東アジア植物記 山には山の(アザミ属) [その4]

アザミ属は、世界の温帯から寒帯に300種以上の生息が確認されています。そこで驚くのは、日本に150種(しゅ)を越えるアザミ属が原生していると考える専門家がいることです。地域ごとに特殊化した、地域固有のアザミたち。全てを確認するには、それぞれの開花期に合わせて日本中を旅しなければなりません。

まずは、これまで「山には山の」シリーズに登場したアザミ属の日本固有種たちをダイジェストで紹介します。

フジアザミ

フジアザミCirsium purpuratumキク科アザミ属。日本の中部山岳地帯の固有種。

ハマアザミ

ハマアザミCirsium maritimumキク科アザミ属は、関東から九州の海岸に生育する固有種。

イガアザミ

イガアザミCirsium makinoi var. comosumキク科アザミ属は、東北地方から関東、中部地方に分布するナンブアザミの変種、二つとも固有種。

シマアザミ

シマアザミCirsium brevicauleキク科アザミ属は、奄美大島から沖縄までの海岸に生息する固有種です。

ノハラアザミ

ノハラアザミCirsium oligophyllumキク科アザミ属は、本州の東北から長野県、愛知県に生息する固有種です。

ここまでがダイジェストですが、このノハラアザミには、地域が限定されているいくつかの変種があるのでご紹介します。

ニッコウアザミ

ニッコウアザミCirsium oligophyllum var. Nikkoense(シルシウム オリゴフィラム バラエティ ニッコウエンセ)キク科アザミ属。変種名のNikkoenseは、「栃木県日光産」という意味です。

ニッコウアザミは、ノハラアザミの変種ですが、区別点は葉が2回羽状に細かく切れ込むこと。茎のてっぺんに頭花を一つ付けるノハラアザミに対し、ニッコウアザミはいくつもの頭花を付けることです。そして、ノハラアザミより生息地は狭く、栃木県、長野県、新潟県、福島県に生息する固有の変種です。

アオモリアザミ

アオモリアザミCirsium aomorense(シルシウム アオモレンセ)キク科アザミ属。この種は、ノハラアザミに近縁だと考えられていますが、別種として認容されています。種形容語のaomorenseは、「青森に産すること」を表します。青森県、秋田県、北海道の南西部などの産地限定種で、平地や山地、海岸べりに生息する地域固有のアザミです。

アオモリアザミは秋咲きで草丈1mほどで、4cmほどの頭頂花を上向きに凜として咲かせます。1mほどの草丈で、やや大型の北方型(ほっぽうがた、北海道の気候や風土に適している)のアザミです。総苞(そうほう)がおわん型で、総苞片(へん)は斜めに尖(とが)っているのが特徴です。

オハラメアザミ

オハラメアザミCirsium kiotoense(シルシウム キオトエンセ)キク科アザミ属。この種の基準産地の京都が、種形容語のkiotoenseの元になっています。植物体は大きいのですが、花のサイズは2cmほどと小さく、総苞は反り返りません。北陸地方から近畿地方北部の山地に分布する日本固有の地域限定種です。

オハラメアザミの花色は、一般的なアザミ色ではなく、おしゃれなピンク色をしています。漢字では「大原女薊」です。「大原女(オハラメ)」とは、電気やガス、石油が一般的でない時代に、紺の衣装に赤いたすき姿で、頭に「柴(しば、雑木の小枝)」を乗せ、京の町までまき売りに出掛けたという、京都大原の行商の女性たちです。

マツシマアザミ

マツシマアザミCirsium sendaicum(シルシウム センダイカム)キク科アザミ属。この植物の名前は、宮城県松島町で採取された標本に基づいて命名されました。種形容語のsendaicumは、この種が仙台周辺に原生している、地域限定の種であることを意味しています。実際の分布は、少し広く、宮城県と岩手県に固有のアザミです。

マツシマアザミは秋咲き性です。花色は淡い赤紫色でやや斜上して開花します。花冠の大きさは3cmほど、草丈は1~2m中型のアザミです。総苞全体の形は、鐘型をしていて、 総苞片は尖り反転し広がっています。

秋に開花したマツシマアザミは、冬には写真のように冠毛を付けた種子が実っていました。

それは、マツシマアザミに限らず、これはアザミ属の特徴の一つで、タンポポと同じように、風によって種子を散布するのでした。

「山には山の(アザミ属)」のお話はもう少し続きます。お楽しみに。

小杉 波留夫

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、「虹色スミレ」「よく咲くスミレ」「サンパチェンス」などの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを積極的に取り組む。定年退職後は、学校の先生に対する園芸指導や講演活動をしながら、日本家庭園芸普及協会の専門技術員として、自ら開発した「たねダンゴ」の普及活動などを行っている。
生来の「花好き」「植物好き」である著者は、東アジアに生息する植物の研究を楽しみに、植物の魅力を発信中。

ページ上部へ