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北国ガーデナーは4月が仕事始め 雪が解けたら最初にやりたい庭仕事 文・写真 梅木あゆみ 北国ガーデナーは4月が仕事始め 雪が解けたら最初にやりたい庭仕事 文・写真 梅木あゆみ

2017/03/23

北海道の冬は半年間。雪に覆われる11~3月まではストーブガーデニングです。4月になり雪が解けて、地温が上がるゴールデンウイークからがやっと本当のガーデニングシーズン。
ここでは長い冬が終わり、4月初旬の札幌周辺の庭仕事始めとして、やっておきたい庭仕事をご紹介します。

雪解け直後の庭で顔を見せるスノードロップ
  • 北海道の植物カレンダー
  • 雪が解けたら最初にする庭仕事
  • 本州とは管理が異なるバラ栽培

北海道の植物カレンダー

雪が降る前に花が見られるように早く植え付ける

北海道と本州では、春に咲く植物の開花時期が1カ月半ほどずれます。例えば、雪の下で冬越しできるパンジーとビオラ、ワスレナグサ、デージーなどの本州の秋まき一年草やクリスマスローズは4~6月中旬に開花します。チューリップは5月中旬~6月上旬、バラは6月下旬以降、アジサイ、ラベンダーは7月中旬より開花していきます。

5月下旬 5月末から6月にかけて、チューリップが見ごろを迎える

5月末から6月にかけて、チューリップが見ごろを迎える

6月下旬 6月下旬になるとポピーが満開に。ノーザンホースパークK’s Gardenにて

6月下旬になるとポピーが満開に。ノーザンホースパークK’s Gardenにて

7月上旬 バラと一緒に咲き始めるたくさんの宿根草

バラと一緒に咲き始めるたくさんの宿根草

一方、秋の花は本州より早く咲きだし、ススキは8月末には穂を出し始め、9月にはシュウメイギクが真っ盛り、ハギも9月下旬から咲きだします。このように春は遅れて咲きだす花々も、秋の花は本州より早く咲き始めるのです。

9月下旬 北海道では秋の訪れが早い。ハギは9月下旬から咲き始める

北海道では秋の訪れが早い。ハギは9月下旬から咲き始める

特筆すべきは、本州では秋まき一年草が北海道では春から大活躍すること。ジニアやマリーゴールド、サルビアは夏から秋の花ですが、5月末から苗を早々と植え込むのが北海道スタイル。なぜならば、夏になってから植えたのではすぐに雪が降ってしまうからなのです。このように北海道では、春と夏と秋が一遍に来て、パンジーとラベンダーとバラとサルビアが咲き誇る、そんな凝縮されたガーデニングになります。

北海道の6月ではリラ冷えに注意

6月の微妙な天候で生育のよしあしが決まる

6月はとても大事で微妙な月です。私はこの月の気候が、短いガーデニングシーズンを支配すると考えています。5月末~6月初めに札幌の花、ライラック(リラ)が咲きますが、リラ冷えといって6月とは思えない寒さがやってくることがあります。

北海道は緯度が高いため、朝3時を過ぎたら白々と夜が明け、19時半でもまだ明るく日照が北欧型になります。せっかくの日照時間が長いというチャンスを生かすも殺すも、気温と太陽に全てがかかっているといえます。しかも、乾燥は大敵。定期的に雨がたっぷり降ってくれることが理想的です。太陽をさんさんと長時間浴び、時には雨をたっぷりもらうことが大切なのです。

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雪が解けたら最初にする庭仕事

樹木の冬囲いを外そう

雪が解けたとはいえ、4月中は霜が降り、最低気温がマイナスになることもしばしばです。種まきや苗の植え付けにはまだ地温が低過ぎます。まず、冬囲いを外し、掃除などをします。冬囲いを外した樹木はしぼんでいるため、枝を開き、形を整えます。風が強いところでは一気に外してはいけません。春の冷たい風により冬の寒さに匹敵するくらいのダメージを受け、バラの枝などは囲いを外してから凍害を受けることもあるからです

しかし、暖かい年は早めに冬囲いを外すなど加減する必要があることを忘れずに。ネットやコモを掛けっ放しにしておくとカビが発生する場合もあるので注意しましょう。

家庭での冬囲いの様子。コモではなく手軽な冬囲い用ネットを使う人が多い

家庭での冬囲いの様子。コモではなく手軽な冬囲い用ネットを使う人が多い

雑草が生え始めたら中耕と耕うんをしよう

気温が上がってくると、雑草が目立ち始めます。中耕を兼ねて手くわで除草をします。重たい雪で硬くなった地面を引っかいたり、掘ったりします。植物によっては施肥のタイミングでもあります。宿根草などは有機質をたっぷり含んだ堆肥でマルチングすることにより、寒さから守られ、芽出しの肥料としても有効です。

