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朝、昼、晩[後編] ヒルガオ科植物

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

朝、昼、晩[後編] ヒルガオ科植物

2017/08/08

朝に咲くアサガオ、昼に咲いているヒルガオ、暗闇に咲くヨルガオ、熱帯を本拠地にしながら、さまざまな環境に適応していった仲間たち。今回は酷暑、極寒の乾燥地から、波をかぶる砂浜海岸に生えるヒルガオ科、そしてこの科の本家であるヒルガオ属の姿に迫ります。

前回ご紹介したコンボルブルス属には続きがあります。写真は見渡す限り樹木の見当たらない内モンゴルの荒野。乾燥化と過放牧のため草原は荒れ果て、砂漠化が進行しています。

草原の小高い丘に登ると植物層は意外と豊かで、アルタイなどの中央アジアに生える植物たちと一緒に銀白色の葉を持つヒルガオ科の植物がありました。

初めて見たときには園芸店でも見かけるコンボルブルス クネオルムConvolvulus cneorumヒルガオ科コンボルブルス属と思ったのですが違うようです。花の大きさは花径1.5cm程度と小さく、中国の図鑑では「銀灰旋花」となっていました。降水量が少なく、最高気温は40度近く、最低気温もマイナス30度を下回る過酷な環境に生える植物たちの多くには、葉の表面に銀色の細かい毛が生えていました。

コンボルブルス アンマンニーConvolvulus ammanniiヒルガオ科セイヨウヒルガオ属。和名はありません。カザフスタン、キルギス、新疆ウイグル自治区、モンゴルなどの乾燥した草地斜面に自生します。種形容語はヒメミソハギAmmannia 属にちなみます。その植物の葉に似ているからだと思います。

さあ、ヒルガオの話をしたいと思いますが、ヒルガオ科の中にはヒルガオ属ではないのに、ヒルガオと名前の付く植物があります。世界の熱帯、亜熱帯地域の砂浜海岸には、グンバイヒルガオという植物が生えますが、これはヒルガオ属ではありません。

グンバイヒルガオIpomoea pes-caprae(イポモエア ペス カプレ)ヒルガオ科サツマイモ属。太平洋、大西洋、インド洋の各熱帯、亜熱帯域の砂浜海岸に自生する国際派です。日本では沖縄、九州、四国の海岸に生え、温暖化に伴い、その地は北上するかもしれません。耐寒性はないので温帯域での生育は限定的です。葉の形が軍配に似ていて、昼でも咲いているのでグンバイヒルガオと呼ばれるのですがサツマイモ属です。

グンバイヒルガオの種形容語pes-capraeはヤギの足という意味です。 硬い葉がヤギの足裏に似ているので、英語ではgoat’s footといいます。花は大きくて、花径6cm程度あります。

こちらは岩手県釜石の海岸です。夏の間、オホーツク気団から陸に向かって吹く冷たい北東風であるやませ(山背)は、海霧を伴って三陸地方に吹き付けます。やませが吹くと一気に気温が下がって寒いくらいです。このような場所にはグンバイヒルガオは生息できません。

代わりに生えるのがハマヒルガオです。ハマヒルガオCalystegia soldanella(カリステギア ソルダネラ)ヒルガオ科ヒルガオ属。やっと本家のヒルガオ科植物の登場です。多くの海浜植物と同じように、葉はつやつやしていて厚い構造です。多くのヒルガオ属がつるを伸ばして巻き付く植物であるのに対し、ハマヒルガオは砂の中に茎を伸ばし、ほふく性であることが特徴です。ヒルガオらしい花は花径4cmぐらいです。

ハマヒルガオも分布は広く、世界中の海岸などに自生するのですが、熱帯や亜熱帯域では分が悪く、グンバイヒルガオが優勢です。種形容語のsoldanellaはイワカガミダマシ Soldanella alpina(ソルダネラ アルピナ)という植物に葉が似ていることによります。ヨーロッパに自生し、東アジアに自生がない植物にちなんだ種小名が付けられただけでも、ハマヒルガオがボーダーレスに生える海浜植物であることが分かります。

ヒルガオは昼まで咲いているのでヒルガオといいます。いくら咲いていても、誰もヒルガオを見て楽しんでいる人はいません。日本中どこにでも咲いて、絡んでいるつる性の雑草です。ヒルガオCalystegia japonica(カリステギア ジャポニカ)ヒルガオ科ヒルガオ属。種形容語のjaponicaの意味はお分かりだと思いますが、日本だけでなく東アジアに生える植物です。属名のCalystegiaとは、がくとふたが合わさった言葉です。ヒルガオ科のお約束であるがく5枚は肝心のヒルガオではおきて破りに見えます。実は2枚に見えるがく状の付属物は葉なのです。この苞葉(ほうよう)に被膜状のがく5枚が隠されていました。

ヒルガオにはやや小型の近縁種があります。コヒルガオCalystegia hederacea(カリステギア ヘデラセア)ヒルガオ科ヒルガオ属。種形容語のhederaceaはキヅタに似たという意味です。葉の形がセイヨウキヅタ(ヘデラ ヘリックス)に似ていると思いませんか。花は小型で花径3cmくらい、花茎に縮れたひれがあることが特徴です。各地でヒルガオとコヒルガオを調べましたが、両方の形質を併せ持つヒルガオに出合うことが多かったのです。あっちこっちに咲いているヒルガオの多くが雑種である可能性が高いのか、両者を分ける必要がないのか、どちらかだと思います。

朝に咲くアサガオ、昼まで咲くヒルガオ、最後は夜に咲くヨルガオの登場です。ヨルガオ Ipomoea alba(イポモエア アルバ)ヒルガオ科サツマイモ属。英語ではムーンフラワーといいます。この植物はサツマイモ属ですからアサガオの仲間であり、種形容語のalbaとは白を意味します。北メキシコから赤道を挟み、北アルゼンチンまでに原生する宿根草です。暗闇の中、赤や青は見えませんが、白い色は目立ち、よい香りを放って存在をアピールします。

アサガオをはじめとするヒルガオ科の植物は夏のシーズンモチベーション! 暑い夏の風物詩です。しばらく猛暑日や熱帯夜が続きます。皆さまどうぞ熱中症に気を付けてお過ごしください。

次回は「冷水に咲く[前編] バイカモ」です。お楽しみに。

JADMA

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