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【第4回】花弁が変色する、花の色が変わる

望田明利

もちだあきとし

千葉大学園芸学部卒。住友化学園芸研究開発部長として、家庭園芸薬品や肥料の開発普及に従事。現在は園芸文化協会理事、家庭園芸グリーンアドバイザー認定講習会講師などとして活躍中。各種園芸雑誌等に病害虫関係の執筆多数。自らも自宅でさまざまな種類の草花を栽培している。

【第4回】花弁が変色する、花の色が変わる

2021/03/16

前回に引き続き、植物が変色する被害についてご紹介します。今回は花弁やがくの色が変わるなど、花の美しさを損なう被害です。

【目次】
被害1. 花弁に白色や赤色の斑点ができる
 ●犯人その1:灰色かび病
  灰色かび病の特徴
  灰色かび病の防除方法
  [ちょっと雑学]灰色かび病は貴腐ワインの生みの親
 ●犯人その2:アザミウマ(害虫)
  アザミウマの特徴
  アザミウマの防除方法
  [ちょっと雑学]アザミウマの名前の由来
 ●犯人その3:ウイルス
  ウイルス病の特徴
  ウイルス病の防除方法
  [ちょっと雑学1]チューリップの球根生産者がわざわざ花を咲かせる理由
  [ちょっと雑学2]葉が淡緑色や濃緑色になるのはすべてウイルス病?

被害2. アジサイの花などの花色が変わる
 ●犯人:ファイトプラズマ(細菌)
  ファイトプラズマによる病気の特徴
  ファイトプラズマによる病気の防除方法

被害1. 花弁に白色や赤色の斑点ができる

●犯人その1:灰色かび病

灰色かび病は、糸状菌(かび)のボトリチス菌によって起きる病気です。

灰色かび病の特徴

植物の茎や葉、果実など、どの部分にも被害を及ぼしますが、花弁が最も感染しやすく、花にとって恐ろしい病気です。白色系の花弁には赤色系の染み、有色系の花弁には白色系の染みが生じることが多く、バラやキクをはじめ、ほとんどの花が被害を受け、美しく咲く花の価値を損ないます。病気が進行すると最後は花全体が灰色のかびに覆われ、蕾のときに感染すると灰色のかびに覆われて開花せずに終わってしまいます。温度20℃前後で湿度が高い時期を好むため、春先から梅雨の時期と、秋から初冬にかけての時期に多く発生します。

灰色かび病(ペチュニア)(写真提供:住友化学園芸株式会社)

灰色かび病(シクラメン)(写真提供:住友化学園芸株式会社)

灰色かび病の防除方法

花壇では水分量が多くならないよう、間隔を空けて植えてください。鉢植えでは植物全体に散水せず、株の根元に与えるようにします。また、咲き終わった花は感染している可能性があるので、美観を損なわないように摘み取って焼却します。防除薬剤では「ベンレート(R)水和剤」を散布します。

[ちょっと雑学]灰色かび病は貴腐ワインの生みの親

甘くておいしい貴腐ワインですが、実は灰色かび病の病原菌の作用によって作られているのをご存じでしたか? 灰色かび病の病原菌が作用し、糖度が高くなったブドウのことを貴腐ブドウと呼んでいます。本来であれば有害な菌なので、条件がそろわないとそのまま腐ってしまいます。それを腐らせず貴腐化させるための条件は、朝に霧が発生して菌の生育に適した温度や湿度になっていることと、日中は晴れて果実の水分が蒸発することだといわれています。

●犯人その2:アザミウマ(害虫)

ほとんどの花がアザミウマの被害を受けてしまうのですが、特に多いのは花弁が多く重なり合うような花です。バラ、カーネーション、キク、ツバキなどに多く発生します。アザミウマは花弁の汁を吸うため、被害部分が白色や褐色に変色し、美しさが著しく損なわれます。

アザミウマの被害を受けたトルコギキョウ(写真提供:住友化学園芸株式会社)

アザミウマの特徴

アザミウマは、花に害を与える病害虫の代表格で、体長1~2mm程度の細長い虫です。成虫は花の根元など見えない場所に潜んでいるため目立たず、気が付きにくいという難点があります。アブラムシなどと異なり、汁を吸う管を持っておらず、口器と呼ばれる口のような部位で噛んで傷を付けて、染み出てきた汁を吸います。活動時期は主に4~10月ごろにかけてです。条件がよいと1年間に10回前後繁殖を繰り返します。成虫は植物体の中に産卵し、ふ化した幼虫は植物を加害し、植物体から落ちて土の中でさなぎになります。

