
きれいなネットが入ったメロンを栽培するには、湿度・温度・水の管理などプロの生産者でもきめ細やかで高度な技術が求められ、長らく“家庭菜園では手が届かない作物”とされてきました。そんな常識を覆したのが、2011年に登場した黄色いネットメロン「ころたん」です。
「プリンス」「アンデス」をはじめ、数々の品種のメロンを世に送り出してきた当社が、「甘くておいしい」「鉢植えでも育てられる」「栽培が簡単」という三つの条件を掲げ、約10年にわたって研究と育種を重ねて誕生させた新しいネットメロン「ころたん」。かわいらしい見た目とは裏腹に、その背景には緻密な技術と長い開発の物語がありました。
今回は、「ころたん」誕生の裏側と魅力についてメロンのブリーダーにたっぷりとお話を聞きました。
ブリーダーとは?
新しい品種を開発するのがブリーダーの仕事です。どのような品種を作るか、まず目標に合った親の選抜を行います。次に優れた品種を生み出すために、選抜した親同士を組み合わせます。そのため、1年間で交配する組み合わせの数は数百にも及びます。

サカタのタネ 掛川総合研究センター
栃木 隆廣(とちぎ たかひろ)
プロでも難しいネットメロンを家庭菜園にも届けたい!
――ネットメロン「ころたん®」の育種がスタートした経緯を教えてください。
栃木
実は、私は入社当時、三郷試験場に配属されてインゲン、エダマメ、レタスの育種を8年半くらい担当していました。メロン担当は2025年で丸7年になります。いきなり果菜類のメロン担当に変わって最初は不安でしたけど、やってみたら案外、面白くて。私は「ころたん」の育成者ではありませんが、前任のメロン担当で「ころたん」の育成者と3年くらい一緒に仕事をして担当を引き継ぎました。

メロンは、温度や湿度コントロールに敏感なので、その土地に合った品種を使用して、よりよいものを生産するという要素が強い品目です。 各産地にそれぞれの作り方がありますが、基本的にはハウスやトンネルなど雨よけをして作ります。
サカタのタネのメロンといえば「アンデス」が有名です。「アンデス」の一番のメリットは、品種名の由来になっている「作って、売って、食べて、アン(安)シン(心)デス」に込められています。

作って安心、売って安心、食べて安心。” アンデスメロン“の呼称でもなじみ深い緑肉ネットメロン「アンデス」
ある生産者さまのところへ訪問させてもらった際、「アンデス」のメリットはどんなところかと聞いたことがあるのですが、やっぱり誰が作ってもまん丸のメロンができるところ、あとはしっかり着果してくれることだと言われます。実が付かずに樹だけを育てても意味がないので、しっかり着果するとか、誰が作っても丸くできるとか、秀品率の高さが支持されているのだと思います。
サカタのタネのメロンの歴史は、作りやすさという点が歴代のブリーダーから培われていて、それが強みになっています。それでも「ころたん」が発売される前は、とてもじゃないですが、プロの生産者でないとネットメロンを作るのは難しくて、アマチュアにはかなりハードルが高いものでした。家庭菜園でも育てられるネットメロンの苗を作って、ご家庭でおいしいメロンをたくさん食べてもらいたいという思いが「ころたん」開発のきっかけの一つになりました。

丸くて鮮やかな黄色のネットメロン「ころたん®」
家庭菜園向けに育てやすさを追求した「ころたん」
――「アンデス」など営利用のネットメロンと家庭菜園向けの「ころたん」との違いは何ですか?
栃木
「ころたん」は、家庭菜園でも育てやすい点にすごく重きを置いて開発された品種ということです。

メロン栽培の何が難しいかというと、温度と水分と肥料のコントロールです。例えば、営利用の「アンデス」だとプロの生産者の中では、ネットが出始める時期には水をやってはダメだとか注意点があるんですけど、「ころたん」に関しては、ネットに大きく亀裂が入って出来が悪くなるようなこともなく、ほぼ一定の管理で大丈夫です。

一般的なメロンは、一気に実が成って一気に収穫して終わります。ところが「ころたん」の面白いところは、キュウリのように次々と実が付いて長く収穫できるところです。そこも他のメロンとは違うところですね。

キュウリのように次々と実が付いて長く収穫できる「ころたん®」
また「ころたん」は、うどんこ病、つる割れ病、えそ斑点病にも強い性質を持っています。特に家庭菜園で出やすいうどんこ病には、しっかりと強い品種です。「ころたん」は、家庭菜園でネットメロンという果実の目新しさだけではなく、病気の強さという面でも作りやすさを考えて育種したところが、品種の完成度の高さにつながっているんだと思います。

