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朝、昼、晩[前編] ヒルガオ科植物

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

朝、昼、晩[前編] ヒルガオ科植物

2017/07/18

7月になると朝顔市が開かれ、小学生の子どもたちに育てられるアサガオは、古くは奈良平安の時代、中国から遣唐使がタネを漢方に利用するために持ち込んだ植物です。その中国では、アサガオは厄介な畑の雑草として除草され、薬剤をかけられます。日本のように花をめでる植物ではありません。アサガオは一度タネを散らしたら、農耕地において絶やすことのできない、迷惑なただの草なのです。


アサガオの仲間は主に熱帯が起源のヒルガオ科の植物。全世界で雑草として疎まれていますが、それを園芸植物として見事に昇華させたのは日本です。今回はアサガオを含む東アジアのヒルガオ科植物の姿をのぞいてみたいと思います。

近年の系統分類学説APG分類によるとアサガオはヒルガオ科サツマイモ(Ipomoea)属とされました。今までヒルガオ科アサガオ(Pharbitis)属だったのです。サツマイモに極めて近縁で、2属を分ける必要がないための変更だと思います。サツマイモの原生地は熱帯アメリカで、この地を征服したスペイン人やポルトガル人によって世界に伝えられたのですが、ポリネシアの島々では、はるか以前に作物として利用されていたといわれます。

サツマイモIpomoea batatas(イポモエア バタタス)ヒルガオ科サツマイモ属。原生地は南米ペルーの熱帯域とされています。種形容語のbatatasは現地の言葉で根の塊を指すbatataにちなみます。batataはpotatoの語源ともいわれています。サツマイモの花はアサガオそのものですが、開花に強く短日を要求する植物なので日本本土ではめったに花を咲かせません。咲く前に寒さで枯れてしまうからです。

アサガオの仲間であるヒルガオ科の植物はどれもがくが5枚、雄しべが5本、5つの花弁は合弁して漏斗状の花を咲かせます。花弁が合わさった部分を曜と呼びます。通常、曜は5つですが、大輪系になると7曜、8曜になる場合もあります。

画像は曜白アサガオと呼ばれる、曜の部分が白い形質のアサガオです。これは静岡大学の教授がマルバアサガオとアフリカのアサガオを交配して種間雑種を作り、それに日本で改良されたアサガオを交配した結果、得られた形質です。それはどのアサガオにもなかった形質です。複雑な交配の結果できたもので、花色の美しさから現在では人気の品種になっています。

アサガオの仲間はタネでも地下茎でも広がることから、熱帯・亜熱帯地域では世界中に分布を広げています。台湾桃園国際空港から市街地へ行く道路際に、タイワンアサガオが街路樹のこずえまで巻き付き、花をいっぱい付けていました。タイワンアサガオIpomoea cairica(イポモエア カイリカ)ヒルガオ科サツマイモ属。和名を付けた人はその様子からタイワンアサガオの名前を付けたに違いありません。種形容語のcairicaとはエジプトのカイロを意味し、このアサガオが台湾ではなく、北アフリカ原生であることを表します。

ノアサガオIpomoea indica(イポモエア インディカ)ヒルガオ科サツマイモ属。種形容語のindica はインドを表します。沖縄にも自生があり、琉球アサガオの名があります。性質は強健できれいな花をいっぱい付けるのですが、霜の降りない地域や場所に植え付けると つるが伸び過ぎるので注意しましょう。根元から地下茎を伸ばして広がっていきます。

アサガオは遣唐使が中国から持ち込んだものです。その中国でもアサガオは外来種であり、自然の山野には見当たらず、畑の草として見ることができます。マルバアサガオと思われる芽生ですが、硬いタネが時間差で発芽するために、農耕地において絶やすことのできない迷惑な雑草なのです。

そんな雑草として迷惑がられるアサガオは、日本では園芸植物として愛されています。7月になると各地で市や展示会が行われます。園芸店ではタネや苗、あんどん仕立ての鉢物が売られるほど人気です。

写真の花は神奈川県横浜市にあるサカタのタネ ガーデンセンター横浜で人気のアサガオです。名を「団十郎」といいます。歌舞伎役者の市川団十郎が使う衣装に使うエビ茶色のアサガオです。アサガオ「団十郎」は江戸の粋を今に伝えるアサガオです。

アサガオIpomoea nil(イポモエア ニル)ヒルガオ科サツマイモ属。学名はイポモエア ニルあるいはナイルと読むのが正しいのだと思います。nilを調べるとエジプトを流れるナイル川の意味と書いてあります。実は日本アサガオといわれるアサガオの生い立ちはよく分かっていません。長く熱帯アジアと考えられていました。中南米に紀元を求める学説もあり、不明と言わざるをえません。西洋人によってサツマイモが世界中に伝播する以前にポリネシアでは食糧にしていたように、人類の歴史の記述が始まる前に広く分布を広げた可能性があるのではないでしょうか。

写真は桔梗咲きアサガオと呼ばれる、江戸時代に生まれた変化アサガオの品種群です。紫花が「紫獅子」、水色の花で黄葉が「青獅子」、白花が「白獅子」という品種です。雄しべが花弁に変化する形質が若干見られますが、タネが採れ、次世代に同じ変化が生じます。タネが採れる形質を変化アサガオでは正木(まさき)といいます。

写真は、青蜻蛉丸笹葉紅覆輪切咲牡丹と呼ばれる複雑な花を咲かせる変化アサガオです。複雑な名前は葉、茎、花の形質をそれぞれ細かく表記しています。薬として中国から持ってきたアサガオは、日本では美しい花を咲かせる園芸植物として発展しました。江戸時代のアサガオブームにおいてたくさんアサガオが作られ、膨大な母数の中から突然変異が生じました。アサガオとは思えないこのような変異は、雄しべや雌しべが花弁になっているため、タネを付けることができません。このような変異は劣性遺伝であり、出現した個体は出物(でもの)といわれ、正木のタネをまくと少ない確率で出てきます。それを楽しむ変化アサガオ園芸文化は日本だけのものです。

次回は「朝、昼、晩[中編] ヒルガオ科植物」です。お楽しみに。

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