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【第5回】観葉植物や盆栽を見たときのリラックス効果

宮崎良文

みやざき・よしふみ

千葉大学環境健康フィールド科学センター教授・副センター長。専門は生理人類学。自然セラピー学の確立を目指し、人が自然に触れると安らぐという感覚を科学的視点から研究している。

【第5回】観葉植物や盆栽を見たときのリラックス効果

2019/04/09

これまで花を見たり、香りをかいだりしたとき、体がどのようにリラックスするのか、実験例を用いながら紹介してきました。今回は、観葉植物や海外でも人気のある盆栽を見たときのリラックス効果を示します。まず、高校生を対象として、観葉植物を見たときの効果を記し、次に脊髄損傷者、高齢リハビリ患者、通院うつ病患者の方々を対象として盆栽やビオトープガーデンを見たときの効果を紹介します。我々が対象としている「自然セラピー」は、健常者にも、もちろん効果的なのですが、さらに、通院うつ病患者らの日常的にストレス状態にある方々に対する効果の解明が重要であると考えて実施した実験です。

1.観葉植物を見たときのリラックス効果

千葉県立柏の葉高等学校に在籍する高校生85名(男子41名、女子44名、平均年齢16.5歳)に60cm程度の観葉植物(ドラセナ)3鉢を見てもらいました。見てもらう時間は、3分間とし、指を使って計測する心拍変動性を指標としました。この計測によって、ストレス時に高まる交感神経活動とリラックス時に高まる副交感神経活動を計ることができます。

その結果、観葉植物を見ると、交感神経活動は低下し(統計的有意差あり)、副交感神経活動は上昇する(統計的有意差あり)ことが分かりました。質問紙においても「快適感」、「自然感」、「リラックス感」はすべて高まることが分かりました。私たちは、観葉植物を見るとリラックスすることを経験的に知っていますが、実際に体自体がリラックス状態になっていることが明らかになったのです。

高校生も、授業や部活など忙しい生活を送っています。校内に観葉植物を置くなどの工夫によって、高校生のストレス状態の緩和につなげてはいかがでしょうか?

2.盆栽を見たときのリラックス効果

脊髄損傷者に対するリラックス効果

車椅子を使って自身で移動可能な男性脊髄損傷者24名(平均:49.0歳)に、樹齢10年のヒノキ8本を用いた寄せ植え盆栽を1分間、見てもらいました。
脳活動指標は、近赤外分光法とし、左右前頭前野(前額部)の活動を計測しました。自律神経活動の指標は、指を使った心拍変動性とし、交感神経活動と副交感神経活動を計測しました。

上の図に示すように、盆栽を見たとき、交感神経活動は約半分になり(統計的有意差あり)、副交感神経活動は、約2倍になりました(統計的有意差あり)。脳の左前頭前野活動も鎮静化しました(統計的有意差あり)。

自律神経活動と脳活動の結果から、盆栽を見ることによって、脊髄損傷者の方々の体がリラックスすることが明らかとなったのです。車椅子を使用している脊髄損傷者の方々は、日頃からストレス状態にあると思われますが、身近な盆栽といった「自然」を使うことによって、ストレス状態が緩和されることが分かりました。

高齢リハビリ患者に対するリラックス効果

本実験は、医療法人社団 真療会 野田病院にて、高齢の通院・入院リハビリ患者14名(男性4名、女性10名、平均年齢:78.6歳)に協力していただいて実施しました。使用する盆栽と自律神経活動計測は、先ほど紹介した脊髄損傷者の実験の時と同様としました。

その結果、盆栽を見ることによって、リラックス状態を示す副交感神経活動が大きく上昇し(統計的有意差あり)、高齢リハビリ患者の方々の体がリラックスすることが明らかとなりました。

3.ビオトープガーデンを見たときのリラックス効果

最後に、医療法人社団 ユメイン野崎クリニックに施工されたビオトープガーデンにて、男性通院うつ病患者29名(平均:43.6歳)に協力いただいて実施した実験を紹介します。クリニックの外壁に施工された滝と小川があるビオトープガーデンと対面にあるビルを2分間ずつ眺めてもらいました。体の変化を測定する指標は、携帯型心電図モニターを用いた心拍変動性としました。

その結果、ビオトープガーデンを見ることによって、対照としたビルと比べ、交感神経活動は大きく低下し(統計的有意差あり)、副交感神経活動は、大きく上昇する(統計的有意差あり)ことが分かりました。

おわりに

観葉植物や盆栽を見たとき、私たちは、「ほっとする感覚」を持ちますが、これまでは、脳活動や自律神経活動などの体の変化を用いて、その「ほっとする感覚」を説明するデータはありませんでした。これらのデータは、最近の機器類や計測システムの進歩によって、世界で初めて得られた知見です。

また、今回紹介した実験結果に示されているように、脊髄損傷者、高齢リハビリ患者、通院うつ病患者の方々を対象とした場合、健常者である高校生に比べて、顕著なリラックス効果を示すことが分かりました。視覚刺激における観葉植物と盆栽という違いはありますが、健常者に比べて、「リスクグループ」において、顕著なストレス改善効果が認められ、自然セラピーがもたらす医療費削減効果に対する期待が高まる結果となりました。

次回は「木の香りでリラックス」です。お楽しみに。

引用文献

1)H. Ikei, C. Song, M. Igarashi, T. Namekawa and Y. Miyazaki, Advances in Horticultural Science 28(2) : 111-116 2014
2)H. Ochiai, C. Song, H. Ikei, M. Imai and Y. Miyazaki, International Journal of Environmental Research and Public Health 14(9) : 1017 2017
3)C. Song, H. Ikei, M. Nara, D. Takayama and Y. Miyazaki, International Journal of Environmental Research and Public Health 15(12) : 2635 2018
4)池井晴美、宋チョロン、嵯峨崎泰子、野崎英樹、宮崎良文 日本生理人類学会誌  第77回大会概要集, 61 2018

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