そして、営利品種のネットメロンで糖度15度を超える秀品を作るには、かなり細かな管理が必要です。ところが「ころたん」は、温度と水分と肥料の三つのポイントを押さえれば、家庭菜園でもおいしいネットメロンができるというところが大きな違いです。とはいえ、「ころたん」もメロンなので、栽培面で多少難しい部分もありますが、他のメロンに比べたら非常に楽で作りやすいです。「『ころたん』は、いつ食べてもおいしい!」ってよく言われますね。

掛川総合研究センターでたわわに実るネットメロン「ころたん®」
開発に約10年!「ころたん」の爽やかな甘みでメロン嫌いでも食べられる?!
――メロンが嫌いな人でも「ころたん」なら食べられるという話をよく聞きます。
栃木
メロンの栽培がうまくいかないと、発酵果といってアルコール臭みたいな嫌な風味が出ることがあります。また、甘過ぎるとか、ピリピリ感を感じるとか、ウリ特有の苦みや皮の際の部分がウリくさくて苦手とか、一般的なメロンだと味が変質してしまうことがまれにあります。
あとは、最近の品種には少ないですけれど、赤肉だとひと昔前のニンジンの皮のようなカロテンみたいなにおいがするなども言われることがあります。

ところが「ころたん」は、家庭菜園でも味が変質してしまうことが少なく、安定しています。また、一般的なメロンは収穫後5日ほど置いて肉質がよいタイミングで食べますが、「ころたん」は収穫後すぐに食べてもおいしい上に、数日置くと果肉が柔らかくなり風味がよくなります。甘過ぎずクセのない爽やかな味で、いわゆるメロンが嫌いな人でも「『ころたん』なら食べられる!」という話をよく聞きますね。
――「ころたん」は、食べられる部分が多いのもうれしいですよね。
栃木
1株でたくさん実を付けるのはもちろんのこと、「ころたん」の果実一つ取っても食べられる部分が多い理由は、二つあります。
一つは、胎座(たいざ)の大きさです。「ころたん」の種が入っている部分を胎座といいますが、「ころたん」の胎座はとても小さいんです。
もう一つは、皮のギリギリまで食べられることです。だから「ころたん」は果実が小さめでも、食べられる部分がたくさんあるんです。

「ころたん®」は中心にある胎座が小さく、皮のギリギリまで食べられる
ころころした丸っこい、鮮やかな黄色のネットメロンで、どれを割ってもきれいで鮮やかな果肉の色が出ますし、味も悪くない。しおれてしまってちょっと糖度が低いときもありますけど、それでも全体の味は非常に爽やかでおいしくて、たくさんとれます。

丸くて黄色い皮と鮮やかな果肉が特徴の「ころたん®」
こういった特徴が安定してできるのは、非常にすばらしいことです。これは、偶然の産物ではなく、「甘くておいしい」「鉢植えでも育てられる」「栽培が簡単」という三つの条件を実現するため、品種を選び抜くのに約10年の歳月がかかっていますので、当時のブリーダーはかなりの苦労があったと思います。

おいしくて楽しいメロンのブリーダー
―― メロンのブリーダーをやっていて大変なことはありますか?
栃木
メロンの育種では品種の選抜をするときに、切ったメロンをその日のうちに食べ比べないといけないので、1日でかなりの量を食べます。おいしくて楽しいので、そのときはいいんですけど、翌日が大変で…。食物繊維と水分のせいでおなかが結構緩くなります。
果糖は吸収がいいんですよね…。もともと私は血糖値がかなり低かったんですけど、メロン担当になってから普通になって、だんだん上がってきている感じがあります。今はまだ大丈夫ですが、これから先が少し心配になります。健康への気遣いがメロンのブリーダーならではの悩みかもしれません。健康を維持しつつ、メロンのブリーダーを長く続けられるように頑張ります(笑)

『園芸通信』読者に向けたメッセージ
―― 最後に『園芸通信』の読者の方へメッセージをお願いします。
栃木
2011年「ころたん」が発表された当時、爽やかな甘みがあって家庭菜園で作れる、新しいネットメロンの登場だったと思います。

ところが、世界には日本ではなじみのない姿、形、味、香りのメロンがまだまだあるんですよ。一つの種(しゅ)の中にさまざまなメロンがあるところがすごく面白くて、それは同時にメロンの育種の魅力でもあって、これから先も新しい可能性を掘り起こせると思っています。今後も目新しくて、なおかつ作りやすいメロンの育種に取り込んでいきたいと思います。

「ころたん」は、お子さまと一緒に野菜を育てるきっかけにもなる、魅力あるメロンです。育てやすさだけでなく味も確かなので、家庭菜園でぜひ作って食べていただきたいですね。
ブリーダー直伝!
家庭菜園でメロン「ころたん」を成功させるコツ

ネットメロンを家庭菜園で成功させるには、栽培のポイントを押さえることが大切です。これから「ころたん」に挑戦してみようと思っている方、以前は失敗してしまったという方も、ブリーダー直伝のコツを押さえて、ぜひおいしい「ころたん」の収穫にチャレンジしてみてください。
文・写真/園芸通信編集部