その後、本格的なガーデニングのスタートはゴールデンウイークとなります。まずは耕うんです。土がぬれているうちに耕うんすると土がこなれず、土地によっては始末に負えなくなります。石灰や堆肥を準備し、庭が十分乾いてから行うとよいでしょう。

除草を終えたら堆肥をまいて土作り

除草を終えたら堆肥をまいて土作り

植物の植えどき合図はカッコウから

庭の準備はできていても、全ての植物が植えられるわけではありません。郊外ではまだ霜もあり、風も冷たく、時には雪も降ります。北海道では「カッコウが鳴いたら何でも植えてよい」といわれています。

札幌周辺でのカッコウの初鳴きは5月中旬。それまでは霜に耐えられる植物しか植えられず、露地での種まきもラディッシュなどアブラナ科の植物やシュンギクなどに限られます。春を告げるマガンやハクチョウが4月下旬にシベリア方面へ旅立ち、野鳥のさえずりがにぎやかになる5月。その中でも誰もが認識するカッコウは霜の心配がなくなるころに鳴くのです。カッコウ伝説はまんざらでもないといえるでしょう。

5月中旬にはカッコウが鳴いて、ガーデニングも本番!

5月中旬にはカッコウが鳴いて、ガーデニングも本番!

花の種をまいたら甘やかさずに育苗しよう

秋まき一年草はゴールデンウイークごろに屋外へ出すことを逆算し、屋内で3月中旬ごろに種をまきます。まき時期が早過ぎると苗が徒長し、遅過ぎると締まりのない苗になります。ポット上げした苗は天気のよい日中に屋外へ出し、夜は霜よけや風除室に入れる、風よけをするなどして徐々に外気に慣らします。寒さに当てることがたくさん花を咲かせるコツとなるので、苗を甘やかしてはいけません。

春まき一年草の種まきは、寒さに当てなくとも花芽がたくさん付くので、ゴールデンウイーク前の4月下旬に屋内で行います。霜の心配がなくなると屋外でも育てられますが、屋内から外に出すときは順化※をしましょう。直まきの一年草は、十分地温が上がり霜の心配がなくなる5月中旬以降にまくと安心です。

※順化(じゅんか):ハウスなどで育てた苗を植え付け前に徐々に低温や強光にあわせ、環境の変化に耐えるようにすること

まだ寒さが残る季節では屋内でセルトレーやポットに種をまく

まだ寒さが残る季節では屋内でセルトレーやポットに種をまく

徐々に寒さにあわせて苗の順化をしよう

その環境に慣らすことを順化といいます。例えば、屋内から屋外に出すとき、急に出してはいけません。よく「温室育ち」といいますが、風にも当たらずぬくぬくと育ったものは本来寒さに強いものでも、やられてしまうことがあります。出したり入れたりを繰り返し、環境に慣らします。

屋外に出す初日は風の穏やかな暖かい日を選びます。通信販売などで買い求めた苗も同じです。耐寒性の強い植物でも急に出すのは危険です。暖かいところで育ったものやハウス育ちの植物は徐々に外気に慣らし、環境が整うまで待ちましょう。

暖かい日の日中は屋外に出して少しずつ苗の順化を行う

暖かい日の日中は屋外に出して少しずつ苗の順化を行う

野菜の種をまき、苗を植え付けよう

野菜は苗で買い求めるものと、種から育てるものがあります。ゴールデンウイークに耕うんした畑にすぐにまけるものは、ラディッシュ、シュンギク、カブなどアブラナ科やキク科の野菜で寒さに強いものになります。レタスは苗で買い求めても、種からでも十分育てられます。

ジャガイモの葉は寒さに弱いので、霜の心配がなくなる5月末に芽が出るように逆算して植え付けるのがよいでしょう。インゲンなどマメ類は寒さに弱く、早まきすると失敗するので、6月に入ってからまくのが無難です。

畑への野菜の植え付けと種まきの始まり。5月末の様子

畑への野菜の植え付けと種まきの始まり。5月末の様子

トマト、ナス、ピーマン、ウリ科の野菜などは苗で買い求めます。これらの中で寒さに比較的強いのはトマトで、5月中旬から植え付け可能です。ナス、ピーマン、ウリ科の野菜苗は寒さにとても弱いので、5月末まで植え付けを待つとよいでしょう。もし、早植えをしたいのなら、地面にマルチングをして、苗1本ずつに風よけのビニールをかぶせます。苗が根付き、6月になるまで寒風と低温から守ります。

