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翼を持った果実[その6] 半纏木(ハンテンボク)

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

翼を持った果実[その6] 半纏木(ハンテンボク)

2024/03/05

エアコンやストーブのない時代、冬を暖かくしてくれるものは、火鉢とこたつでした。こたつに入っても上半身は寒く、綿の入った半纏(はんてん)を着て寒さをしのいだものです。半纏は江戸時代から伝わる庶民の防寒衣です。

この半纏の葉によく似た葉を付けるのが、ハンテンボクともいわれるユリノキ属です。葉のサイズは、右上の写真で私の手が添えられているので分かるでしょう。ユリノキ属は、中生代から古生代の地層から化石が見つかり、かつては、北半球の広い地域に生息していました。しかし、現代では、東アジアと北アメリカ東部の温暖で湿った地域にのみ原生する生きた化石として知られています。

ユリノキ

ユリノキLiriodendron tulipifera(リリオデンドロン チューリピフェラ)モクレン科ユリノキ属。この植物は、北アメリカ東南部に生息し、温暖で湿った気候を好む、落葉もしくは半落葉高木です。半落葉と表現するのは、分布南限の亜熱帯域では落葉しないからです。属名のLiriodendronは、Lilium(ユリ属)+dendron(樹木の合成語です。和名は、学名の和訳となっています。

ユリノキの種形容語は、tulipiferaでした。それは、チューリップ状の花という意味です。確かに遠目では、チューリップ同様、上向きに6枚の花弁が付いているように見えます。ユリノキは、高木で花は梢(こずえ、木の先端)に付きます。花芽の位置が高いので、間近で見ることは少ないかもしれません。

蜜を多く含むので蜜源になり、カラスが食べ散らかした花が落ちていました。実際のユリノキの花はこんな感じです。黄緑色の花被片にオレンジ色の中覆輪です。ユリノキは、モクレン科。花被は、らせん状に配置され、3数性。ガクみたいな花被片は3枚、内花被3枚、外花被3枚、雌しべの集合体を多数の雄しべが囲んでいます。

ユリノキの花は、5月に開花して秋に熟します。雌しべの集合体は、瓦のように格納され、上の写真のような集合果となります。先端の膨らみに種子が入っています。

国立博物館に植えられたユリノキです。日本には、明治8、9年に30粒の種子が渡来し、それから育てられたとされています。計算すると、この木は、樹齢148歳か149歳。日本に植えられたユリノキでは最も大きな木なのではないかと思います。

シナユリノキ

シナユリノキLiriodendoron chinenseリリオデンドロン シネンセ)モクレン科ユリノキ属。種形容語のchinenseは、中国産という意味です。シナユリノキは、陝西(せんせい)省、浙江(せっこう)省、四川省、雲南省を含む中国中南部からベトナム北部などに原生しています。しかし、その生息地は断片的だと聞いています。現在、ユリノキ属の原生種は2種だけで、東アジアと北アメリカ東南部に隔絶分布しています。この樹種においても、この植物記で何度も述べた、東アジアと北米東部の植物が驚くべき同一性を示すことを認識できます。

シナユリノキの幹は、太く堂々として独特です。慣れてくると、この幹を見ただけでもユリノキ属と分かります。灰色の樹皮に裂け目が縦に入ります。

シナユリノキの葉

シナユリノキとユリノキの区別は容易ではありません。樹皮や葉を見ても区別は難しいでしょう。強いて言えば、シナユリノキの花には、ユリノキにあったオレンジの中覆輪が見られないことでしょうか?そして、ユリノキとシナユリノキは、容易に雑種を作るそうです。交配が容易にできないのが、種(しゅ)の区別点だとしたら、この2種を区別する必要がないのかもしれません。

シナユリノキの果実が秋に成熟した姿です。シックな花が咲いているようでもあります。ユリノキは、街路樹や公園樹として日本でも見られますが、シナユリノキは、植物園以外で見ることはありません。中国でも街路樹に植えられているのはユリノキで、シナユリノキではありません。ユリノキの方がきっと丈夫なのでしょう。

こちらは、シナユリノキの果実です。ほとんどユリノキと同じですが、集合果は、ユリノキより細長くスリムな印象です。この果実を翼果と言います。ユリノキ属もまた、成熟乾燥すると、瓦状の集合果が崩れて、梢の先からクルクルと回転しながら飛散するのでした。

モクレン科ユリノキ属。モクレンの仲間は、被子植物の起源的植物群とされています。裸子植物の種子にも翼を持つものが多かったです。種子の散布方法として、果実に翼を付けることは、被子植物の歴史の極初期に開発されたのだと思います。

次回も、翼果を持った果実についてです。お楽しみに。

JADMA

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