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連載

【第14回】ナス

佐倉朗夫

さくら・あきお

1975年、東京教育大学農学部卒業。神奈川県農業総合研究所や民間企業で野菜栽培の経済性や環境保全型農業の研究、有機野菜の栽培技術向上に取り組む。現在、明治大学特任教授、黒川農場副農場長。同大学リバティアカデミー「アグリサイエンス」講座で市民を対象とした有機農業講座を担当。著書に『有機農業と野菜づくり』(筑波書房)、『佐倉教授「直伝」! 有機・無農薬栽培で安全安心な野菜づくり』(講談社)、『家庭菜園 やさしい有機栽培入門』(NHK出版)などがある。

【第14回】ナス

2017/02/07

ナスは奈良時代にはすでに記録がある歴史のある野菜の一つで、現在もトマトと並んで夏野菜の代表的な野菜です。トマトより作りやすいので、上手に栽培すれば食べきれないほどの収穫量が期待できます。収穫期間が長くなるので土壌病害虫に強く、生育が旺盛な接木苗を選び、株間を広めに取り、横へ大きく広げて育てます。

初夏から晩秋まで長く収穫でき、料理法も多彩なナス 写真:谷山真一郎

分類と生態

原産地:インド東部
科名:ナス科ナス属
連作障害:あり(自根苗の場合は5年、接木苗の場合は3〜4年空ける) 
生育適温:昼温25〜30℃、夜温20℃

作型と栽培

生育適温はトマトよりも高く、高温40℃まで耐える

ナスの原産地は、インド東部とする説が有力のようです。日本では夏の野菜として古くから各地で栽培されていて、品種分化しやすいといった作物の特性もあり、それぞれ在来種として土地に適した品種が生まれています。ナスの品種は、長果形、中果形、丸形、卵形など、果形によって分類され、それぞれ数多くの品種がありますが、流通が全国的になった現在は中長形品種が主流となっています。
本来は短日植物ですが、現在の食用の品種は着果では日長の影響をほとんど受けず、作型を決める環境要因は気温です。生育適温は昼間が25~30℃、夜間が20℃とトマトに比べると高く、夏の高温に対しても40℃までは耐えられます。さらにトマトのように熟した果実ではなく幼果を収穫するので、定植から収穫開始までが短い上に、株への負担も少なくなるため夏を超えての栽培が容易です。温暖地では収穫が5月中旬〜10月下旬まで長く採れるため、露地を中心とした栽培が一般的です。
遅霜の心配がなくなる5月中旬ごろに定植すると、6月中旬ごろから収穫が始まります。収穫を早めたい場合は、トンネル内に定植しますが、4月上旬に定植すると5月中旬ごろから収穫が可能です。

連作を避けた場所を選び、接木苗で草勢を維持

ナス科の野菜は全て連作を嫌うので、5年間はナス科の野菜を作ったことがない場所を選びます。
栽培期間が長いので土壌病害対策上の理由だけでなく、長期間、草勢を維持するために、接木苗での栽培がおすすめです。ナスの接ぎ木はキュウリやトマトと比べると容易ですが、加温施設や保温のためのハウスが必要になるので接木苗を購入する方がよいでしょう。

ナスの作型例(温暖地)

各作型についての補足事項は下記の通りです。
[露地栽培]
自根苗で育てる場合のタネまきは、暖かくなってから行う。
接ぎ木をする場合は、保温したハウス内でタネをまいて育苗し、霜の降りる心配がなくなったころに露地に定植する。

[トンネル早熟栽培]
保温したハウス内でタネをまいて育苗し、トンネルの中に定植する。

栽培手順(温暖地)

1.タネまきと苗作り

タネは育苗箱か苗床にスジまきします。深さ1cmほどのまき溝を作り、重ならないように5mm間隔にタネをまいて、厚さ5mmほど覆土します。まき溝が2条以上になる場合は、条間を8~10cmにします。

その後に水やりをし、ビニールトンネルで覆って、温度の確保と雨でたたかれないようにします。発芽がそろったら、株間10cmほどに間引きます。

定植まで苗床で育苗してもよいのですが、しっかりとした苗を育てるには、本葉が1、2枚のころに直径12~15cmのポリ鉢に移植します。その後も定植までトンネルの中で育てますが、温度管理と水やりに十分注意します。
1番花が咲いたら定植します。タネまきから定植まで60~70日かかります。

2.植え床の準備

ナスは土が締まっている方が育ちやすいので、堆肥や元肥は植え付けの1~2カ月前までには施して、高さ10cmほどの畝を作り透明のマルチフィルムを張って植え床を作っておきます。堆肥の量は1平方メートル当たり1kg、肥料はボカシ肥料を同じく300gとします。

