このシリーズも5回目を迎えました。そろそろフジバカマとは何か?という本題に入りたいところですが、まだ言葉上のフジバカマもどきがありますので、そちらを片付けておきましょう。

コノクリニウム属
キク科コノクリニウム(Conoclinium)属は、20世紀後半に分子分類体系の発達によってヒヨドリバナ属から分離した3種から構成されます。それらはすべて、北米から中米の湿地・乾燥地の原野に分布する宿根草で、この生態系では昆虫たちのよい蜜源植物として知られています。

コノクリニウム コエレスティヌム
コノクリニウム コエレスティヌムConoclinium coelestinumキク科コノクリニウム属。アメリカ合衆国の南東部(ニュージャージー州からフロリダ州)などの湿った草原や湿地に生える宿根草です。属名のConocliniumとは、「Con(円すい形)」+「clinium(伏せた)」で構成される合成語で、花序(かじょ)の形状を表します。種形容語のcoelestinumは、「空色の」という意味で、この植物の花色を意味しています。

コノクリニウム コエレスティヌムの和名を「アオイロフジバカマ」「セイヨウフジバカマ」「ヨウシュフジバカマ」さらには、「ユーパトリウム」といいます。過去にヒヨドリバナ属として分類されていたとはいえ、今では植物分類と矛盾する和名や通称名になっていますので注意しましょう。

秋の七草を全部覚えていなくても、平安貴族が歌に詠んだことから「フジバカマ(藤袴)」という植物名はあまりに有名です。日本に生えていないフジバカマに親近感を持ってもらうために「アオイロフジバカマ」などの流通名を付けたのですが、ヒヨドリバナ属の「藤袴」という植物の姿とはほど遠いものです。この植物に付けられた別名の「宿根アゲラタム」という和名の方がイメージに合います。

オオカッコウアザミ
オオカッコウアザミAgeratum houstonianum(アゲラタム ホウストニアナム)キク科アゲラタム属。園芸的にアゲラタムといえばこの種(しゅ)のことを指します。暑い夏に涼しげな青い花を咲かせるため、ガーデナーから好まれていたのですが、最近ではあまり見なくなったお花です。ヒヨドリバナ属との関連でいえば、頭状花序を傘形に付ける形状から、ヒヨドリバナ「連」に分類されています。「連」という言葉は、植物分類用語なのであまり聞き慣れていないと思います。

科に属する属(genus)がとても多く整理しきれない時に、科と属の中間に形状などの特徴から「連」=トライブ(Tribe)というくくりをもうけてグループ分けをする場合があります。キク科の場合、世界に190属2万5000種ほどが生息しているとされる双子葉植物としては最大の科です。その多様さから「連」だけでも50連と見積もられるのです。同じように多くの種属を持つマメ科も30連を越えて分類されています。
恐らく植物として最大の種を持つのはラン科と考えられているので双子葉植物というくくりをもうけした。

アゲラタム「トップブルー」
上の写真は、デンマークの郊外で撮影しました。サカタのタネが改良して「トップブルー」と名付けた品種です。このアゲラタムは、日本より海外で評価が高いようです。

熱い夏に涼しげな青を基調とした植え込みが目に留まりました。こちらもアゲラタム「トップブルー」を使った花壇植栽をデンマークのオーデンセで撮影したものです。アゲラタムは、水揚げがよいので切り花にも使えます。日本でももっと使ってほしい素材です。

オオカッコウアザミ
オオカッコウアザミの属名のAgeratumは、「a(否定の接頭語)」+「geras(古くなる)」で構成される合成語で、この青色の花が長く保たれることに由来します。種形容語のhoustonianumとは、18世紀中南米の植物を集めたスコットランドの医師、植物学者ウィリアム・ヒューストン(William Houstoun、1695~1733年)に由来します。彼は、ヒナソウ(Houstonia属)にも名を残していますが、ジャマイカで熱病にかかり38歳と若くして亡くなりました。

北米を起源とするヒヨドリバナ(Eupatorium)属ですが、近縁種のアゲラティナ(Ageratina)属はその東北部に分布し、コノクリニウム(Conoclinium)属は東南部に、そしてアゲラタム(Ageratum)属が中米のメキシコやホンジュラスなどに分布していました。このアゲラタム属のいくつかの種(しゅ)は、ヒヨドリバナ属を同じピロリジンアルカロイドを合成することも植物の進化や分類学の観点から興味深いです。
さて、ヒヨドリバナ属のフジバカマという植物とは何かという問いに対して、長い間旅をしてきました。そして、その内堀(ヒヨドリバナ属の別種)と外堀(フジバカマ関連の近縁種)を埋めてきました。いよいよフジバカマという本丸を攻めるころ合いです。次回もお楽しみに。