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風の花[後編] Anemone(イチリンソウ属)

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

風の花[後編] Anemone(イチリンソウ属)

2018/04/10

ニリンソウは東アジアの北部に広範囲に自生していますが、イチリンソウは日本にしかない固有種です。後編の初めは、これもまた、日本に特産するイチリンソウ属から話を始めます。

ユキワリイチゲAnemone keiskeana(アネモネ ケイスケアナ)キンポウゲ科イチリンソウ属。種形容語は、keiskeanaといいます。江戸~明治時代の植物学者伊藤圭介(1803–1901)が命名したのだと思います。この植物は秋のうちから葉を展開して、早春の2月ごろから咲きます。日本に生えるイチリンソウ属では最も早く開花します。花が咲いていないと紫色の葉をした野菜のミツバと勘違いしそうです。

ユキワリイチゲは、切れ込みの少ない紫色をした根出葉が特徴的です。この植物は関東には生えていません。関西から西の日本では山裾の樹林の下草として原生します。個体数は多くありませんが、群生する性質です。この植物には、冬から春まで十分な日照が得られること、他の頑強な宿根草がはびこっていないことなどが、生育条件として必要なのです。人が里山として管理する場所、林縁など小さな崖の崩壊地などが主に生育する場所です。

ユキワリイチゲの生えていない関東には、キクザキイチゲが生えています。こちらも、日本に固有のイチリンソウ属で近畿より北の山地樹林下に原生します。キクザキイチゲAnemone pseudo-altaica(アネモネ プセウド アルタイカ)キンポウゲ科イチリンソウ属。種形容語のpseudoとは、偽りという意味です。アネモネ アルタイカAnemone altaicaに似ているからなのでしょう。写真は、神奈川県川崎市の住宅地に隣接する雑木林です。大都会の片隅にも自生します。

キクザキイチゲAnemone pseudo-altaica。こちらは茨城県筑波山で撮影しました。この植物は、山地の落葉広葉樹の下に原生しますが、暖かい地域では、花の大きさは小さめで3cmほどでした。がく片が十数枚ありキクの花弁のようになっています。花の色から、ルリイチゲともいわれますが、白花もあります。

岩手県、奥羽山脈の樹林下で咲いていた、キクザキイチゲです。どうでしょうか? 北の地域の花の大きさが分かりますでしょうか? キクザキイチゲと時を同じくして、カタクリも咲きます。春の明るい日差しが差し込む林の下では、この花とカタクリが一面に咲いている場所もあります。それはもう、夢のような世界を見せてくれます。

こちらは、標高の高い山地、特に亜高山帯の針葉樹林下に生えることが多い高山植物の一つで、ヒメイチゲといいます。日本では近畿から北の地域に、大陸では東アジア北部に生えます。ヒメイチゲAnemone debilis(アネモネ デビリス)キンポウゲ科イチリンソウ属。種形容語のdebilisとは、きゃしゃで弱々しいという意味です。

ヒメイチゲは、とても小さなイチリンソウの仲間です。草丈は5~6cm程度の小型で、がく片は1cmに満たない大きさです。亜高山帯に生えるので、開花は遅く5~6月になります。雨に打たれ、うつむいている姿ははかなげな植物でした。

最後にヘンテコなAnemoneイチリンソウ属の話題です。それは、皆さんもご存じのシュウメイギクです。誰が名付けたかこの名前、キク(菊)でないのにキクとはこれいかにと思います。学名は、Anemone hupehensis var. japonica(アネモネ フペヘンシス ジャポニカ)。種形容語のhupehensisは、中国の湖北省産を意味します。変種名は「日本の」という意味です。いつの時期かは不明ですが、中国の植物を誰かが日本に持ち込んだといわれます。日本の山野で見ることはなく、人家の周りで見かけるのはそのためです。

シュウメイギクの基本のがく片は、5枚です。雌しべと雄しべが多数あります。この植物が、 Anemoneイチリンソウ属の特徴を踏まえているのは分かります。しかし、イチリンソウ属が北半球の温帯や亜寒帯に自生し、日の長くなる早春に開花する種属であるのに対し、シュウメイギクは、熱い夏を越え日が短くなる秋に開花するアネモネであるのは、特異中の特異です。シュウメイギクの過去には、何があったのでしょうか?

風の花 アネモネ。原野を渡る北風、春の風、高原を渡る風、そして秋風に揺れるイチリンソウ属の愛らしい姿をのぞいてみました。

次回は「日本で花開いた切り花用種[前編] ストック」です。お楽しみに。

JADMA

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