわゆる直根性の野菜で、これも普通は直まきします。直まきでは種まきのできれば2週間前までに腐葉土や堆肥などの有機物を入れておきます。もし時間がなければ直前でも構いません。ただしその場合、腐葉土や堆肥の分解がよく進んでいることが条件です(1年ほどおいて分解が進んだこれらの有機物はほとんどにおいがせずフカフカです)。ピートモスなら購入してすぐに使うことができます。

肥料は有機物が入っている有機配合肥料などなら2週間ほど前に、化学肥料ならば直前で構いません。大切なのは石灰質資材、有機物、肥料を同時に一緒に入れないことです。それぞれ別々に混ぜるようにします。これは肥料成分と有機物が直接あたると植物に害になるガスなどが出ることがあるためです。

苗を育ててから植える方法もある

一方、植え傷みが少ない作物ならばポットやセルトレイに種をまき、苗を育ててから植えつけることができます。これを「移植栽培」といいます。直まきするには気温が低いあるいは高過ぎる場合に、また生育初期に病虫害にあうと致命的な場合など、苗を私たちの目の届くところで集中的かつ注意深く育てるために行います。種を無駄なく使えるメリットもあります。

苗作りに使うポットやセルトレイは、いずれもプラスチック製で根が外れやすい素材が適しています。セルトレイは幅30cm×長さ60 cmほどの大きさで指が入る程度の小さな鉢(セル)が並んだ容器です。異なるセル数のトレイがあり、苗はセル数が多ければ小さく、少なければ大きくでき、野菜の品目に応じてセル数を変えることで好みのサイズの苗を栽培できます。72穴、あるいは128穴や200穴程度のトレイを用意しておくと便利です。仕立てる苗が少なければ、トレイを切り小さなサイズにするとよいでしょう。土はセルに均一に入れる必要があるので種まき専用の培養土を購入して使うのが無難です。土を詰めるときの注意点は、乾いた土を詰めないことです。しっとりと湿っていればよいですが、サラサラに乾いているようならば土を詰める前に水を加え、土がしっとりするまでよくかき混ぜます。土が乾いているとまき穴がきれいに開かないほか、後で水やりした際に水が染みにくく、出芽ぞろいが悪くなる原因になります。

セルトレイと同様の使い方ができるものに「ジフィーセブン(直径30mmあるいは42mm)」があります。天然素材のピートモスやココピートなどでできていて鉢から苗を外すことなく苗の植えつけができるので根傷みを小さくできる利点があります。

ポットで苗を育てるには3号(9cm)前後のポットを使います。ここへタネをまいてもよいですが、最初からポットで育てると場所をとるのと、よりよい苗を育てたいので、種の大きなマメ科やウリ科の植物を除いて普通はまずセルトレイへ種まきしてえり選りの苗をポットへ植えなおします。土は培養土を自作してもよいですが、野菜用あるいは花用の市販の培養土でも構いません。

タネの準備と保存について

種はできるだけ新鮮なものを選びましょう。種袋にはいつ発芽試験をしてどれだけの発芽率があったか、有効期限なども書いてあります。それを参考にします。その上で「種は使い切る」が基本ですが、使い切れなかったなんてこともよくあるものです。もし保存するのであれば、開封前の有効期限内の発芽は期待できませんが、きちんと管理すれば多少発芽率は落ちても多くの場合はまだまだ使えます。

保存の基本は「低温低湿」です。一般に温度は0~50℃の範囲で5℃上昇するごとに種の寿命は半分に低下します。また湿度が高いと種の含水率が上がります。通常、含水率は6%程度がよいとされますが、その率が1%上昇するごとに温度同様に種の寿命は低下します。

種苗会社の種蔵は精密に管理されていますが、一般家庭ではそうもいかないので、種袋は口を折りテープで閉じ(ホチキスを使うときは袋の両サイドののりしろ部分にする)、プラスチック製の食品保存容器や口の閉じられるビニール袋などに入れ、冷蔵庫で保存します。種を出すときは室温に戻してから袋を開けます。ただし、マメ類は室温で保存します。発芽が心配ならば種を多めにまくようにします。さらに心配な場合は、皿(ふたのあるシャーレならなお可)に水で湿らせたペーパータオルを敷いてそこに種をまいて事前に発芽率を調べておけば安心ですね。

さあ、種をまきましょう

直まきであれば、種まき前に表面をレーキでかくようにして大きな土の塊や石などを取り除き平らに仕上げます。ポットやセルトレイなどは培養土をたたくことなくそっと充填し、表面の余分な土をハケや板などで落として平らにしておきます。

畑では作物ごとに適した株間や条間に、ポットではその中心に(大きな種ではまく種の数分だけ)指やペットボトルのふたなどで種をまく穴を開けます。セルトレイは、トレイを重ねて上から手で力を加えれば一度に穴を開けられます。深さは種の大きさによって5mmから2cm程度で、一般に種の厚さの3倍程度とされています。

