前回の東アジア植物記でご紹介した『ゴキヅル』は、日本の原野にひっそりと生えるウリ科の野草です。私たちは日々、キュウリやカボチャなどの野菜を通じてウリ科に親しんでいますが、野生のウリ科に出会う機会はそう多くはありません。
ウリ科は世界の熱帯・亜熱帯を中心に広く分布し、その数は100属を超え、800種以上といわれています。多様な姿を持つこの植物群の中には、人類の歴史と深く結びついた特別な種(しゅ)も含まれています。
人類の起源はアフリカとされます。私たちは、そこから壮大な旅を経て、地球全域に広がっていきました。その旅に欠かせなかったのが「水」。水を運ぶためには入れ物が必要です。最初の水筒は、アフリカの原野にあったヒョウタンの果実だったのではないかと思います。

ヒョウタン
ヒョウタン(Lagenaria siceraria)は、ウリ科ユウガオ属の植物です。乾燥させたヒョウタンの果実は、軽くて丈夫で、水や酒を入れる器として古代から利用されてきました。属名のLagenariaはラテン語で「水差し」を意味し、種形容語のsicerariaは「発酵酒」を表します。学名そのものが、この果実が器としても使われていたことを物語っているのでした。

アフリカを起源とするウリ科は、大陸や人類の移動と共に世界各地に広がりました。アフリカの地から遠く、周辺部に当たる日本に自生する種は意外と少なく、私の調査では5属6種しか確認できませんでした。

前回のゴキヅルを探し、水元公園の水辺をさまよっている時に、先に見つけたのは意外な野生のウリでした。フィールドワークは思いもしない、さまざまな植物に出会える小さな旅。楽しくてしょうがありません。

スズメウリ
スズメウリZehneria japonica(ゼネリア ジャポニカ)ウリ科スズメウリ属。スズメウリ属の分類は、何度も見直され、Neoachmandra japonica(ネオアクマンドラ ジャポニカ)などの学名を経て、今に至ります。
属名のZehneriaとは、オーストリアの植物画家、ヨーゼフ・ツェナー(Joseph Zehner、1793~1868)にちなみ献名されたものです。彼は、東南アジアなどで収集された植物標本を元に植物画を描き植物学に貢献しました。種形容語のjaponicaは、「日本産」を表しますが、日本など東アジアと東南アジアなど広範囲に生息しています。

スズメウリなどを含むゼネリア(Zehneria)属は、ウリ科に属するつる性植物のグループです。ゼネリア属は、アフリカからアジア、オセアニアにかけて生息し、約35種が知られています。スズメウリは、日本の原野や水辺に生える一年草のつる植物でご覧のような小さな果実を付けます。

「スズメウリ」という名は、小さいことを揶揄(やゆ)して付けられたと思っていました。ところが、青い未熟な果実は、熟すと灰白色に変化するでありませんか。大きさは1.5~2cmで、まるでスズメのタマゴと同じ大きさです。私は 「スズメウリは、スズメのタマゴにちなんで名付けられた」という説に1票を投じます。

場所は変わり、上の写真は沖縄県北部のヤンバルの石灰岩地帯です。水辺や林縁を好むスズメウリに対して、水はけのよい石灰岩地帯を好むウリがあります。

オキナワスズメウリ
オキナワスズメウリDiplocyclos palmatus(ディプロキュクロス パルマータス)ウリ科オキナワスズメウリ属。オキナワスズメウリは、5m程度のつるを伸ばす亜熱帯性の一年草。ウリ科発祥の地、熱帯のアフリカから東南アジアを通り、鹿児島県トカラ列島に生息する野生のウリです。

オキナワスズメウリの属名Diplocyclosとは、「Diplo(二重の)」+「cyclos (環)」で構成される合成語で、果実の模様に由来すると考えられます。種形容語のpalmatusは、ラテン語で「てのひら状」を意味していて、右上の写真のようにこの植物の葉の形状を表します。

オキナワスズメウリの実は、2〜3cmとスズメウリより大型で、楕円(だえん)形です。未熟な果実は緑色ですが熟すと赤くなります。この果実がかわいらしいので、私は飾りに使うのですが、全草が有毒なので食用にはしないでください。このウリは、中国名を「毒瓜」といって、食すことを戒めていますので覚えておきましょう。
※よく分からない植物や有毒植物は、触れずに観賞しましょう。万が一、触れてしまった場合は、せっけんなどを使ってよく洗ってください。

オオスズメウリ(『Plant of Xi’an 秦嶺七十二峪[その4]』より)
この他には、スズメウリという名前の関係では、オオスズメウリThladiantha dubia(スラディアンタ デュビア)ウリ科オオスズメウリ属といって東アジアに原生するウリもあります。カラスウリ、キカラスウリ、ヘビウリとウリ科には動物の和名がついたウリがいくつかあります。これらのウリは以前、『Plant of Xi’an 秦嶺七十二峪[その4]』で紹介したので今回は割愛したいと思います。
もう少しウリの話しは、続きます。次回は、『ミヤマニガウリ』です。お楽しみに。