タネから広がる園芸ライフ / 園芸のプロが選んだ情報満載

連載

【第7回】茎が折れる、垂れ下がる

望田明利

もちだあきとし

千葉大学園芸学部卒。住友化学園芸研究開発部長として、家庭園芸薬品や肥料の開発普及に従事。現在は園芸文化協会理事、家庭園芸グリーンアドバイザー認定講習会講師などとして活躍中。各種園芸雑誌等に病害虫関係の執筆多数。自らも自宅でさまざまな種類の草花を栽培している。

【第7回】茎が折れる、垂れ下がる

2021/06/15

今回は、丹精込めて育ててきた草花が、もうすぐ花が咲くぞと楽しみに待っているときに突然、茎が折れたり、新芽や新梢が垂れ下がってきてしまうといった症状について解説します。

【目次】
被害. 茎が折れたり、新芽や新梢が垂れ下がったりする
 ●犯人その1:クキバチ
  クキバチの生態
  クキバチの防除方法
  [ちょっと雑学]植物を害するハチ、害虫を退治するハチ
 ●犯人その2:カミキリムシ、ゾウムシ
  カミキリムシ、ゾウムシの生態
  カミキリムシ、ゾウムシの防除方法
 ●犯人その3:アズキノメイガ(フキノメイガ)、コウモリガ
  アズキノメイガ(フキノメイガ)、コウモリガの生態
  アズキノメイガ(フキノメイガ)、コウモリガの防除方法

被害. 茎が折れたり、新芽や新梢が垂れ下がったりする

●犯人その1:クキバチ

主にバラが被害を受けます。4~5月ごろ、新芽が伸び、蕾もできて開花を楽しみに待っているとき、突然、新芽部分が垂れ下がってしまうことがあります。周辺には虫の姿も見えず、何が原因か分からず戸惑ってしまう……。これは、バラクキバチが茎に傷を付けて産卵したために、傷口より上部に水が上がらずにしおれてしまった、というものです。

クキバチの被害を受けたバラ(写真提供:住友化学園芸株式会社)

クキバチの生態

雌の成虫は体長2cm程度。細長く黒っぽい体で腹部に赤褐色の帯模様が付いています。新芽1枝に1個ずつ産卵します。ふ化した幼虫は茎の内部を食害し、そのままさなぎになり、翌春には成虫となって再び害を与えます。

クキバチの防除方法

4月後半ごろから被害にあうことが多いので、その時期は特に注意しましょう。被害を受けた枝は早めに切り取って焼却します。茎の中でふ化した白いウジムシ状の幼虫は、被害植物の株元に向かって食害しますので、垂れ下がった茎の有無を確認します。穴が開いているようでしたら幼虫が下部まで移動していますので、穴が開いていない状態の茎まで切り戻します。成虫を対象にした防除は難しいです。被害が多く現れ始める4月後半ごろは、アブラムシなどの他の害虫も寄生している時期です。「オルトラン(R)液剤」などの薬剤を散布しておくと、においを嫌がってクキバチの産卵が抑制され、アブラムシなどの他の害虫の寄生も防ぎます。

[ちょっと雑学]植物を害するハチ、害虫を退治するハチ

ハチにはいろいろな種類がいます。植物を害するクキバチ、タマバチ、ハバチ、蜜を集めるミツバチ。他にも、ケムシやイモムシ、コガネムシの天敵で、虫ならなんでも退治してくれるスズメバチなどは、人間には嫌われていますが、よく知られています。中には、天敵でありながら普段気が付かない体長1mm程度の小さな寄生バチもいます。この寄生バチは、ケムシやイモムシ、カイガラムシ、コナジラミ、カメムシ、アブラムシなど多くの害虫に寄生します。寄生する害虫によって、異なる種類の寄生バチがおり、虫の体内や体表、卵の中に卵を産み付け、ふ化した幼虫が虫の体内を食べて退治してくれます、薬剤をまいていないのに、ケムシやイモムシなどが死んでいるのは寄生バチによるものが多いです。