種は、開けた穴に1粒ないし数粒落とします。新しい種ならば発芽はいいので1粒ずつ落とします。大きな種は指でつまんでまけますが、細かな種ははがきなど写真のような道具を作ってピンセットや竹串などで落とします。

種をまいたら種に土をかけます。土をかけるというよりは穴をふさぐ感じにします。粒が小さな種、発芽に光が必要な作物ではバーミキュライトの中粒を使うようにします。ただし、野菜ではマメ類、トウモロコシ、ウリ類、花ではヒマワリ、スイートピーなど種が大きい作物ではバーミキュライトではなく種まき用の培養土を厚めにかけます。これらの作物は、かけられた土がある程度重くないと発芽の際に根を土に伸ばせず種が飛び出して転んでしまうことがあるためです。

土をかけたら、その上を板や手のひらで押さえます。こうすることで種と土が密着して、種は水を吸いやすくなり、根をしっかり伸ばすことができるようになります。そして、最後にたっぷり水やりしておきます。

どんなに家がよくても環境がよくないとちょっとね

私たちの家がどんなに立派で調度品がそろっていても、夏暑く、冬は寒いのでは心地よく生活できないのと同じで、まいた種がスムーズに芽を出し育つために適した環境を整えることが大切です。特に土の中で発芽して地面から出芽するためには温度(地温)が大切で、作物ごとに合ったちょうどよい温度にすることが重要です。

春まきの作物は十分に地温が取れ、遅霜の心配のない八重ザクラが咲く4月中下旬を待って種まきすれば手間をかけずに芽を出させることができます。初心者にはこの時期の種まきをおすすめします。

一口に春まきと言っても、種まきを3月にするのと、5月近くにするのでは収穫期間は2カ月も違ってきます。少しでも多く、早く収穫したいのなら栽培のスタートである種まきは少し早めにしたいものです。この場合、気温はまだ低いので発芽をそろえるために温度を十分取ることが大切です。最低気温が15℃ほどでも発芽する低温性の作物は、不織布を1枚掛ける、あるいは種まき後に出芽直前まで日当たりのよい窓辺などで発芽を促すなどの保温が効果的です。

発芽に20℃以上必要な高温性の作物は保温箱や加温箱を使わないと十分な地温を確保できません。プロは温室などの施設に暖房機を設置し、地温を取るために電熱線を敷くなどして気温や地温を確保します。そこまでのことはしなくても、身近に入手できるもので保温・加温のための装置は作れます。

保温だけなら発泡スチロール製のトロ箱を鮮魚店や回転寿司店で入手します。次にトロ箱の縁にアーチ状に曲げた園芸用支柱を挿します。最後に園芸用の透明フィルムを張れば出来上がりです。4月いっぱいまでは昼間は箱を日当たりのよいところに置き、夜は室内に入れて温度管理します。晴れた日は覆っているフィルムの裾を開けて換気し、温度や湿度の調整をします。

さらに加温する場合は、私は防水加工されたペット用のヒーター※を使っています。入手しやすく安価でサイズも手頃で使い勝手がよく重宝しています。さらに、ナス科の果菜類では(特にトマト・ナス・ピーマンなど)、種まき前のジベレリン処理なども組み合わせて一斉出芽を目指します。
※ペット用ヒーターは園芸用に作られたものではありません。使用に当たっては個人の責任でご使用ください。

夏まきの野菜の多くは、発芽適温の最高が25~30℃といずれも比較的高温で発芽しますが、出芽後は、冷涼な気候を好むので強い日差しと高温下で上手に発芽させる工夫が必要です。白寒冷紗で遮光したり、風通しのよい涼しいところで栽培します。花の場合はよりシビアに低温を好むものが多いので、前回お話しした低温による芽出し処理などと組み合わせます。

種まきのための水やり

出芽までに限っていえば、水やりは「乾かさない」ことが大切です。そうかといってジャブジャブやる必要はありません。いつでも水が滴るほどあると呼吸ができず腐ってしまいます。例えば、畑に直接まいた場合は、ジョウロなどで種まき直後に1回(土が十分に湿っていれば水やりも不要)やれば十分です。

セルトレイやポットでは底の穴から水が染み出てくるまでやります。ポットはジョウロでよいですが、セルトレイの場合は水滴が大きいと土や種が流れ出す原因になるのでできれば目の細かいジョウロや、プレッシャー式の噴霧器を使います。

市販の散水ノズルでミスト(霧)を選べるようならばそれでも構いません。晴れるようならば午前中に1回、トレイを手で持ち上げてみて軽いようならばその後でも適宜水やりをしましょう。この手で持ち上げるという行為がセルトレイでもポットでも土が乾いているかいないかの一番よいセンサーになります。


※1ページ 1枚目(タネまきイメージ)の写真と6枚目(タネ袋)の写真以外は、著者の写真です。

次回は「晴耕雨読 ~雨が降ったらコラムを読んで、晴れたら畑を作ろう~」です。お楽しみに。

この記事の関連商品

この記事に関連するおすすめの商品は、園芸通信オンラインショップでご購入いただけます。

JADMA

Copyright (C) SAKATA SEED CORPORATION All Rights Reserved.