アザミウマの防除方法

雑草にも寄生しているので除草を心掛け、咲き終わった花も切り取って焼却します。小さくて目立たない害虫なので、見えない場所に潜んでいるため防除が大変ですが、「オルトラン(R)粒剤」や「オルトラン(R)水和剤」のように植物の根や葉から薬剤を吸収させ、植物体内に薬剤を行き渡らせるものが効果的です。

[ちょっと雑学]アザミウマの名前の由来

アザミウマの英名は「スリップス」で、アザミウマ(薊馬)は和名です。関西地方で子どもたちがアザミの花を摘んで軽く手のひらでたたき、「ウマでー!(馬出よ)、ウシでー!(牛出よ)」と唱えながら、出てくる虫の数を競う遊びをしていたことが名前の由来といわれています。

●犯人その3:ウイルス

ウイルスは、花弁にさまざまな斑点を作るウイルス病やモザイク病を引き起こします。花弁以外の葉にも、斑点が入る、葉の色が淡緑色や濃緑色のモザイク状になる、新芽部分が萎縮するなどの症状が同時に現れることも多いです。

ウイルス病(チューリップ)(写真提供:住友化学園芸株式会社)

葉がモザイク状になったホウセンカ(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)

ウイルス病の特徴

ウイルスは糸状菌や細菌などといった他の病原菌と異なり、単独では他の植物には感染しません。感染方法はアブラムシやコナジラミ、アザミウマなどの吸汁性害虫によって被害が広がっていく虫媒伝染。そして、刃物などに付着した汁液によって広がっていく汁液伝染の2つがほとんどです。

ウイルス病の防除方法

ウイルスが植物体に入ってしまうと防除方法はなく、抜き取って焼却処分しなければなりません。そのため、アブラムシなどウイルスを媒介する害虫を退治します。特に、高価なラン類に刃物を使うときなどは、1回ごとに消毒するか焼いてから次のランに使用するようにしましょう。

[ちょっと雑学1]チューリップの球根生産者がわざわざ花を咲かせる理由

チューリップの球根の主な生産地は、外国ではオランダ、日本国内では新潟県と富山県です。開花時期になると、畑一面にさまざまな色のチューリップが咲きます。球根を生産するのですから、開花させるために必要な養分は球根を太らせるために使用すればよいのに、と疑問に思ったことはありませんか? 観光のためというのも一部はあるかもしれませんが、これはウイルス病の感染の有無を調べるためなのです。確認後、開花や結実に使用する養分を球根の成長に回すため花首だけを切り取って太らせます。

[ちょっと雑学2]葉が淡緑色や濃緑色になるのはすべてウイルス病?

葉の葉脈部分は緑色で葉脈間が淡緑色になっている場合、これもウイルス病の被害かと思われますが、実際は鉄分が欠乏した状態によって起きた症状です。葉が小さくなることはあっても、萎縮したり波打つなど変形したりはしないので、ウイルス病と区別することができます。特に、「ピートモス」などを主体にした軽い土で起こりやすいので注意してください。

鉄欠乏(ペチュニア)(写真提供:住友化学園芸株式会社)

被害2. アジサイの花などの花色が変わる

●犯人:ファイトプラズマ(細菌)

ファイトプラズマは、アジサイの花のがくの部分を淡緑色や濃緑色に変化させる、葉化病という病気を引き起こします。ピンク色などの花色が緑色に変化するため突然変異で珍品種が誕生したかのように思われますが、実際は病原菌によって起きた病気です。

ファイトプラズマによる病気の特徴

なじみのない方が多いかもしれませんが、ファイトプラズマは特殊な細菌の仲間です。他の細菌のように葉に病斑を作る、腐らせるなどの被害とは異なり、主に花色を変化させたり、側枝や側芽が異常に発生するてんぐ巣病などの症状を引き起こしたりします。ファイトプラズマは植物の養分を吸う虫である、ヨコバイ類によって感染拡大するともいわれています。

ファイトプラズマの防除方法

ファイトプラズマは、株分け、挿し木、接ぎ木などといった栄養繁殖でも感染するため、感染したアジサイから挿し穂を取って増やすことはしないでください。アジサイの場合、ヨコバイによる伝染については、はっきり確認されていませんが防除を心掛け、発生したときは抜き取って焼却処分します。

次回は「新芽や枝などに白いものが付着する症状」です。お楽しみに。

注釈

防除薬剤は病害虫の効果だけで記載しております。使用の際は適用作物をご確認の上、ご使用ください。

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