逆に、遅くなっても植え付けられますが、露地植えの場合、夏が短い北海道は収穫時期もまた短くなるので、遅くとも6月20日までには植え付けましょう。

寒くなる前、9月に収穫した畑のごちそう

寒くなる前、9月に収穫した畑のごちそう

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本州とは管理が異なるバラ栽培

7月上旬になるとバラの開花がピークを迎える

7月上旬になるとバラの開花がピークを迎える

雪の重みと冷たい風に耐えた枝を生かす剪定

ほとんどの植物管理は時期がずれるだけで本州とは変わりませんが、絶対的に管理が違う植物の代表としてバラがあります。まず大きな違いは購入する苗です。北海道では新苗の購入は初心者にはおすすめできません。春に大苗を購入しましょう。通信販売で購入するときも注意しましょう。

管理の最大の違いは剪定時期と施肥のタイミングです。本州では冬に剪定をしますが、北海道では春です。秋にはできるだけ枝を残し、来る冬に備えて保険をかけるのです。どれだけ健全な枝を残すかが、北国のロザリアンたちの最大の関心事です。そうして残した枝を雪折れから守るのか、寒さから守るのかで冬囲いの方法も違ってきます。特に豪雪地帯では「冬囲い」ではなく、雪の重みから枝を守る「雪囲い」という方がしっくりくるのです。

厳寒寡雪地域のバラ園における冬囲い

厳寒寡雪地域のバラ園における冬囲い

囲いを外すときも天気や気温と相談しながら外します。本剪定はゴールデンウイークごろになります。凍害を受けた枝を取り除き、その後、よい芽の上で剪定をしましょう。つるバラは芽が早く動きだすので、雪解け後すぐに剪定をしてもかまいません。誘引も同時にします。

施肥は5月初旬、6月初旬に有機肥料、7月初旬は化成肥料を施します。有機肥料は長く効くため、枝が固まらないうちに冬を迎えることがあるので、最後の施肥は化成肥料を用います。肥料が効いて青々とした枝は水分が多く、シバレて(凍って)凍害を起こす原因となるのです。

こうして冬~春を無事乗り切ると、初夏~夏にかけてバラは大きく育ち、大輪の花を咲かせます。庭の花々はまず株が大きくなり、やがて豊かな花を咲かせます。野菜も健康に育ち、庭も畑も一気にピークを迎えるのです。

雪と寒さで傷めつけられたバラの剪定

雪と寒さで傷めつけられたバラの剪定

ありがたい雪のお布団

辺り一面真っ白の世界。雪の布団に包まれる

北国には北国の園芸スタイルが確立しています。「あなたのところは雪が多くていいね」「そうね、あなたのところは雪が少なくて大変そう」、これは北国のガーデナーたちに交わされる謎の会話です。

謎解きをすると、雪の中は2℃くらいなので、植物を寒さと地面の凍結からも守ってくれるのです。雪の少ない地方では地面が80cmも凍ってしまい、雪解け後も地面は凍っています。しかし、豪雪地帯では春が近い3月下旬には、まだ残る1mの雪の下で地温が上がり、雪と地面の間に隙間ができて雪の下で地面は地温を上げるのです。

雪解け水はゆっくりと地面に染み込み、半年休眠した植物の根が水をたっぷり飲み込みます。そして徐々に温度と光をもらい、まるで命を吹き返したかのように一斉に芽が出て、短い夏に向かいそのパワーを爆発させます。厄介だけど大切な雪、ありがたい雪のお布団なのです。

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北国ガーデナーとして思うこと

北から南まで広がる日本。その中でも厳しい自然を受け入れながら楽しむのが北国のガーデニングスタイルです。先人の知恵を参考に、短い夏の楽しみ方を伝えるのが私の仕事。
そして、緑とは関係ないと思っている人にも、実はたっぷりと緑の恩恵に預かっているということをお伝えできればと願っています。

著者紹介

梅木あゆみ(うめき・あゆみ)

梅木あゆみ(うめき・あゆみ)
1995年北海道月形町で生産直販の園芸店コテージガーデンを起業。一年草、宿根草、野菜苗とバラエティーに富んだ植物を生産。国営滝野すずらん丘陵公園、ノーザンホースパークK’s Gardenのほか個人邸などのガーデンの設計施工・管理も行う。

JADMA

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