本来、ウリ科植物は熱帯を起源とするグループです。しかし、地球が温暖期を迎えた時代には、高緯度地域にまで進出した種(しゅ)もありました。その中には、ウリ科にとっては厳しい寒冷環境に適応したものもあります。

日本に広く分布するシラカンバ(白樺)Betula platyphylla var. japonicaカバノキ科カバノキ属は、東アジアの冷温帯から亜寒帯にかけて生育しています。今回紹介するのは、そんな「白樺の森」にも似合う、寒冷地に生息するウリ科の植物です。

ミヤマニガウリ
ミヤマニガウリSchizopepon bryoniaefolius(スキゾペポン ブリオニアエフォリウス)ウリ科ミヤマニガウリ属。属名のSchizopeponとは、ギリシャ語の「schizo(割れる)」+「pepon(メロン)」の合成語で構成され、熟すと割れるメロン状の果実を表します。

種形容語のbryoniaefoliusは、毒性が強いウリ科植物、ブリオニア(Bryonia)属の葉に似ていることを示す名前で、「Bryonia」+ 「folius(葉)」で構成される合成語です。ブリオニア属の植物は、日本に原生していません。

ミヤマニガウリは、サハリン(樺太)や東シベリアを北限とし、東アジア北部に広く分布しています。日本では、九州から本州の深山や亜高山帯の湿った林縁に生育し、里山には見られません。
温暖期には北方へ分布を広げ、寒冷に適応しましたが、さらなる寒冷期の到来によって、分布域を後退させました。その結果、本州では亜高山帯にのみ生き残り、現在は「遺存分布している」というわけです。

ミヤマニガウリは、他の植物に絡みついて成長しますが、観察していると、株が盛り上がりドーム状の構造を作っているのを見ることがあります。
夏から初秋にかけて花を咲かせる短日開花性ですが、寒冷地や亜高山帯では果実が霜にあたり寒害を受ける危険があります。そこで葉が温室のように覆い、大切な果実を守る工夫なのだと思います。

またミヤマニガウリは、とてもまれな花の付け方をします。上の写真は、果実と両性花を付ける様子を撮影しました。この株は、雌花を葉腋(ようえき)に単生するか、雌雄両性がある花序(かじょ)を作ります。

一方で、上の写真は、ミヤマニガウリの雄株の花序です。雄花だけを咲かせています。
カボチャ、メロン、スイカ、キュウリなどは、同じ株で雄花、雌花が咲きます。雌雄異花というウリ科によくある現象です。また、同じウリ科のカラスウリなどは、雌雄異株といって雌株と雄株が別々です。

そしてミヤマニガウリは、雄花だけを咲かせる雄株と、雄花と雌花を両方咲かせる両性株があります。その花の付け方※は、「雄性両全性異株(androdioecy)」といわれ、極めてまれな植物の性なのです。
※このような、雌雄の花のさまざまな付け方を、学術的には「性表現」といいます。

アンドロディオエシー(androdioecy)とは、難しい植物学的用語でギリシャ語の「andro(男性)」+「dioecy(雌雄異株)」で構成される用語です。この世に30万種といわれる植物種の中で、この性表現を持つ植物は、約0.00016%しかないと推定されています。それほど、極めて希少な性表現なのです。

ミヤマニガウリは、ウリ科の北限分布種だと思います。葉で果実を寒さから守る工夫を持ち、さらに世界的にもまれな雄性両全性異株という性表現を示します。
それは、寒冷地、亜高山帯というウリ科にとって厳しい環境条件の中で「どうすれば生き残る事ができるのか?」といろいろ試してみた結果なのだと思います。植物の進化の過程を少し垣間見ることができたような気がします。
次回は、中国南部の野生ウリのお話です。お楽しみに。