あんなに暑さが続いたのに、もうこんなに寒くなるなんて。一体、秋はどこに行ったのでしょう?
多くの花の時期は過ぎ去り、果実を楽しむころ合いです。フジバカマで訪れた水元公園では、何だかとてもユニークな果実を付ける植物がありました。

東京都立水元公園の面積は、約96ヘクタールもあり、東京都最大級の公園です。現在、年間来場者は約200万人で、広々としたとても人気のある公園です。
かつては、透明の水に小エビやタナゴなどが群れて、不思議な水中世界を持つ水郷でした。さまざまな生き物が大好きだった少年時代の私が、足繁く通った場所でもあります。

ため池の周りには大小の湿地があって、アシやガマも生えています。湿地は、水浸しで中に入ることはできませんが、そんな中央部に何やらツル性の植物が生い茂っているのが目に留まりました。

ゴキヅル
何だろうと目を凝らして見ると、一度育てたことがある植物で、葉を見ただけで分かりました。それはゴキヅルです。
皆さんは「ゴキヅル」という植物ご存じでしょうか?「ゴキブリ」ではありません。「ゴキヅル」です。珍しい植物の一つなので、ご存じでない方も多いでしょう。

ゴキヅルという妙な名前の説明です。複数の器を「合わせて」使うものを「合器(ごうき)」といいます。「合器」とは、僧侶が托鉢に用いる器です。また、修行僧が食事に使う器のことを「応量器(おうりょうき)」といいます。
僧侶に敬意をはらい、これらの器を「御器(ごき)」と呼ぶことがあります。ゴキヅルの「ゴキ」とは「御器」を意味しています。

ゴキヅルActinostemma tenerum(アクティノステンマ テネルム)ウリ科ゴキヅル属。ゴキヅルは、先述の通り、ふた付きの器を彷彿させるユニークな果実を付ける植物です。
この植物は、巻きひげを使って水辺のアシなどに絡みながら、2mほどのつるを伸ばし生育します。水元公園では他の植物が少ないので、ゴキヅル同士が折り重なってマウント状に繁茂している様子が見られました。

ゴキヅルは、夏から秋に5mmほどの小さな花を付けます。細く尖(とが)っている花弁は10枚に見えますが、実は5枚です。同じ色と形、大きさを持ったがく片が5枚あるからです。
属名のActinostemmaとは、ギリシャ語で「aktis(放射)」+「stemma(冠)」で構成された合成語です。

ゴキヅルの葉は互生に付き、矢じりのような形で先端が尖ります。細長い三角形で、葉の周辺が低い起伏状の鋸歯を持つものが多いと思います。
ゴキヅルの学名は、Actinostemma tenerumといいました。その種形容語のtenerumは、ラテン語で「繊細な」や「柔らかい」ことを意味し、その草勢を表しています。

ゴキヅルの茎葉や花は、私の興味を特に引くものではないのですが、この果実はとてもユニークで。、まるで緑のどんぐりのようです。私のような好事家たちは、大好きな果実の一つだと思います。
ゴキヅルの果実は、下垂して大きさは長さ2cm、幅1.2cmほど。上と下に割れるようになっていて、お茶碗とその蓋のようになっているのです。上蓋は色が濃く、イボ状の突起があります。下部分はつるつるしていて、装飾がありません。

果実が熟すと、蓋のような上部と下部が亀裂し、通常は大きな種子が出てきます。こうした果実を「蓋果(がいか)」といいますが、ゴキヅルが最も「蓋果」らしいと思います。
この種子を水に浮かべてみると、浮きました。ゴキヅルは、果実を付けると枯れる一年草です。ゴキヅルが湿地や浅く冠水した生育環境を選んだのは、次世代を水に乗せて旅をさせ、波及するためなのです。つまり、ゴキヅルには、水辺環境が必要不可欠なのです。

ゴキヅルは、日本では北海道から九州までの河川縁や湿地に点在する一年草です。物理的に脆弱(ぜいじゃく)で環境変化にも敏感なため、自然の豊かさを示す指標植物ともいえます。
皆さんのお近くに湿地や川淵があればゴキヅルが生えているか確認するのも楽しいかと思います。ぜひ探してみてください。
次回は、日本の原野や水辺に生えるスズメウリのお話です。お楽しみに。