植え床幅70cm、畝の高さ10cmほどのベッド状にします。植え付けは株間60cmの1条植えにします。

3.植え付け

苗の根鉢にたっぷりと水を含ませてから直立に植えます。このとき、根鉢の上部が植え床面から2~3cm高くなるようにします。深植えは禁物です。3本の主枝を120度の角度で3方向に開くように仕立てるので、1番花はどちらを向いていても構いません。

4.仮支柱立て

植え付け後、苗の直立を維持するために長さ70〜80cmの細い仮支柱を斜めに立てます。苗と支柱は麻ひもなどを8の字に回して結びます。茎は成長とともに太くなるので、支柱への固定は十分な余裕を持たせて緩めにしておきます。

5.整枝

1番花が着花した主枝と、1番花よりも下から出る勢いのよい側枝2、3本を残して、その下の側枝やわき芽は全部、摘み取ります。

6.本支柱立て

1番花(第1果)の収穫のころに見極めて3本仕立てにしますが、そのまま4本に仕立てても構いません。残した主枝と側枝は「基本枝」として、本支柱に誘引して伸ばしていきます。

秋までの長期間の収穫を目指す栽培では、直径20mm、長さ180~240cmの丈夫で長い本支柱を1株当たり4本用意します。2本ずつクロスさせて株を囲むように立てますが、支柱は斜めに挿して、それぞれの基本枝が四方に誘引できるようにします。

7.わき芽かきと摘芯

基本枝を支柱に誘引して伸ばしますが、後から出てくる側枝を適宜、間引き、こまめに芯をつまんで伸長を止め(摘芯)、まんべんなく日が当たるようにします。特に基本枝の中心部分は混み合いやすいので注意します。

第1果の収穫と同時に、一番下にある基本枝よりも下方の葉とわき芽は全て取り除き、地際の風通しをよくします。
接木苗の場合は、台木からも枝が伸びてくるので、それも小さいうちにこまめに取り除きます。

次に基本枝から出たわき芽はそこから1果だけ収穫するために、最初の花の上に葉を1枚だけ残して摘芯します。
その果の収穫と同時に、その枝は収穫果の直下で切り戻します。切り戻した側枝にもわき芽が発生するので、このわき芽も同様に1果を収穫するように摘芯・収穫・切り戻しを行います。このように、わき芽の処理を繰り返しながら、一方で内側に向かって出た側枝や混み合っている所の側枝は全体的な日の当たり具合を考えながら、切り戻しではなく元から取り除いて間引くなどで対応します。

8.追肥

1回目の追肥は植え付けから30~45日後で、かなり収穫が進んでからボカシ肥料30gをマルチフイルムを少し持ち上げて3カ所に分けて施します。
その後は、2~3週間に1回を目安に、畝の片側(通路)に深さ5cmほどの溝を掘り、1平方メートル当たり50gのボカシ肥料を追肥し土をかぶせます。次は反対側に同じ要領で行い、交互に施すとよいでしょう。

9.敷きわら

梅雨が明けたら、根に高温障害が起こらないように、地温の上昇を防ぐための稲わらを敷きます。稲わらの厚さはマルチフィルムが見えなくなる程度にします。

10.収穫

中長形品種では花が咲いてから15~20日が収穫の目安です。しかし収穫が始まるころは株がまだ小さいので、株への負担を少なくするために最初の1~3果は若採りします。また、収穫盛期などに多く着果したときも同様に若採りするとよいでしょう。

イラスト:角しんさく

収穫ははさみを使い、品種ごとの大きさになったら果柄の中間の位置くらいから切り離します。ナスの枝は折れやすいので、収穫作業で枝を折らないように注意します。

有機栽培のコツ

栄養過多や水不足に注意して、不良果や病害虫を減らす

ナスには、扁平果、双子果、舌出し果などの乱形果や果実の一部が裂ける裂果、果面につやのないつやなし果(ぼけナス)、実が大きくならずにそのまま硬くなる石ナス果などの不良果がよく発生します。乱形果は栄養過多などで生育が旺盛になり過ぎたときによく見られますが、その他の生理的な障害は、乾燥による水不足が原因で多く発生します。石ナス果や裂果が出る枝は、そのような環境下にあるため出やすくなっているので思い切って切り取ります。
乾燥状態が続くとニジュウヤホシテントウなどの茎葉への食害も増えてくるので、食害によってボロボロになった葉も切り捨てます。さらに古くなり役割が終わった葉もうどんこ病やダニなどが付いていることがあるので、どんどん切り捨てます。
ナスは切れば切るほど新しい芽が出てきて生育がよくなる性質があり、古い枝葉をどんどん取り去る管理は、ナスの有機栽培では病害虫の防除や生育回復に効果を発揮します。

次回は「トウモロコシ」を取り上げる予定です。お楽しみに。

JADMA

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