●犯人その2:カミキリムシ、ゾウムシ

キク、バラ、サルスベリなどの茎に産卵をするため、傷つけられた新梢が垂れ下がったり、蕾の付け根が折れたようになったりします。キクをはじめとしたキク科植物に被害を与えるのがキクスイカミキリ、バラやサルスベリに被害を与えるのが通称バラゾウムシ(クロケシツブチョッキリ)です。

カミキリムシ、ゾウムシの生態

カミキリムシと聞けば、3~5cm程度の甲虫を思い浮かべる方が多いでしょう。ところが、キクをはじめとするキク科の植物に被害を与えるキクスイカミキリの成虫は1cm以下という小ささです。犯人1に登場したバラクキバチ同様、茎に産卵するため、傷口から上の部分が垂れ下がってしまいます。幼虫は茎内でさなぎになり、翌春4~6月に成虫となります。

キクスイカミキリの被害を受けたキク。産卵された部分の上がしおれている(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)

また、バラやサルスベリに被害を与えるのが、一般的にバラゾウムシと呼ばれているクロケシツブチョッキリです。成虫は4月ごろから現れますが、5月ごろの被害がよく目立ちます。この虫も茎に産卵するため、傷口から新梢が垂れ下がったり、蕾の付け根がガクッと折れたようになったりします。3mm程度の小さな虫ですが、被害は無視できません。成虫は産卵以外にも蕾や新梢、葉柄(ようへい:葉を支える部分のこと)などを食害し、茎内の幼虫は枯死した葉や蕾を食べ、土中でさなぎになって越冬します。

カミキリムシ、ゾウムシの防除方法

被害が現れたら、被害茎は取り除き焼却します。次々と被害が拡大していくので、成虫を見つけたら捕殺しましょう。クロケシツブチョッキリは被害植物を揺すると落下します。落下した直後は死んだように動きませんが、しばらくすると飛んで逃げていきます。被害が大きい場合は地面に白い紙などを置き、揺すって落ちてきた成虫を確実に退治します。また、キクスイカミキリはヨモギなどのキク科の雑草にも寄生するため、除草を心掛けてください。防除薬剤はクキバチ同様、「オルトラン(R)液剤」などです。

●犯人その3:アズキノメイガ(フキノメイガ)、コウモリガ

ダリア、キク、ユリなどが被害を受けます。茎の中に入り込み、茎の内側を食べ、植物の侵入孔から、ふんを出します。茎の内側が食べられてしまうため、茎が細く弱くなり、風や降雨により折れてしまいます。

アズキノメイガ(フキノメイガ)の被害を受けたダリアの葉柄(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)

アズキノメイガ(フキノメイガ)、コウモリガの生態

アズキノメイガは5月ごろに現れ、9月ごろまで年1~3回程度発生し、葉裏にまとめて産卵します。ふ化した幼虫は葉柄(ようへい:葉を支える部分のこと)から茎内に侵入し、被害植物の中でさなぎになって越冬します。草花だけでなくナス、ピーマン、オクラなども被害にあいます。また、コウモリガは1~2年に1回発生し、草花類だけでなく、庭木や果樹類にも発生します。ふ化後の若齢幼虫は草花類を食害し、その後、庭木などに移動します。ただし、多年生草花類に寄生したときは、移動せずにそのまま越冬することもあります。

アズキノメイガ(フキノメイガ)、コウモリガの防除方法

アズキノメイガ、コウモリガともに、茎内に生息、あるいは越冬しているため、被害植物は抜き取って焼却します。コウモリガはヨモギ、イタドリなどの雑草にも加害するので、雑草も抜き取ってください。防除薬剤は「スミチオン(R)乳剤」、「オルトラン(R)液剤」やチョウ目の専門薬の「ゼンターリ(R)顆粒水和剤」などを散布します。

次回は「発芽した苗や茎がなくなったり、食べられたりして折れる、変色して倒れる」です。お楽しみに。

注釈

防除薬剤は病害虫の効果だけで記載しております。使用の際は適用作物をご確認の上、ご使用ください。

この記事の関連情報

この記事に関連したおすすめ商品は、サカタのタネ オンラインショップでご購入いただけます。

JADMA

Copyright (C) SAKATA SEED CORPORATION All Rights Reserved.