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水の滸(ほとり)[その8] 浮草(1)

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

水の滸(ほとり)[その8] 浮草(1)

2023/10/10

水に浮かぶ「浮草」にもいろいろあります。ミジンコウキクサ、ウキクサ、アオウキクサは、なんとサトイモ科に属する植物だというし、アカウキクサとくれば、被子植物ではありません。茎も根もない浮草があり、根のように見えて、実は葉だったりする浮草もあります。「水にただよう浮草」と私たちが「おなじさだめ」と歌詞になぞるかは置いておくことにして、妙な浮草たちの話を始めましょう。

ミジンコウキクサ

世界で一番大きな水草は、スイレン科で紹介したオオオニバス属でした。では、一番小さな水草は何でしょうか? それは、被子植物が根と茎を退化させ、葉だけになった植物です。ミジンコウキクサWolffia globosa(ウォルフィア グロボーサ)サトイモ科ミジンコウキクサ属。この植物には、茎も根もありません。この組織を葉状体(ようじょうたい)といいます。

ミジンコウキクサ属は、世界の温帯から熱帯の穏やかな水面に原生していて、東アジアから南アジアには、このミジンコウキクサがあります。この植物は、花を咲かせる被子植物の中では世界最小の植物として知られています。葉状体の大きさは、1mm以下しかありません。花被(かひ)を持たない極めて小さな花、肉眼で見るのも難しい0.2mm程度の花を咲かせます。

ミジンコウキクサの種形容語のglobosaは、丸い葉を表します。小さな葉状体の左右からは、別の葉状体が出芽して増殖します。それは、ミドリムシやゾウリムシが細胞分裂して増えるのに似ています。通常、出芽した子どもたちを連れ、ひとかたまりの群体になって大家族で生活していて、上の写真はその様子です。この小さな浮草は、増殖能力と栄養価が高いことから南アジアでは食用にされるというのですから驚きです。あまりきれいな水辺に生えている植物ではないし、衛生的に問題はないのでしょうか?

「ウキクサ」と名が付く植物の葉状体一つ一つは、どれも小さく1cm未満です。それでもよく見ると葉の大きさと形状が違います。根がない浮草、根が1本しかない浮草、根がたくさん生えている浮草があり、それぞれ属レベルで差異があるのです。最も小さいのがミジンコウキクサで、細長く中間の大きさがアオウキクサ、葉が丸く大きいのがウキクサです。これらは、一緒に生息していることがよくあります。

ウキクサ

ウキクサSpirodela polyrhiza(スピロデラ ポリリザ)サトイモ科ウキクサ属。ウキクサは、東アジア以外に、ユーラシアの温暖な地域に広く原生し、アフリカ、アメリカ大陸にも生息するコスモポリタン種※でもあります。葉状体の大きさは10mm未満、それでもサトイモ科のウキクサの類いでは最大種とされています。

※コスモポリタン種…汎存(はんぞん)種ともいう。世界中どこにでも生息する動植物種のこと。

ウキクサの種形容語のpolyrhizaは「多くの根を持つ」という意味です。学名の通り、一つの葉状体から多くの根を出します。この属種を他の属と区分けする特徴はこの根にあります。根の有無や本数などで分類するのは、浮草ならではだと思います。

ウキクサの裏面は、通常アントシアン色素によって赤紫色になっています。この後に登場する、アオウキクサには、このような色素を見ることがありません。ウキクサは、秋になるとこの葉状体に栄養をため、殖芽(しょくが)となって水底に沈み越冬します。冬にウキクサたちを見ないのは、そのような生活サイクルを持っているからです。

アオウキクサ

次は、ウキクサに比べ小さく、葉が細いアオウキクサという植物です。ウキクサと同じ生態系に生息して、同じような葉状体ですが、ウキクサ属と少しばかり違います。アオウキクサLemna aoukikusa(レムナ アオウキクサ)サトイモ科アオウキクサ属。その差異がはっきり分かるのは、次の写真です。

アオウキクサも他のウキクサ属同様に、一つの葉状体から新しい葉状体が出芽して群体を作りますが、一つの葉状体からは一つの根だけ生じます。それがアオウキクサ属最大の特徴です。世界にこの属は14種ほど知られています。

アオウキクサの葉状体の大きさは、長さ5mm、幅2mm程度の大きさです。よく花を咲かせ、種子を付けるというのですが、虫眼鏡がないと確認できません。サトイモ科のウキクサ属は、どれも温暖でよく日が当たる富栄養の停滞水域で爆発的な繁殖力を示します。それは、duckweeds(ダックウィーズ)とも呼ばれ、水鳥や草食系の魚類などにとって貴重な栄養源でもあります。そして、このバイオマスは、人類の食料、水系の環境浄化、バイオ燃料の可能性などさまざまな期待がされています。

次回は「水の滸[その9] 水草(2)」です。地球の気候変動に影響を与えたのではないか?と考えられている浮草、アカウキクサ科などのお話です。お楽しみに。

JADMA

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