「カワミドリ」という植物をご存じですか?どのような植物か知らなくても、すてきな名前なので、その響きに好感が持てるのではないでしょうか。
ヤブデマリ
暑い中にも秋の到来が感じられ、山地ではヤブデマリの実が赤く熟していました。季節は夏から秋に向かい、実りの季節が間もなくやってくるでしょう。そんな季節に「カワミドリ」は、花を咲かせます。
カワミドリ
カワミドリAgastache rugosa(アガスターシエ ルゴサ)シソ科カワミドリ属。その葉を手に取りもむと、独特なミント香が漂います。そのすがすがしい名前は、誰がどのように付けたのか、よく分かっていません。
カワミドリの属名のAgastacheとは、ギリシャ語の「aga(強める)」+「stachys(コムギの穂)」の合成語で、この穂状花序(すいじょうかじょ)を意味します。
カワミドリの花穂(かすい)です。5裂したがくがラベンダー色なので、花が咲いていなくてもそれなりにきれいに見えます。花冠は青色、シソ科独特の唇形です。花弁は5枚ですが、筒状に融合して上弁2枚は前方に伸び、下弁3枚は比較的大きく反り返ります。雌しべ1本、雄しべ4本は花の外に長く突き出ています。
種形容語のrugosaとは、「しわがあること」を意味します。カワミドリの葉は、卵状心形(らんじょうしんけい 卵形で基部にハート形のようなくぼみが入る)で、葉の表面に細かなしわがあります。
園芸が好きな方なら、アガスターシェという名前はご存じかもしれません。カワミドリ属の別名は、アガスターシェ属です。この属は、主に北アメリカ原生の20種以上で構成される植物群で、カワミドリだけが東アジアに原生しています。
アガスターシェ ルゴサ ハイブリッド “ブルーフォーチュン”
東アジアの地に原生するカワミドリは、花穂の雄大さなどから、他の原種との交配親として品種改良に使われています。そして、誕生した品種は、ナチュラルガーデンで好まれるお花になっています。
アガスターシェ属は、北米の西部から中央部にほとんどの野生種が分布し、形態の特徴から二つの節(section)にグループ分けされています。一つは、セクション「Agastache(アガスターシェ)」です。その特徴は、花弁の上唇弁が小さいこと、4本の雄しべが大きく飛び出し交差することです。カワミドリは、このグループに属します。
アガスターシェ オーランティアカ
アガスターシェ オーランティアカAgastache aurantiacaシソ科カワミドリ属。これは、カワミドリ属のもう一つのセクション「Brittonastrum(ブリトナストラム)」に属します。メキシコに分布する一群で、カワミドリ属の中で少し異質な感じがします。花弁の上唇弁が発達して、雄しべと平行しているのが特徴です。この種(しゅ)は、別名で「オレンジハミングバードミント」と呼ばれ、原種のまま園芸的にも利用されています。
アガスターシェ属は北米起源の植物です。カワミドリは、ベーリング海峡が陸地でつながっていた時代に、東アジアへ分布を広げました。今では、日本の北海道から九州、シベリア東部、朝鮮半島、中国大陸などのやや湿った山地の林縁や川岸に生育しています。
カワミドリの種子を取って栽培してみました。宿根草ながら意外と短命で、絶えず実生(みしょう)で更新しなければなりませんでした。背丈は1m程度に成長し、四角形をした茎の先に5~10cmの青色をした花穂を付けるのです。
このカワミドリという植物は、野生種ながら複合的な魅力があります。一つ目は、その姿と花の観賞。二つ目は、生薬としての利用。三つ目は、その香りです。日本では、カワミドリの別名を「排草香(はいそうこう)」とも呼び、香道や薫香(くんこう)にも使うそうです。カワミドリを見つけたら、上品で独特の芳香にうっとりしてほしいと思います。
次回は、ラテン語で「驚くべき」という学名が付いている植物のお話です。お楽しみに。