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水の女王 アジサイ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

水の女王 アジサイ

2015/07/10

大都会東京と世界を結ぶ大動脈、浦賀水道。1日に1000を数える船がここを通るといわれます。東京湾の海峡とも思われるこの海域を見渡す場所に観音崎があります。海の要衝として過去に東京湾要塞が築かれ、民間の開発がなされなかったため、自然の海岸林植生が今なお残されています。

この地域には重要な園芸種のアジサイの親となった、ガクアジサイが自生し、花を咲かせていました。

アジサイ科ハイドランジア属のガクアジサイ Hydrangea macrophylla(ハイドランジア マクロフィラ)は、日本の固有種で三浦半島や伊豆諸島、伊豆半島、房総半島など、本州中部の半島や島に自生します。その性質からハマアジサイとも呼ばれます。

白色や薄い紫色の装飾花を周りに配し、中央に青い本当の花をつけます。装飾花の大きさや両性花の色合いなど、野生種でありながら観賞に十分な美しさです。このガクアジサイの変異から現在の園芸種が発展していきました。

Hydrangeaとは水の容器という意味をもちます。もともと植物自体は80%以上の含水率を持っているので、植物自体が緑色した水の容器ともいえます。特にアジサイ類は水を欲しがり、降水量の多い日本には美しいアジサイ類が多く自生しています。

浦賀水道は東京湾が一番狭くなった場所で、海の難所です。ここの海岸林は温暖で湿度も高く、コショウ科のフトウカズラなどの暖地性植物が生い茂っています。

ガクアジサイは海岸林の林縁などに自生する、樹高2m程度の潅木です。半島、離れ小島の海岸に生える性質からハマアジサイともいわれます。

アジサイ科ハイドランジア属のガクアジサイ Hydrangea macrophylla。種形容語のmacrophyllaとは大きな葉を表します。15cmにも及ぶ立派な花序を有し、野生種にしてこの花姿です。現在のアジサイの園芸種の元になった植物です。

コアジサイ Hydrangea hirtaです。関東から西の林内や林縁などに生える、日本固有のアジサイです。種形容語のhirtaとは有毛を表し、葉に毛が生えていることを示します。写真は奥多摩の湿った山地で撮影しました。

コアジサイはアジサイ属の特徴的な装飾花はなく、6~7月に5cm程度の集合した小花を咲かせます。

タマアジサイ Hydrangea involucrata。これも日本に固有で、世界的に見れば珍しいアジサイですが、日本の東北南部~中部地方の山地では普通に自生しています。沢沿い、池のほとりなどが好きで、水の女王みたいな植物です。

この植物の最大の特徴は、葉が変化した苞が花序を玉状に包むことです。種形容語のinvolucrataは総苞を意味しています。1.5cm程度の総苞に包まれた蕾が開き、10cmを越える花を咲かせる姿は、打ち上げ花火の瞬間を切り取ったように見えます。

ガクウツギ Hydrangea scandens。日本を含め、東アジアの暖地に自生する種で、両性花の周りに白く不規則な装飾花をまばらに咲かせます。種形容語のscandensは他の植物によじ登る性質を表します。葉はウツギに似て、花はガクアジサイに似ているのでガクウツギと呼ばれます。

ヤマアジサイ Hydrangea serrataは湿度の高い山地や沢筋に見られる小型のアジサイで、ガクアジサイ Hydrangea macrophyllaを小さくしたように見え、ガクアジサイの亜種とする見解もあります。種形容語のserrataは、葉に鋸歯があることを表します。

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