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【第4回】植物の香りでリラックス

宮崎良文

みやざき・よしふみ

千葉大学環境健康フィールド科学センター教授・副センター長。専門は生理人類学。自然セラピー学の確立を目指し、人が自然に触れると安らぐという感覚を科学的視点から研究している。

【第4回】植物の香りでリラックス

2019/03/12

人工都市下で生活している私たちは、常にストレスを感じており、日常生活において利用できる「自然」を求めています。生花は、簡便に取り入れることができる自然として古くから、多くの人々に親しまれてきました。前回は、花を見たときのリラックス効果についてお示ししました。今回は、バラとシソの香りがもたらすリラックス効果について紹介します。植物の香りがもたらす効果は、アロマセラピー分野において、実際に利用されています。しかし、脳や体にもたらすリラックス効果に関しては、ほとんどデータがないのが現状なのです。

1.バラの香りをかいだときのリラックス効果

バラの生花「ルージュロワイヤル」の香りをかいだときの、リラックス効果に関する実験データを紹介します(引用文献1)。

温度25℃、湿度50%に調節した人工気候室において行い、女子大学生19名(平均:21.6歳)を実験対象者としました。バラの生花4輪の花部分のみを金属容器内の24Lの匂い袋に入れ、鼻下約10cmから3.0L/分にて香りを流しました(上の写真)。「弱い匂い」から「楽に感じる匂い」になるように調節し、香りの刺激時間は90秒間としました。

体の変化を測定する指標として、自律神経活動は心拍変動性を用いました。心拍の間隔は揺らいでおり、その揺らぎ方がストレス・リラックス状態を鋭敏に反映します。心拍の間隔を周波数解析することにより、リラックスしたときに高まる副交感神経活動とストレス状態で高まる交感神経活動に分けて計測することができ、人の状態を容易に解釈できるのです。脳活動も前回と同様に、近赤外分光法による前頭前野(前額部)における酸素化ヘモグロビン濃度を計測しました。以前は、脳波計測が中心でしたが、最近は、近赤外分光法が主流となり、脳の活動状態を1秒ごとに、鋭敏に計測することができるようになりました。

その結果、リラックス時に高まる副交感神経活動は、バラの生花の香りによって高まりました(統計的有意差あり)(引用文献1)。ストレス時に高まる交感神経活動も低下する傾向にあり(引用文献1)、バラの生花の香りによって、体がリラックスすることが分かりました。

上記したように、脳前頭前野活動も低下することが明らかとなりました(統計的有意差あり)。

また、香り物質として、バラの精油を使った場合でも同じ結果が得られました(引用文献2)。同時に実験したオレンジ精油も同じ効果を示しています(引用文献2)。ホテルのロビーやパーティーなどでバラの香りをかぐことがありますが、そのとき、私たちは、脳も体もリラックスしているのです。

次に、バラ精油を用いて、「嗅覚疲労」を起こした場合の体への影響を調べた研究を紹介します(引用文献3)。香りの刺激に関しては、俗に「鼻がばかになる」という表現が使われますが、匂いをかぎ続けていると段々と、匂いが弱く感じられるという現象です。「嗅覚疲労」時の体の変化を調べたデータはないため、バラの香りを連続してかいでもらって調べてみました(引用文献3)。

人工気候室にて、バラの精油の香りを10分間嗅いでもらったところ、感覚強度(香りを感じる強さ)においては、0~1分は「楽に感じる匂い」から「弱い匂い」の間と評価されていましたが、9~10分においては、「弱い匂い」から「かすかに感じる匂い」と感じられることが分かりました。そのときの、脳前頭前野活動は、感覚強度が低下しているにもかかわらず、鎮静化を続けていたのです。つまり、10分間のバラの精油の嗅覚疲労時において、時間の経過とともに、感覚強度は低下するのですが、体においては、その効果は継続し、脳前頭前野活動は鎮静化を続けていることが明らかとなりました。

2.シソの香りをかいだときのリラックス効果

シソはアジアでは食品であるとともに、太古の昔から「薬」としても使用され、うつ病の治療に使用される香蘇散(こうそさん)や半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)などの漢方薬に含まれています。また、刺し身のつまとしても用いられ、魚好きの私には、なじみの食材ですし、大好きな香りです。毎年、ベランダのプランターで種から育て、サラダとしてもおいしくいただいています。食材として生活に溶け込んでいる植物です。しかし、その香りがもたらす体への効果に関するデータは提出されていないため、シソの精油がもたらすリラックス効果を調べてみました(引用文献4)。

測定指標は、近赤外分光法とし、前頭前野活動の計測を行ったところ、左前頭前野、右前頭前野活動ともに鎮静化し、シソの香りをかぐことによって、脳がリラックスすることが分かりました。

人はストレス状態では、体が戦闘態勢に入っているため、お腹はすきませんが、リラックス時には、食欲が湧きます。刺し身のつまとしての役割も十分に果たしているようです。

おわりに

香り刺激においては、他の感覚刺激とは異なり、感情をつかさどる脳の大脳辺縁系に、直接働き掛ける経路があることが知られています。香りによって、すぐに大きな感情の変化が生じるゆえんです。植物の香りは、アロマセラピーにおいて、長く使用されてきた歴史があり、経験的な効果に関しては、私たちはすでに知っています。

花でお墓を飾ることも、世界中で行われており、すでに1万4000~1万2000年前のイスラエルの洞窟内墓地において、ミントやセージなどの香りのある植物が使われていたことが分かっています(引用文献5)。

しかし、残念ながら、植物由来の香り物質が持つ体への効果に関するデータの蓄積は極めて少ないのが現状です。これは、体の変化を評価するシステムが確立していなかったことが、大きな原因ですが、最近の機器類や評価法の確立により、効果の解明は大きく進展しつつあります。科学的データに基づいた植物の香りの利用は、ストレス改善、QOL(生活の質)向上に貢献する有効な方法であると考えています。

次回は「観葉植物や盆栽を見たときのリラックス効果」です。お楽しみに。

引用文献

1)M. Igarashi, C. Song, H. Ikei, T. Ohira and Y. Miyazaki, Journal of Alternative and Complementary Medicine 20(9) : 727-731 2014
2)M. Igarashi, H. Ikei, C. Song and Y. Miyazaki, Complementary Therapies in Medicine 22(6) : 1027-1031 2014
3)五十嵐美穂、池井晴美、宋チョロン、奥田拓、宮崎良文 日本生理人類学会誌 Vol.19 特別号(2) 66 2014
4)M. Igarashi, C. Song, H. Ikei and Y. Miyazaki, Journal of Alternative and Complementary Medicine 20(7) : 545-549 2014
5)D. Nadal, A. Danin, R. C. Power et al. Proceedings of the National Academy of Sciences 110(29) : 11774-11778 2013

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