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連載

【第1回】自然と人の関係

宮崎良文

みやざき・よしふみ

千葉大学環境健康フィールド科学センター教授・副センター長。専門は生理人類学。自然セラピー学の確立を目指し、人が自然に触れると安らぐという感覚を科学的視点から研究している。

【第1回】自然と人の関係

2018/12/11

本連載においては、①自然と人の関係、②快適性の考え方、③花セラピーを中心とした公園セラピー、木材セラピー、盆栽セラピーなどの自然セラピーがもたらすリラックス効果を紹介し、さらに④科学的データに基づいた自然セラピー実践法を提案します。今回の第1回においては、「自然と人の関係」について、1.ストレス状態を改善する自然セラピーと、2.日本人と西洋人の自然観の違いという観点からご紹介します。

1.ストレス状態を改善する自然セラピー

花やグリーンに触れたり、森を歩いたりすると心身共に無意識にリラックスします。この不思議な現象はなぜ起きるのでしょうか?

それは、我々の体が自然に対応してできているからです(引用文献1~3)。人は6~700万年間、自然環境下で過ごしてきたことが2002年の科学誌Nature(ネイチャー)における化石研究論文から明らかにされています(4)。

仮に産業革命以降を都市化、人工化と仮定した場合、その期間は2~300年間に過ぎず、99.99パーセント以上を自然環境下で過ごしてきたことになるのです(上の図)。遺伝子は数百年という短期間では変化できず、我々は、脳も心臓も含めて、自然環境に適応した体を持って今の現代社会を生きているのです(1~3)。ストレス状態になるわけです。

加えて、最近の急激な情報技術の進展は、さらなるストレス状態の高まりを生み出しており、1984年にはアメリカの臨床心理学者クレイグ・ブロードにより、「テクノストレス」という言葉が作られています(5)。

日本で「森林浴」という言葉が秋山智英元林野庁長官によって命名されたのも1982年であり(6)、このような言葉が造語されるのも、ここ30年程度で第2期の都市化社会に進んだことを反映しているように思われます。都市居住者数に関する調査においても、国連は、2008年に歴史上初めて、世界における都市居住者が全居住者の半数を超えたと発表しました。2030年には3分の2に達すると予想されています。

このような状況下において、花セラピー、公園セラピー、木材セラピー、盆栽セラピー、森林セラピーなどを統合した自然セラピーに注目が集まっています。2016年6月には、皇太子殿下・同妃殿下が、千葉大学をご訪問下さり、自然セラピーについて、講演と質疑応答をさせていただく機会を得ました(7)。

上の図に、自然セラピーの概念を示します(3)。上述したように、今を生きる我々は自然対応用の体を持っており、人工化された現代社会においては、気付きにくいのですがストレス状態にあるのです。そのような状況下において、花や森林などの自然由来の刺激に触れることにより、リラックス状態がもたらされ、本来の「人としてのあるべき状態」に近づきます。自然セラピーによって、体がリラックスし、ストレス状態において抑制されている免疫機能が改善するという「予防医学的効果」が自然セラピーの基本概念となります。私のこのセオリーは、ニュージーランドの研究者であるM A. O’Grady and L Meineckeによって、Back-to-nature theory(自然回帰理論)と命名されています(8)。自然セラピーの最終的な目的は、現在、世界各国において問題となっている医療費削減と生活の質(QOL)の改善なのです。

2.日本人と西洋人の自然観の違い

以前、元旦にNHKテレビを見ていたら、大学時代の一般教養の先生だった生物学者の日高敏隆先生と華道家の川瀬敏郎氏らによる座談会が始まりました。そこで、川瀬氏は日本の華道とヨーロッパにおけるフラワーアレンジメントの違いに言及され、華道においては、生け終わった後、お花に礼をするが、フラワーアレンジメントでは、そのような習慣はないとおっしゃっていました。日本におけるお花に対する礼は、人と生けた植物が同等であることを示しているとのことです。それに対して、日高先生は、ヨーロッパでフラワーアレンジメントを褒めたら、どこがよいのか聞かれて困ったという話をされていました。

フラワーアレンジメントのよさとは、花との引き込み合いを含め、一体として感じているので、分析的なことを聞かれて困惑されたのだろうと思います。私は、そこに日本人独自の自然観を感じました。人が自然より高い位置にいるのではなく、人と自然が同等であるとする考え方です。

作家の栗田勇氏は、自書『花を旅する』(9)の中で、「西欧では花を見る、アジアでは花と暮らす」と記しており、紀貫之や小野小町も、花と自分の命や容姿を一体として捉えている歌を多く詠んでいます。

東京大学名誉教授の渡辺正雄氏は、日本人の自然観について、以下のように示しています(10~11)。「西洋の場合、西洋社会で信奉されてきたキリスト教に従って、天地万物は全て神の被造物であって、その中で人間だけは特別な被造物であるとして、人間とそれ以外の被造物との間には截然たる一線が引かれてきました。(中略)人間を、かつ人間だけを、他よりは上位にある特別の被造物であるとみるところに、西洋の自然観の基本があるといえましょう」。また、「西洋では、人間が、自然と対峙する人間であるのに対して、日本では、自然の中にある人間である」とも述べておられます。

人が自然対応用にできているという現象は、西洋でも東洋でも同一と考えられますが、「自然観」については、違いがあるようです。

おわりに

ストレス状態は、人の免疫能を低下させることが知られています。今、自然に触れると勝手にリラックスしてしまうという特性を上手に使って、ストレス状態を改善する自然セラピーに関心が高まっています。自然セラピーは病気を治すことはできませんが、病気になりにくい体にすることはできるのです。

世界中で、医療費が社会問題となっています。これまで、自然セラピーによる医療費削減効果が話題となったことはありませんが、実質的に貢献してきたことは疑いようがありません。今後は、科学という土俵上で、データに基づいて明らかにしていく必要があります。

世界に目を向けても、自然セラピーに関する科学的データの蓄積は少ないのですが、計測器を含めた評価システムの開発により、最近、急速に蓄積されつつあります。現状においては、我々の研究室が世界で最も多くのデータを蓄積、提出しており、本連載においては、その科学的根拠を中心に紹介していきます。

次回は「快適性のおはなし」です。お楽しみに。

引用文献

1)Y. Miyazaki, Shinrin-yoku: The Japanese Way of Forest Bathing for Health and Relaxation, Hachette UK Company, 192pp. 2018
2)宮崎良文(編)自然セラピーの科学 朝倉書店 219pp 2016
3)C. Song, H. Ikei and Y. Miyazaki, Physiological effects of nature therapy: A review of the research in Japan, International Journal of Environmental Research and Public Health 13(8): 781 2016
4)M. Brunet et al., A new hominid from the Upper Miocene of Chad, Central Africa. Nature 418, 141–151 2002
5)C. Brod, Technostress: The Human Cost of the Computer Revolution; Addison Wesley: Boston, MA, USA, 1984
6)朝日新聞 林野庁が「森林浴」構想 1982.7.29
7)宮崎良文 木材・森林と快適性-生理的リラックス効果を科学する- 東京原木協同組合ISBN-13: 978-4990929305 44pp. 2017
8)M A. O’Grady and L Meinecke, Journal of Societal and Cultural Research 1(1) 1-25, 2015
9)栗田勇(I. Kurita) 花を旅する 岩波出版 2001
10)M. Watanabe, The concept of nature in Japan culture, Science 183 1974
11)渡辺正雄(M. Watanabe) 近代における日本人の自然観-西洋との比較において 日本人の自然観-縄文から現代まで 伊東俊太郎(S. Ito)編 河出(Kawade)出版 1995

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