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食香バラ(R)[その2] 玫瑰鎮(バラの村)への旅路 その地理と歴史

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

食香バラ(R)[その2] 玫瑰鎮(バラの村)への旅路 その地理と歴史

2018/02/06

日本では、よい男女の組み合わせを「東男に京女」といいますが、中国では、「山東男に湖南女」といいます。広い中国ですから地域ごとに、お国柄が違うのは当然です。複数の中国の友人に「一番人柄がよいのはどこの地域ですか?」と聞いてみました。答えは、いずれも山東省というのです。私が出会った山東男子は気がよくて力持ちという印象で、人のよさが顔に出ているような方たちでした。

バラ鎮こと玫瑰鎮(メイクイチン)への旅は、青山(チンタオ)という港町から始まります。19世紀から20世紀にかけて、この町はドイツの租借地になっていました。日本の影響も大きく、珍しくホテルで日本語のサービスが受けられます。清潔で、どこか中国とは違う、異国の匂いを感じさせる街並み、そして、ビール工場の存在はドイツの影響だと思われます。現在では、中国の中でも風光明媚な観光都市として知られています。

青山に着いたら、まず青島ビールです。工場の前で販売していたので購入しましたが、なんと、ビニール袋に入れてよこすのです。これをどうしろというのでしょう。えらく飲むのに苦労しました。

玫瑰鎮は、世界ではあまり知られていませんが、その栽培規模と生産量で世界最大規模であることに間違いはありません。
さあ、新幹線に乗ってバラ鎮への旅を始めましょう。中国の新幹線や電車の名称には、和諧号(ワカイゴウ)が使われます。中国は漢民族だけの国家ではなく、50以上の民族が暮らすユーラシアの多民族国家です。その社会において、民族の融和と和解というのは、国家的なテーマなのです。

青島から山東省の省都である済南まで307.8km。新幹線で2時間40分ほどの道のりです。その車窓からは、夏には地平線までの畑、冬には地平線まで続くビニールハウスが見えます。時速100km程度で走る電車の車窓で、20分間程度もこの同じ景色が続くのです。ここは、黄河が運んだ黄土でできた華北平原(かほくへいげん)の中心地です。山東省のこの地域は、世界規模の野菜の生産地で、山東菜という野菜もあります。

玫瑰鎮は、省都済南から60kmほど離れた平陰県にあります。バラの村もまた、黄河が運んだ肥沃な土壌に恵まれた地域の一つです。

成田空港を出て、一日では玫瑰鎮にはたどり着くことができません。一日目は、済南市平陰の町に宿泊です。この地域は日本人が訪れることは少なく、済南事件の影響もあって対日感情のよくない地域の一つです。次の朝いよいよ玫瑰鎮に入ります。

玫瑰鎮は、東経116度12分~37分、北緯36度1分~23分に位置し、東は泰山、西は黄河に面する土地です。年間降水量626.8ml、土壌phは平均6.5。谷地で細長く温和な気候です。冬季や早春に雨や雪が比較的多く、温度の上昇が穏やかで、開花期には雨が少ない気候です。日照量も十分あり、病害虫も少ないバラ栽培に適した環境です。

中国では、薬用と食用にするバラ栽培の歴史は古く、唐の時代にさかのぼり1300年の歴史を持ちます。宮廷での沐浴剤に使われ、花弁を薬用にしてきました。血行をよくし肝機能を整えるので中国では君子の薬と呼ばれます。
しかし、王朝の栄枯盛衰、国内の動乱、戦争など、その栽培は歴史に翻弄されてきたのです。

運搬が不便だった時代はバラを作っても売れず、バラ農家は辛酸をなめてきたといわれます。そこで、平陰人民政府は、農家の生活向上を推進する恵農政策を始め、生産品の買い付けと六次産業化を進めてきました。そして現在、山東省済南市平陰県でのバラの栽培面積は、実に3500ヘクタール、バラの花の生産量は9000トン、バラ栽培に従事する農家の数は3万戸にもなります。その規模は世界最大だと思われます。

朝5時から9時までが、バラの花摘みのタイミングです。摘む花は、半花と呼ばれる8分咲きの花だけです。バラの香気成分は花弁と葯(やく)に局在し、全ての花びらが開いてしまうと香気が失われてしまうからです。蕾も香気成分の生成が完了していないので収穫してはいけません。香気は開き始め、開く瞬間が一番強いのです。朝日を浴びて、花が開くと広大なバラ畑から食香バラの芳香が一面に広がります。そのバラの香りが満ちた空気は、いつまでも忘れることができない素晴らしいものです。

私より一つ年上の高さんに、食香バラの収穫の仕方を教わりました。その素早い動作は、どこか人間離れしているのです。

朝摘んだ食香バラの花を農家の人々が工場に売りに来ます。なぜか皆、にこやかな笑顔をたたえています。それは、恵農の心、農家に恵みをもたらすバラ栽培によって生活が以前よりよくなっている証拠です。

工場での食香バラの買い取り風景です。蕾や咲き過ぎた花があると厳しくチェックされます。農家には、無農薬が義務付けられています。ここのバラ製品を日本で230項目の残留農薬検査と、重金属含有検査を複数年行いましたが、結果は陰性でした。

朝日を浴びて輝く食香バラを摘んでみました。芳しい優しい色合いです。この日の食香バラの工場での買い取り価格は1kg 30元でした。

次回は「食香バラ(R)[その3] 謎を秘める玫瑰(メイクイ)」では、このバラについて語ります。お楽しみに。

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